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8.事件解決につき就活はじめます

 私と吉沢さん、そして淀川の3人は元会社の近くの喫茶店に入りました。アイスコーヒーが届く前に、吉沢さんは名刺を取り出し、裏を見せ、早く手を打たないと命に関わると淀川を脅して、あっという間に話をさせることに成功しました。さすがです。私もこの技を習得したい、心から思う田中桃華です。



 私の元会社、潰れたというか、買い取ってもらえたらしく、オーナーが変わったことによって少しずつあんな怪しい事務所になったそうです。そして、ほとんどの人が転職していく中、辞めずに残った元社員には占いや呪いの呼び込みをさせていたそうです。

 そして、みなさん体調やメンタルを崩して淀川だけが残ったとのことです。図太い人は強いですね。

 しかしその淀川もそろそろまいってきているようです。私にすら言い負けそうになってましたからね。



「で、宝石を買わせてそれに動物の生き血をかける呪いを教えたというわけか?」

 所長が少し強めに出ています。淀川のようなタイプにはそれが効くとこの短時間で判断したのでしょう。さすがです!上にヘコヘコ下にパワハラの淀川ですから。


「そんなことさせたのは今回が初めてだと思う。あの旦那の方の嫁が金持ちの娘らしく、金が取れると踏んだんだろう」

「ルビーを高値で売りたかったってだけで、デタラメを言ったわけか」

「信じられません!そのために猫ちゃんを7匹も!!」

 私は叫んでいました。ついでに淀川のおしぼりを顔に向けて吹っ飛ばしてやりました。ちょっとキラキラしてます。感謝してください。少し浄化されましたよ。


 私のそんな大声を聞くのも初めてのことだったのでしょう。加えて、少し浄化されて体が軽くなって訳のわからなくなっていた淀川は、聞かれたことに全部答えるAIのようになっていました。



 新オーナー滝野川龍宝は普段は普通の詐欺師寄りの占い師。古美術の鑑定をして、これは呪いが込められているとか言って除霊のお金をもらっているそうです。

 そして、占い。とにかく何かを売りつけることが多いのですが、完全に嘘ばかりではなく、元々少し霊感のある人だそうで、これに関しては信じるものは救われるということもあるので、なんとも言えません。


 不倫カップルが来た時、初めは普通に2人の将来について聞きに来ていたそうです。淀川の勧誘で。

 適当に上手くいきますよとか言っている中、その旦那さんの奥さんが資産家の娘と聞いて閃いたのだと思う、と淀川は言っていました。急に呪い殺すことができる、証拠は残らないなんて言い出したそうです。

 淀川はそこから先は外に出されてしまったので、どのように呪いをかけるのかは知らなかったとのこと。でもその数日後から、淀川も滝野川もどんどん体調が悪くなっていったそうです。


「俺は見てないけど、どんな感じだったの」

 所長が私に聞きました。

「はい。滝野川龍宝さんは全身血だらけです。足腰がかなり弱ってきています。愛人さんは相変わらず3匹連れていましたが、他者への攻撃性が上がってきているようでした」

「な、なにを言ってる?田中お前本当に霊感持ちなのか」

 淀川のことは無視して話を続けます。

「すごく気になることがあるんだけど」

「はい。わかります」

 私は頷きました。


「1匹足りないんです」


 愛人さんは「7日血をかけた」とおっしゃいました。つまり7匹の動物が犠牲になっているはずです。でも、小嶋俊樹さんと愛人さんは3匹ずつ猫を連れていました。あと1匹はどうしているのでしょう。

 そもそも、そんな血生臭いネックレスを奥様もよくつけていますよね。肩が凝るくらいで済んでいるのが凄いです。跳ね返すパワーの強いタイプなんでしょうかね。


 所長は言いました。

「不倫相手の身元も判明して、奥さんに報告済みだ。あとは弁護士の仕事だな」

「何をしてる方だったんですか?」

「本人はただのキャバ嬢だけど、実家住みで、家族が保護猫活動に熱心な家だとわかってる」

「まさかそこの猫ちゃんを……」

「とりあえず奥さんのネックレスは外すように言ってある」

「不倫の証拠は揃ったということで、もう浄化しても構わないんですよね?」

「……本人たちに確認してからだ」


 もう聞くことはないし、2度と会うこともないでしょう。私は淀川に聖なる波動を送ってあげてから別れました。とにかくビビっていた彼はもう2度と私を見かけても話しかけてこないと思います。さようなら。お元気で。



 私と吉沢さんは、吉沢さんもよく視える夜になってから、小嶋俊樹さんと不倫相手の古林紀香さんを事務所に呼び出しました。

 呪いと不倫がバレているのでもうすぐ訴えられますよと言ったらすぐにやってきました。


 紀香さんは完全に不貞腐れています。憑いている猫たちも暴れ回っています。俊樹さんはしょぼくれていました。もうすぐ家を追い出されるでしょうし、呪われていますから突然ですね。


 所長は名刺を出し、裏側を見せて、

「で、どうしますか?あなたたち完全に呪われていますが」

 と、冷たく言いました。

「どうすればいいですか。本当にいつも身体が痛くて…」

 弱気な俊樹さんがすがるように言いました。

「ご依頼いただければ、除霊します」

 といって、2人分ででこのくらいと明細を見せていました。


 なるほど、これも商売にする訳ですね。私は少し離れているところから様子を見ていました。


「あの女の財産ももらえず、慰謝料を請求されるのよ!そんなお金ないわ!」

 紀香さんは立ち上がり帰ろうとしました。

 その後ろ姿に向かって所長が言い放ちました。

「では、俊樹さんに憑いている黒猫1匹、キジトラが2匹、あなたに憑いている白黒と、茶トラと三毛、そのままでいいんですね?かなり恨まれてるようですけど」


 紀香さんの足が止まりました。振り向いた彼女は顔が真っ青でした。

「どうして……」

「払います払います!」

 俊樹さんが言いました。

 契約書にサインをさせながら、所長はさりげなく、

「最後の1匹は何を使ったんですか?」

 と聞きました。


『……』

 2人は黙り込んでしまいました。

「6匹しか視えないんです。教えてもらわないと後で困ることになるかもしれませんよ」


 しかし2人は口を割りませんでした。

「……6匹だけでも構いません。お願いします」

 俊樹さんが言ってきました。

「わかりました。なにかあったらすぐ連絡してください。赤の他人に害を与える恐れがありますから」

 そういって、所長は私の方を向いて頷きました。

 はいっ!出番ですね。やりますよー

「お二人とも目を閉じていてください、絶対に開けないように!」


 私はドラゴン派をお2人には当たらないよう慎重に6発打ちました。

「波ぁっ」

 今日は所長は笑いませんでした。慣れてきたのでしょうか。

 ちょっとつまんない。そんな気持ちになりました。やっぱり新しいの考えようかな。



「信じられないわ、こんなに軽くなるなんて」

「本当だ。もうこうなったら2人で頑張って生きていこう」

「うん。私も頑張って働くね」


 なんだかんだ言って、本気の恋だったということでしょうか。2人は手を取り合ってキラキラ輝いたまま帰って行きました。


「これで終わりなんでしょうか」

「さぁ、どうかねぇ。あの事務所と行方不明の1匹もどうしたもんか」


 少なくとも、2人にはもう何も憑いていませんでした。滝野川龍宝についている血はどうなったのでしょうか。ルビーのネックレスは浄化しなくて大丈夫でしょうか。私には気になることがたくさんありましたが、吉沢さんは、今日の報酬を2つに分けて私に渡しながら言いました。


「この仕事はタダでは絶対に引き受けないこと。たとえ昔の知り合いでも中途半端な情けがトラブルを呼ぶことになる」

「はい……すみませんでした。でも、あの人、淀川さんを助けたいなんて思ってた訳じゃないんです。あの場所を汚されたくなかったと言うか……」

 あの交差点、かすかに残るユキノ様たちの気配を汚されたくないと思ったのは事実です。そもそも、淀川にあったのも偶然ですし。私は上手く説明できない自分に腹が立ちました。謝ることしかできませんでした。



 それでも吉沢さんは少し不機嫌そうでした。確かに、偶然依頼人の関係者に出くわしたので、詳しいこともわかり、仕事が1つ増えましたが、そうでなかったら私は淀川と滝野川をきっと浄化していたと思います。

 そして、それをあの人たちに知られて後々困ることになるのは想像に難くありません。あの金の亡者たちにまた利用されていたのかもしれません。


「申し訳ありませんでした」

「いや、あの淀川ってやつに無理やり連れて行かれたのは想像つく。俺に連絡したのは正解。やっぱり女の子をこの仕事に巻き込んだ俺が悪いんだろう」


 私は血の気が引くのを感じました。もう仕事で使ってもらえない。いらない人間をいつまでもここに置いてはくれないだろう。

 就職活動のペースを上げなくては。もう私はこの世界では聖女なんかじゃないのだから。ただ、ちょっと人とは違う力を持っているだけの、普通の無職の26歳なのだから。



 吉沢さんが帰ってから、私は少しお休みしていた転職エントリーを再開しました。

 正直なところ、お金は結構あるのですが、ちゃんと働いて、まともな人間関係を築いて、誰かに必要とされたいと強く思ってしまいました。いつか、聖女じゃなくなる日が来ても私を必要としてくれる人を見つけたい。

 自信はないのですが、私は努力することの尊さを知っています。


 親切にしてくれた吉沢さんの邪魔にならないこと、すなわち就職して、この事務所から出ていくこと。とりあえずの目標をここに置きました。



 数日後、面接を2つこなしました。しばらく結果待ちの状態です。


 今日はのんびりしようと事務所でテレビを見ていました。私がいなかったのはたった半年のようですが、元々流行に疎かったので、情報番組をはしごして少しでもゲームと漫画以外の知識を入れておこうと思い、なるべくテレビは見るようにしています。


 ニュースの時間になりました。ぼんやりと眺めていたら見たことのある顔写真が出てきたので驚きました。

 古林紀香さんです。


『近所の住民から古林容疑者の自宅の庭あたりから異臭がするとの通報を受け、警察が調べたところ庭から多数の猫の死骸と身元不明の人間の遺体が1つ発見されたとのことです。古林紀香容疑者が関わっているのではということですが』

『はい、古林家では容疑者の両親が野良猫を保護して避妊手術をして戻すと言う活動をしていまして、その手伝いをしていた60代男性と連絡が取れないことから……』

 

 なんということでしょう。最後の1匹は、いえ、1人は人間だったようです。その60代男性はどこに行ってしまったのでしょう。普通に成仏していれば良いのですが。


 吉沢さんに連絡しようかと思っていた、まさにその時、事務所のドアが開いて、吉沢さんが入ってきました。


 私が呆然とした顔で吉沢さんを見つめていたため、多分何か勘違いをしたのでしょう。

「あ、悪い。ノックもしないで」

 と、一歩後ろに下がりました。

「いえいえ、違うんです。ちょうどニュースを見てたもので」

「あぁ、見たのか」

「最後の血は人間のものだったんですね」

「滝野川は流石に知らなかったようだが、生き血の元になるものが、大きければ大きいほど良いとは言ったそうだが」

「えっ、滝野川さんに会ったんですか?」

「あぁ。一昨日倒れたらしく淀川から連絡があったんだ」

「生きてるんですか?」

「一応。かなりうなされてる。で、前にあんたが血だらけに見えるって言ってただろ?今もそうか見てほしいんだ。俺は昨日の夜行ってみたけど、何も見えなかったから」

「わかりました。すぐ支度をします」

 

 カバンの中身を出した時に企業のパンフレットが見えてしまったようです。

「就活うまくいってるのか」

 と聞かれました。

「まだ結果待ちです。でも早く決めないとと思っています」

 と答えると、少し複雑そうな顔をしていました。なので、

「大丈夫ですよ!この力がある限りは、お手伝いくらいはできますから」

 と言いました。

 せっかく得た力、やっぱり人の役に立てたいなと思います。いっそ、私も事務所を開くか……いやいや怖いの苦手ですから!

 それに、いつかこの力を失う日が来るかもしれません。家系的に霊感のある吉沢さんとは違うのですから。


 私たちは滝野川が入院している病院に行きました。なぜだかわからないけど衰弱しているので入院をしているという状態らしいです。点滴に繋がれた滝野川は、前に見た時よりは血まみれではありませんでした。しかし、ところどころに血がついています。私はそれを所長に伝えました。


「あの不倫カップル以外に動物を殺す指示をしたことは?」

 所長は荒い息をしている滝野川に聞きました。もうすでに、除霊の契約は交わされているそうです。さすが所長です。

「1人だけ……でも怖くて自分の指を針で刺してアメジストに血をつけて、相手の鞄に入れたと言っていた。でも効いたと喜んでいたよ。その憎い相手が転勤になったとか……」

 それ呪いが効いたのかわからない、微妙なラインですね。栄転かもしれないし。


「どうしましょう。とりあえず浄化してみますか?」

「そうだな。ちょっとやってみてくれるか」

 私は怪我などを治療するときの方法で、手のひらから波動を送りました。滝野川の顔色は確実に良くなっていました。呼吸も楽になったようです。

「おお!俺の霊感も決して嘘じゃないんだ。でもこれは凄いな」

 と感動していました。


 しかし、完全回復のような顔をしておっしゃっていますが、実は血の跡はところどころ取れていないんです。私は所長にこっそり伝えました。

「例の死亡した男性の気配はないよな」

「はい。現在この人の周りに邪悪なものは感じません」

「すると、過去に何かあってこびりついたものかもしれないな。時効になった呪いみたいなものが」

「そんなのもあるんですね。呪いって奥が深いんですね。多分私以外には見えないみたいなので、このままでも良いのかもしれませんね」


 私たちは、元気になって退院すると張り切っている滝野川に別れを告げて病院を出ました。入り口ですれ違った男性に吉沢さんは軽く手を上げて挨拶をしていました。

「お知り合いですか?」

「たまに世話になる警察。大学の同期なんだ」

 軽い挨拶の仕方が、仲の良さを表しているようで羨ましいなと思いました。近所のおばさんは親切にしてくれましたが、友達じゃないしな、と今更気付いてしまいました。

 友達欲しいなぁ。いつか聖女の話しても引かない友達できるかなぁ。流石にそれは無理かなぁ。


「飯でも食う?」

「はい、行きます!」

 吉沢さんは信頼できる素敵な人ですが、雇用主だから友達じゃないんだよなぁと少し残念に思いながら、結局事務所の1階の中華屋さんに行きました。


 私たちは注文をしてから黙って向かい合っていました。お互いに言いたいことがあるのに言えない、そんな空気が流れていました。そして、

「あの」

「あのさぁ」

 と同時に話し出しました。

「どうぞどうぞ」

「そちらこそどうぞ」

 という不毛な時間が流れている間に、チャーハンとラーメンと半チャーハンが運ばれてきました。


 私はチャーハンを食べながら、なんでも良いから話そうと、

「吉沢さんの彼女さんはどんな方なんですか?」

 と聞きました。するとラーメンとチャーハンを食べていた吉沢さんの手からレンゲが滑り落ちました。

 吉沢さんはとても驚いた顔で私を見つめていました。


 えっ?怖い話になります?

 

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