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死神ジャックと迷子のウィル

作者: 十奥海

 世界にはたくさんの神々が存在する。

 水の神、火の神、雷の神、風の神、創造の神、恋愛の神。

 誰もが、人々に信仰されてそれぞれの象徴として祭られていました。だから、神は力を発揮して火を起こし、水をもたらし、雷を落としたりする。

 だが一人、誰にも祭られること無く、寂しく仕事を全うする神が存在しました。

 『死の神』です。

 彼は誰にも信仰されることはありません。『死』とは人間にとって『恐怖』の感情しか与えないのだから。

 彼の名は『ジャック』

 人知れず、誰とも会話もせずに人間の命を、その命を刈り取るために用意された『鎌』で人間をあの世へと送り続けていた。


 一人寂しく・・・


 ジャックも分かっていたんだ。自分の仕事が誰にも褒めてもらえる仕事ではない事を。

 だから、孤独は自分にとって当たり前のことで、『我慢しなければならない』ことなんだと


 11月31日

 今日もジャックは、鎌を片手に誰かの死を待って森を彷徨っていました。

 そこに、一つの鬼火がゆらゆらと現れました。

 『鬼火』とは、この世に『未練』を残した魂が揺らめく炎として現れる一種の亡霊です。

 ジャックにとって亡霊とは、あの世へきちんと送らなければならない存在。

 さて、仕事が舞い降りてきた。

 ジャックは鎌を構えて鬼火へと近づく。

 すると、鬼火が言ってきました。

「こんにちは、僕はウィル」

 驚くことに、死神を前にして鬼火は挨拶をして自己紹介までするではないですか。

 今まで、刈ってきた魂たちはジャックを前にすると「死にたくない!」「消えろ!」などと、暴言を吐いていたのでジャックはビックリ。

「こ、こんにちは、俺は死神のジャックだ。君の命をあの世へと送りに来た者だ」

「へぇ~、ジャックって言うんだ。僕ね、まだこの世界でやりたいことがあるんだ!」

 今までの魂と全く違ってウィルはジャックにお願い事をしてきました。

 ジャックも、真正面からお願い事をされるのは初めてで驚きを隠せない。

 何より、自分に興味を持ってもらうことなど初めてでジャックにとっては嬉しくてたまらなかったのです。

 嬉しくなったジャックは、ウィルの願い事を聞いてあげたいと思い

「やりたいこと?それは俺にもできることなのか?」

 とウィルに聞き返す。

「僕ね、『お菓子』って言うモノを食べたことがないんだ。噂によると、それはすっごく甘くてお口がとろけちゃうような食べ物なんだって!だから、お菓子を食べたいの!」

 ウィルは無邪気にまだ見ぬお菓子という未知の食べ物に目を輝かせて語りだしていた。

 ジャックは、もともと死の『神』。神は食事をせずとも生きていける存在でジャックもお菓子を食べたことがありませんでした。

 ですが、無邪気に話すウィルの姿を見るとそれはそれはおいしいモノなのだろうとジャックにも好奇心が沸いてきました。

「それは、どうすれば食べられるんだウィル?」

「うんとね、よく分からないんだけど、ここからすぐそこの村に行くとお菓子を持ってる人がいるんだって。でも、僕は鬼火だから人里に近づけなくてどうすればいいのか分からないんだ」

「なるほど・・・・」

「・・・・」

 二人はどうしようもなく黙り込んでしまいました。

 お菓子という未知の食べ物に心躍らせるウィルと、何とか願いを叶えてあげたいジャック。

 二人は悩んだ末に、ジャックがとある提案を出しました。

「俺たちが人間に化けて、そのお菓子ってモノを脅してもらうって言うのはどうだ?」

「う~ん、村の人を脅すのはだめだよ。村の人がかわいそうでしょ」

「そうか・・・」

 心優しいウィルは人間を脅すことを許してはくれなかった。

 また、悩んでしまう二人。

「そうだ!」

 そう一言残して、ウィルは何処かへふよふよと何かを探しに行ってしまいました。

「おい、ウィル!どこに行くんだ!」

 不安になる、ジャック。

 だが、もうジャックはウィルの魂を刈り取ることなど考えていなかった。

 不安なのは、『ウィルの安否』だったのです。

 ジャックは焦って追いかけ、たどり着いた先には、かぼちゃとランタンが用意されていました。

 かぼちゃには顔に似せて実がくり貫かれていて、ランタンにはウィルが入っていた。

「僕がランタンをするからジャックは、このかぼちゃを被って人間に『トリック・オア・トリート!』って言うんだ。そうすれば、きっとお菓子がもらえるよ!」

 『トリック・オア・トリート』つまりは、『お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ』という意味です。

 これなら、人間に恐怖を与えずにお菓子がもらえるかもしれない。

 何より、死神の姿をしたジャックがかぼちゃで顔を隠すことによって、人間からの恐怖心をなくすことができる。

 これならいける。そう二人は思いました。

「『トリック・オア・トリート』か。うん、やってみよう。俺もがんばってみるよ」

 ウィルの願い事を聞いてあげたいと言う想いと、お菓子を食べてみたいと言う想いも重なって俄然やる気が起きるジャック。

 いざ、村へと向かう二人。


(((△w△)


 コンコン

 村に入ってすぐの一軒の家にノックをするジャック。

 ガチャン

「はい、どちら様でしょう」

 玄関から現れたのは、ここの家の奥様と言った感じの人が現れました。

「ト、トリック・オア・トリートォ!」

 生まれてから何百年という歳月を経て初めて口にする人間と会話するための言葉。

 どんな喋り方をすれば良いのか分からずに、声が裏返ってしまったジャック。

 そんなジャックからは、もじもじとして愛らしい雰囲気をかもしだしていました。

「ぷっふふ、どちらのお子様でしょうか?でも、ごめんなさいね。今日はお菓子を持っていないのよ」

 勇気を出して人間に話しかけたが残念なことに一軒目の家にはお菓子がありませんでした。

 ですが、どうやらジャックが死神であることも、ウィルが鬼火であることも全く気づく様子がありません。

 作戦は大成功。と、言いたいところだがお菓子を貰えなかったので及第点と言った具合だろうか。

「そうですか・・・」

「そうだ、ここから三軒隣に行った家で今日はかぼちゃが大量に収穫ができたからってお菓子を作ってたわよ。そこに、行ってみたらいかがかしら?」

 なんと一軒目にして思わぬ情報を得ることができました。

 三軒隣の家に行けばお菓子が手に入る。そう、分かった瞬間少し光を強くするウィル。ここで、鬼火ということがばれては危ない。

 そう思いジャックは、

「本当ですか!では、そちらに行けばもらえるんですね!ありがとうございます!」

 ダダダダダ

 早急にその場から立ち去って鬼火だとばれないように去っていった。


 1,2,3軒目

 家の前には、余り過ぎたのかかぼちゃがたくさん置いてある。

 本当に大収穫でかぼちゃが有り余っているようです。これは、もしかするともらえるかもしれない。期待は高まる一方です。

 コンコン

「・・・・・・・・・・・」

 返事がありません。

 確認のためにもう一度

 コンコン

「・・・・・・・・・・・」

 どうやら誰も居ない様です。

「なんだ・・・誰も居ないじゃないか」

「がんばってジャック!」

 落ち込みかけたジャックに、ウィルが励ましてくれる。

 初めて人のために動くことをするジャックには、なんとか成し遂げたいという思いが募り俄然やる気が戻ってきて

「うん!こうなったらたくさんの家に回るしかないね!」

「がんばろー!」

 陽気なウィルもまたやる気に満ち溢れていました。


(((△w△)


 それから、たくさんの家で

「トリック・オア・トリート!」

 と、言って回ったジャック。

 だが、どの家にもお菓子は無くもうあきらめ掛けていました。

「・・・やっぱり、お菓子って言うのは珍しい食べ物なんだろうか。ごめんねウィル」

 もう、村の大体の家を回って疲れ果てたジャックは、村の隅っこに行って休んでいました。

 刻々と時間だけが過ぎていく。

 そこで、ジャックは寂しそうに喋りだしました。

「ウィル・・・鬼火はね。一日経つと俺からあの世へ送って上げられなくなっちゃうんだ。一日経つと、君はあの世でもこの世でもない場所に消えてしまう。だから・・・」

 そこから先の言葉を言おうにも、友達をあの世でもこの世でもない場所に行ってしまうのは辛い。できるなら、今すぐにでもあの世へとちゃんと送ってあげたいのだが、お菓子は手に入らない。

 ジャックは行き詰ってしまいました。

「・・・ジャック。ありがとう」

「俺はまだ何もしてあげてない!」

 ウィルのために何かしてあげたいのに何もできない自分にいらだってつい声を荒げてしまうジャック。

「・・・・」

 沈黙が二人を支配しました。

 するとそこに、ふらりと一人の少女がやってきました。

「あら、あなたが噂のかぼちゃさん?大丈夫?元気がないわよ?」

「ん?俺は、ただお菓子という食べ物を求めてるだけで・・・ごめんなさい。俺はこれで森に帰り」

 誰かに優しくされるなんてことはされたことが無いから、なんだか気恥ずかしくて森に帰ろうとするジャック。

 だが、それを聞いた少女はにっこりと笑って言いました

「ちょうど良かったわ。今日ね、かぼちゃの収穫をしたのだけど、たくさん収穫できちゃって、かぼちゃパイが余っちゃったのよ。それで皆に配って回ってたの。あなたにも一つ分けてあげるわ」

 なんと、少女は最初に教えてもらった、かぼちゃでお菓子を作ったという家の人だったのです。

 少女は、袋からかぼちゃパイを取り出しそれを差し出していた。

「こ、これがお菓子、ですか?・・・食べたことは無いですが、おいしそうですね」

 ジャックはかぼちゃパイを受け取って涙を流していました。でも、少女にはジャックの涙は見えません。かぼちゃの帽子を被って顔が見えないからです。

「あら、嬉しいわ。また、食べたくなったらいつでも私に言ってね。あなたのために作ってあげるわ。で、あなたのお名前は?」

 ジャックは、自分の名前をそのまま言おうか少し迷ったが、しばらく考えてこう言いました。

「『ジャック・オ・ランタン』です。あ、あの、ありがとうございます。これを食べさせたい人が居るので俺は失礼させてもらいます」

「あら、それは大変ね。今度は、そのお菓子を食べたい子も一緒に会えるといいわね。じゃ、さようなら、ジャック・オ・ランタンさん」

 少女は微笑みながら走り去っていくジャックを見送っていました。


(((;△w△)


 ジャックはスキップまでして、うきうき気分で森に帰ってきました。

 そこでウィルを、ランタンから出して

「さ、これがお菓子だって!ウィルが全部食べていいよ!」

 ウィルの前に先ほど貰った、かぼちゃパイを広げて食事の準備が完了しました。

 ですが、かぼちゃパイ(お菓子)を目の前にしたウィルは、ボーっとそれを見つめるだけで食べようとする気配がありません。

「わー!おいしそうだねー・・・・」

 様子がおかしいウィル。それを察したジャックは

「どうしたの?これがお菓子だよ?食べないの?」

「・・・・僕はね、『鬼火』なんだ・・・だから口が無いんだ」

 はっと気づくジャック。どうすれば良いのか分からずにおどおどしてしまい戸惑ってしまいました。

「僕はね、食べなくていいよ。僕はジャックが食べたのを見れればいいよ!」

 元気に話すウィル。だが何処か寂しそうな表情を見せる。

「ダメだよ!俺はウィルのためにお菓子を探してたんだから。ウィルに食べてもらいたいんだけど・・・」

 どうやっても、食べてもらえないのはジャックも理解している。だけど、頭で理解していても、心が理解してくれない。

 初めての友達に、喜んでもらいたい、それだけがジャックの気持ちだった。

「その代わり、どんだけおいしかったのか僕に教えて。それで、僕はいいよ」

 しばらく、考え込んでしまうジャック。

 どうしようもなくなって、出した答えは

「ほ、本当に僕が食べていいの?」

「うん!」

 まだ迷っているが、答えはそれしかなかった。

 かぼちゃパイを一切れ取って

「じゃぁ、いただきます」

「召し上がれ」

 ジャックがかぼちゃパイを食べる様子を、わくわくした瞳で見るウィル。まるで、自分が食べるかのようにわくわくしていました。

 パク

 モグモグモグ

 初めて口にするお菓子。

 その味はウィルの言っていた通り、甘くて口がとろけそうになって、かぼちゃの風味が漂っていてさっきまで被っていたかぼちゃを思い出させる懐かしい味でした。

 ポロリ

 ふとジャックの顔を見ると、涙が流れていました。

「おいしいよ。うん、すっごくおいしいよ!甘くてお口の中がとろけそうで・・・ウィルにも食べてもらいたいよ」

「えへへ、本当におしいんだね。これで僕も心残りがなくなっちゃったな」

 鬼火とは、この世に『未練』を残した一種の亡霊です。

 『未練』をなくしたウィルはどんどんと光が薄くなっていっていました。

「ウィル!」

「もう、お別れなんだねジャック。今日は本当に楽しかったよ。ジャックと出会って、村の人たちとお話しして、お菓子をジャックが食べれて、本当に楽しかった」

「俺もすっごく楽しかったよ。もっとウィルと一緒に居たいけど、鬼火の光が消えそうになってるってことは、ウィルは納得できたって事なのかな。今度生まれ変わるときは、いっぱいお菓子が食べられるといいね」

「うん・・・本当にありがとうジャック。また、どこかで会えたら仲良くできると良いね」

 そうにっこり笑うウィル、徐々に徐々にうっすらと消えかかっていくその姿はもう、ちょっと風が吹いただけで消えそうな火になっていました。

「俺も、ウィルに会えて楽しかったし・・・う、うわーーん」

 ジャックの目からはあふれんばかりの涙が零れ落ちていました。

 今日一日だけではあったが、今までの死神としての生き方とは全く異なった、楽しい思い出を手に入れることができて、それが今終わろうとしている事実に耐え切れずに。

「さようなら・・・元気でね」

 すーーー

 そう一言残してウィルは消えてしまいました。

 ポロリポロリと滴る涙はウィルの居た場所に落ちていく。

 でも、もう一人じゃない。

 ジャックには、友達ができたんだからまた何処かで出会えるかもしれない。

 そう思い泣き止む。

「ウィル・・・このお菓子は君のものだよ」

 ジャックは、かぼちゃパイをウィルの居た場所に置いて、また仕事に戻るのでした。

 その、ジャックの腰には火の灯っていないランタンがずっと持ち歩かれていました。


 村ではその日を「ハローウィーン」と呼ばれ、ランタンを持ち、かぼちゃを被った子供が家を訪問して回る日として語り継がれて行ったとか・・・

うまくまとめられていない気がする今日この頃

子供にはちょっと荷が重い話であると思うのは気のせいです・・・です

ちなみに(((△w△)←これはジャックランタンを模した、時間が経過するときに使う罫線みたいなものです

ジャックランタンに見えなかったあなたは童心が足りないのです・・・嘘です

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