第六話 屈辱
「ガアァァァァァァ!!」
金髪の女の横にいた大男が咆(ほ)える。
そしてそれと同時に地面が踏み砕かれ、大男がオレの懐くらいまで入ってくる。
「・・・っ!?」
オレはそれに反応しきれず、ギリギリでガードをする。
「・・・がっ・・・!?」
しかし、大男の力は予想以上に強く、オレは壁まで殴り飛ばされてしまった。
「口だけね。・・・その子を連れて行くわよ」
あの女の声が聞こえる。
「勝手に殺すな、クソ女・・・!アリスを返せ!」
オレは先ほどの衝撃で打った頭を押さえながら立ち上がった。
「実力が無いのに喚くなんて子供と同じよ」
「五月蝿い!なら力ずくでやるまでだ!」
オレは踏み込んで大男の右腹らへんを全力で蹴る。
「・・・ちっ!硬いな!」
大男の体は凄まじく硬く、オレの蹴りでビクともしない。
・・・ならーーーー
「オォォォォッッ!!」
ーーー出力を上げるだけだ。
「えっ・・・!?」
大男はオレに蹴り飛ばされ、女はそれに驚く。
「・・・ん、この強さで行けば大丈夫だな」
手を閉じたり開いたりしながら確認する。
・・・・・オレがなにをしたか・・・。
それは実に単純な事だ。
ただいつもの平常時より力を引き出しただけだ。
それもアンデッドであるオレの能力の一部だったりする。
・・・というか、アンデッドの大部分はこの力が使えるはずなのだが。
「どうした?オレには実力が無いんじゃなかったのか?」
「くっ・・・・!契約執行よプライド!!ソイツを肉塊にしなさい!」
その瞬間女の手が赤く光り、プライドと呼ばれた大男の体も同様に赤く光る。
「■■■■■■■!!」
その叫びは既に声と呼べるものでは無かった。
「・・・なっ!?」
そして、大男の力が格段に、まるで先程とは別人のように変わる。
「くっ・・・・!」
オレも出力を上げて対抗するが、徐々に押されて行く。
・・・・しかし、そんな時に気づいた事があった。
アリスを今なら奪い返せる・・・。
そう思ったオレは大男の攻撃をいなし、アリスの所に走る。
そして、それに気付いたら女は大男に向けて叫んだ。
「プライド!!彼を捕まえなさい!」
そして、今度は足が光る大男。
「・・・っ!逃げるぞ!」
アリスを抱えて足の力を全力まで引き出す。
「逃がさないわよ!」
向かってくる先程よりも早い拳を避けて全力で跳躍する。
その高さはおよそ数十メートルくらいだ。
・・・流石にあの大男もこの高さまでは跳躍出来ないらしい。
「よし、これなら逃げきれるな」
建物の上を跳躍しながらオレはどんどん先に進んで行く。
・・・そして、数分後。
やっと敵の姿が見えなくなったオレは、敵から逃げれた安堵とともに、言いようのない屈辱感を味わっていた。
「・・・・くそっ、なんなんだよいったい・・・・」
それは、自らが守ると言ったくせに結局のところ、逃げるだけで全く守れていない事が主な原因だ。
次も、あの女達はアリスを狙うだろう。
・・・しかし、今のオレではそれを守りきれはしない。
契約。
それをアリスにしてもらうしか術は無いのだろうか・・・・。
オレは、気絶しているアリスをオレの寮内に連れて行きながらそう考えるのだった・・・。