第二話 部活
・・・・その翌日。
アレから何事もなかったかのように接するアリスを他所に、オレはある危機に陥っていた・・・。
「うーん・・・」
「何だ黒兎。まだ部活も決まっていなかったのか?」
・・・そう。部活だ。
そして、部活動の入部届けは明日までなのだ。
例えば、部活に入るのは自由とかならば、部活に入らなくても何とも無いのだが、残念ながら高等部からは部活が強制になる。
・・・よって、オレは焦っているのだ。
「アリシアはどうなんだよ?」
「ふふん。私は真剣部だ」
そうやってどや顔をするアリシアに殺意を覚えるが、何とか抑え込む。
・・・真剣部。
確か、見学で一度見に行った事があるが、刃を潰していない刀や剣を使って斬り合う部活だった気がする。
・・・・危ない部活だな。
「そっか。・・・・愁はどうだ?」
何時の間にか愁とその横に見知った幼女が来ていた。
・・・幼女が聞いてほしそうにしてるな。
「・・・・俺かよ」
あえて幼女には聞かずに愁に聞くオレ。
愁はそれに少し意外そうにし、横の幼女は残念そうにしていた。
「・・・まあいっか。俺は軽音楽部だ」
「うわ・・・意外」
「いや、意外ではないだろう。チャラそうな見た目をしているしな」
割とバッサリ切るアリシア。
「あははは・・・」
それを聞いて愁は苦笑いをしていた。
「むしろ茶髪を肩くらいまで伸ばして、顔付きからしてそれっぽい男をチャラく無いなど言うか?どうだ黒兎?」
「そ、そうだな・・・確かにチャラいな」
つい本音で言ってしまうオレ。
・・・いや、しょうが無いんだよコレは。
・・・ってか、幼女よ。
そんなにソワソワするな。
「・・・まあ、参考になったわ。お前らでも部活もう入ってんだな」
オレはあえてそれをスルーしてまた入部届けに目を通し始めた。
「うーん・・・、どうしよ」
「えっ、え~?まさかのスルー?私はぶかれた感じなの?」
幼女の声が聞こえるが、全力で無視する。
「おーい、くろちー?」
奇妙なあだ名でオレを呼んでくる幼女だが、それもまた無視する。
「くっろちー?・・・黒兎さーん?・・・黒兎様~?」
色々名前を変えて呼んでくる。
どれだけこの幼女は部活を聞かれたいのだろうか?
「・・・・むう。なんでそんなに無視するの!?」
・・・・良い加減可哀想になってきたな。
「どうした幼女?」
「幼女じゃないもん!・・・ほらね、私にも聞く事あるでしょ?」
・・・・下手な誘導の仕方だな。
「あー・・・、身長伸びたんじゃないか?」
あえて違う事を聞いてみた。
「そうそう、1ミリ伸びたんだよ~。よく気づいたねくろちー。・・・・って、違うよっ!?」
・・・・1ミリって、身長伸びるの止まったんじゃないだろうか?
「え?他に何を聞けと?」
「それは・・・ね?あるでしょ、さっきのとか」
・・・・ホントにどれだけこの幼女は部活の事を聞かれたいのだろうか?
・・・・因みに、この幼女の名前はレミリア・アーリマン。
身長は確か140cm。オレが173cmだから、30cm以上の差がある。
見た目は藍色の腰より下まで伸びるロングヘア。
さらには童顔、貧乳という完全ロリ体型。
そのせいか、一部のロリコンに暑い眼差しを向けられているが、気付かないという鈍感さを持った魔女だ。
「んー、あー・・・・、彼女いるか?」
「うん、いないかな。・・・って、なんで彼女!?おまけに質問も違うよ!」
まさかの二段ツッコミである。
・・・・なんか、いい加減可哀想だな。
涙目になってるし。
「あー・・・すまんレミ。部活は何に入ってるんだ?」
「入ってないよ!」
「・・・・ん?すまん、オレの耳がおかしくなったようだ。もう一度頼む」
「入ってないよ!」
・・・・なんだろう。
この幼女はっ倒したい。無性にだ。
「・・・・レミ。ちょっと表出ようか?」
「な、なんでっ!?」
拳を握りながら笑うオレと怯えるレミ。
・・・端から見たら完全にイジメの現場である。
「レミ・・・・聞いてほしそうにしてたのに部活入ってないってどういう事だ。言ってみろオラ」
「う、うう・・・・。で、でも入ろうとしてる部活はあるんだよ!」
「魔術部とかだろどうせ」
魔女だからという安易な理由で決めるオレ。
「違うもん!娯楽研究部って部活だもん!」
「・・・・なんだそりゃ」
「わかんない!けど、名前とか楽しそうだし入ってみようかな~って」
・・・・なんだろう。
この典型的なバカの思考は。
・・・・コレで300年生きている魔女らしいのだから、世の中不思議である。
「ふーん、それじゃ部活入ってくりゃいいんじゃねえか?」
「一人じゃ入りにくいの!だから・・・・一緒に着いてきてくださいっ!」
・・・・・何だそりゃ。
横にいるアリシアと愁の二人も苦笑いと乾いた笑いを洩(も)らしていた。
「嫌」
それをスッパリ切るオレ。
「・・・・う~っ!酷いよあーちゃん!くろちーが虐めるよ!
」
「あー・・・、その・・・・なんだ?付いて行ってやったらどうだ?」
・・・なんか今、アリシアの副音声的なもので「子供のお守りくらいしても構わないだろう?」と聞こえてきた気がした。
「・・・・・・はぁ。仕方ねーな。着いてってやるよ」
オレは渋々レミについて行く事にしたのだった。