心理テストを出したら質問攻めされるはめになった
雑誌を読んでたら、なかなか面白い心理テストを仕入れることができた。
誰かに出題してみたいな……。そうだ、あいつにしよう。あいつとはまだ付き合いも短いし、どういう性格してるか掴み切れてないから、ちょうどいいや。
というわけで、さっそく……。
「なあ、面白い心理テストがあったからやってみないか?」
「心理テスト?」
ここで聞き返されるとは。心理テストそのものをあまりやったことがないのかな。
「簡単な質問をして、答えによってその人がどんな人間か診断する、みたいなテストさ」
「まあいいけど」
「じゃあ……『あなたは大切な人と一緒にいます。目の前には牙をむいたライオンがいます。どうしますか?』」
色々な答え方があると思う。
オーソドックスなのは、ライオンに立ち向かって大切な人を逃がすとか、一緒に逃げようとするとか、そういう答えだろうな。
逆に、自分だけ逃げるとか、大切な人を囮にするとか、自分ファーストな答えをする人もいそうだ。
中にはもっと特殊な……たとえば『大切な人と一緒に食われるなら本望』『ライオンが好きだから、人間を二人食べさせることができて嬉しい』なんて答えもあるかもしれない。だいぶホラーだけど。
ちなみに俺だったら、ライオンと目を合わせて大切な人と一緒にじりじり距離を取る、なんて回答をする。こういう答えは“現実的で冷静な人”みたいな結果になった。当たってるかというと微妙だけど、心理テストってこういうもんだしな。
すると――
「大切な人って誰だよ」
「え……」
「大切な人にも色々あるじゃん。親兄弟? 恋人? それとも友達? 恩師なんて人もいるかもな」
「ん~、そこは問題文に書いてなくてさ」
「だったら答えられないだろ、こんなの。大切な人ったってピンキリなんだからさ。しっかり定義してくれないと」
そこ定義しちゃうとただの質問になって、心理テストにならない気もするが、定義しないと話が先に進まなさそうだ。
「えーと……じゃあ、親で」
「親? どっち。父親? 母親?」
「じゃあ、母親で」
「母親か。うーん……」
さあ、どんな答えが返ってくるだろうか。
母を守るか、見捨てるか、もっと違う回答か。
「ちょっと待って。ライオンって言ってるけど、オス? メス? どっち?」
「えっ、そこ重要?」
「重要だよ。人間に男女差があるように、ライオンだってオスメスによる違いはある。そこはっきりさせてくれないと」
雑誌の挿絵には、たてがみつきのライオンが描いてあった。つまり――
「オスかな。オスライオン」
「ライオンの年は?」
「年?」
「子供か、大人か、老齢か。それによって対処も変わってくるだろ」
そんなの聞くまでもないだろと思ったけど、ぐっとこらえる。
「大人だよ。立派な大人ライオンが牙をむいてるってことで頼む」
「大人か……」
真剣に考えている。
ていうか、これがもし子ライオンだったら大して怖い存在じゃなくなるから、設問そのものが崩壊してしまう気がする。
「種類は?」
「しゅ、種類?」
「ライオンにも種類があるだろ。アフリカにいる奴とか、インドにいる奴とか」
「えーと、じゃあアフリカで」
「アフリカのライオンね。ああ、あと肝心なこと聞き忘れてた。俺と母親がいる場所は? どんな場所を想定してる?」
「場所って言われても……」
「動物園とか、サバンナとか色々あるじゃん」
分からんけど、動物園ってことはないはず。こういう心理テストは野生のライオンを想定してるはずだ。
「サバンナ……かな」
「つまり、俺は母親と一緒にサバンナで大人のオスライオンに出会っちゃったと」
「まあ、そういうこと」
これでようやく答えを聞かせてもらえる……と思ったら。
「なんで俺がそんなことになってんだよ」
「えっ……」
「俺は母親連れてサバンナ旅行なんて絶対行かないし、百歩譲って行ったとしても、サバンナを無防備に歩き回ったりしないし、車を借りてガイドぐらいつける。状況があり得なさすぎる。こんなので、人の心理をどうとか診断できるわけないじゃん」
「そりゃま、そうかもしれんけど」
「なんで俺はサバンナにいるんだ? せめてその設定はしっかりしてくれないと」
「ん~、じゃあ突然ワープしちゃったってのはどうだ?」
「ワープ? どういう理由で? 魔法的なワープ? それとも科学的なワープ?」
「えぇと……科学的なワープ」
「ってことは、今の科学力じゃワープなんか無理だから、この設問の時代は今よりずっと未来ってことになるよな」
「まあ、そうなる、かな」
「じゃあ、なんで現代人である俺と母親がそんな未来にいるんだよ。しかも、そんな未来だったら、サバンナのライオンなんて絶滅してそうなもんだけどな」
「そこは科学力でなんとかなったんじゃないか?」
「そんな科学力があるなら、この問題自体成り立たないだろ。目の前には牙をむいたライオンがいる。だったら優れた科学力で大人しくさせればいい、で終わりだ」
「まあね……」
「定義も設定も何もかも曖昧だし、いきなりライオンがどうのってのもシュールすぎる。これでいったい何が分かるの? こんなので“心理テスト”なんて大層な名前を名乗っていいの?」
「いや、ホント……その通りだわ」
これ以上問答しても仕方ないし、俺はついに折れることにした。
「ごめん……出来の悪い心理テスト出して悪かった。この話はもう終わりにしよう」
「そうか。じゃあ終わりってことで」
「うん」
さすが心理テストだ。こいつがどういう人間なのか、とてもよく分かった。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。




