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2.さっさと国は救われました

 こんにちは!聖女に転生中の田中桃華です。


 めちゃくちゃ頑張っています。メザール王国の皆さんのために乙女のまま、ここに骨を埋める覚悟で修行中です!


 こちらに来てちょうど30日が経ちました。ひたすら真面目に練習していた私は、だいたい光の魔法を使いこなすことができるようになりました。もう怪我人を吹っ飛ばすこともないと思います。たぶん。


 そろそろ実践訓練に入りましょうと言われました。周りを騎士の軍団で囲い、最近たまに魔物が出るという森の入り口付近まで行くことになりました。

 聖女に何かがあったら大変ということで、20人くらいの屈強の男性達に囲まれて歩きました。


 男の人に守られるという初めての体験に、私は少しフワフワしていましたが、流石使命に燃えた騎士たちです。ストイックすぎて無言です。私たちは黙ってひたすら歩いていました。


 出発が決まった時、私は応援してくれてる人たちから服を贈りたいと言われたのですが、動きやすい黒スーツをお願いしました。

 とても驚かれてしまいましたが、ヒラヒラした服で魔物退治はどうかと思いますし、皆さんから贈られたそんな大切な服を汚したら大変と素直な気持ちをお伝えしました。何より着慣れているので、安心感があるのです。


 スーツと聞くと、たまに嫌な思い出が蘇ることがありますが、私はあえて、このスーツを着て思い出の上書きをしてやろうと企んでいます。


 そして出来上がってきた、シンプルな黒スーツ。特殊な糸で縫われていて魔物の攻撃を少しだけど和らげることができるそうです。伸縮性もバッチリ。インナーは淡いピンクのブラウスです。私が本当はピンクが好きなの見破られていたのですね。嬉し恥ずかしです。私の黒髪にもよくお似合いとみなさん褒めてくださいました。本当に優しくて泣けてきます。


 さて、そんなことを回想しているうちに森に着きました。確かに何かよからぬものの気配がします。私は私を守ろうとそばから離れない騎士の間をぬって先頭に立ち、辺りを見回しました。


 居たっ!

 狸のような、でも確実にこの世のものではない生き物が今にも攻撃を仕掛けてきそうに助走をし始めていました。


 騎士の方たちは、私の前に立ち塞がろうとしますが、それでは私の訓練にならないし、そもそも騎士の方たちにはあれらは倒せないのです。ただ、私を庇って怪我をするだけ。そんなの困ります。私は思わず、

「どいてください!」

 と叫び前に出ました。そして、やはり攻撃をするにあたっては1番安定したあのポーズをとり、

「波っ!」

 

 私のドラゴン波は命中し、狸は吹っ飛んでからキラキラと消えていきました。周りからは拍手が聞こえていましたが、次の気配を感じたので私は落ち着いて、狸のいた場所のすぐ後ろに見えた狼のようなものに正面から向き合い、また構えました。今度の方が強そう。さっきよりも強いのを出しても良さそうですね。

「波ぁっ!」


 また成功です。ちなみにドラゴンどらごんはというのは私がつけたのですが、ローデス教にとってもドラゴンは空想上の生き物とされていますが、神聖な神の使いの一柱に当たるそうで、縁起が良いと褒められました。褒め上手さんたちに囲まれて、本当に幸せです。


 その後も7匹ほど魔物を倒して、日も暮れてきたので今日のところは撤退することになりました。こちらの魔物は昼間によく出るようです。夜襲撃されるよりその方が助かりますね。なんだかんだ魔物すらも優しい国なんでしょうか。


 今回は怪我人も出ず、治療の訓練ができないのは少し残念でしたが、もちろん怪我人などいないに越したことがないのでよしとしましょう。


 それから毎日のように森へ出かけ、たくさんの魔物を倒して浄化しました。お付きの騎士様たちも少しずつ数を減らしていただきました。さすがに20人は邪魔でしたからね。現在は4人。このくらいがやりやすいようです。


 騎士の皆さんの私への態度は、本当に紳士的です。お姫様のように扱ってくれます。だんだんと森の中へ入っていくために、尖った木の枝で軽い怪我をした騎士様を癒しの魔法で治したことがあるのですが、両膝をついて祈られましたから。


 ちなみに調べてみたところ、私が治せるのは外傷や古傷、魔物による穢れだけで、病気は無理だそうです。なので、みなさんに健康診断はちゃんと受けてくださいねと言ったら、

「なんとお優しい」

 と、さらに人気が出てしまったようで、部屋中が流行のお菓子でいっぱいになってしまいました。


「所変われば品変わる」

 とでも言うのでしょうか。ブラックな会社で育てられた「黙ってやるしか道はない」精神と、化粧っ気のない白い肌と黒く長い髪(当時は引っ詰めていましたが、今はユキノ様を真似ておろしています)が、ひたむきで努力家のミステリアス聖女として受け入れられているようです。

 コミュ障がミステリアスに変換されるこの世界、ますます気に入りました。必ず平和にして、私もここで暮らします。


 

 そして、討伐を始めてだいたい1年半が経とうという頃、魔物を生み出していると思われる蜘蛛のような巨大な魔物が見つかりました。

 先行していた調査団には怪我人も出ました。私は精一杯祈って彼らを癒しました。


 とうとう最後の戦いが近づいてきました。しかし、結局2年もかからなかったようです。意外と早かったな。用のなくなった私はどうなるのか少し不安ではありましたが、メザール王国のため、私を信頼してくれたみなさんのため、私は森の奥深くに旅立つことを決意しました。


 出発日当日は、国王一家が総出でお見送りくださいました。王子のノダル様は多分20歳そこそこ。私よりだいぶ年下ですし、まさか嫁になんてことはないよな、なんて浮ついたことを考えつつ、私たちは予定通り出発しました。


 メンバーは最後まで護衛をしてくださっていて、すっかり私の動きを読むことができるようになった4名の騎士の方、そしてユキノ様と私です。


 しっかり朝食もとってやる気満々です。私の頭の中では、大蜘蛛が放つ雑魚敵を機関銃のような小さな波動でいなしながら、怪我人が出る前に、特大のドラゴン波を放つというシミュレーションが繰り返されていました。

 大丈夫、できる。私はもう昔の私じゃない。


 そして、現地につきました。想像通りの展開に笑いが止まりません。笑いながら小さなドラゴン波を連続で放つ私を、お付きの皆さんは少しびっくりした目で見ていました。もしかしたら「ドン引き」という初めての体験をさせてしまったのかもしれません。


 大蜘蛛の魔物を生み出すペースがかなり下がってきました。この時を待っていたのです。

 私は気持ちを最大限込めて、大蜘蛛に向けて特大ドラゴン波をお見舞いしました。

「怪我人の分だっ。波ぁぁぁっ!」


 小さな悲鳴のような鳴き声が聞こえ、大蜘蛛のようなものは破裂し、キラキラしながら消えていきました。キラキラは結構長い時間残っていましたが、綺麗だなとずっと眺めていたらやがて消えていきました。


 そして魔物がいたはずの場所にはエメラルドのような緑色の石が落ちていました。4センチくらいでしょうか。これが本当にエメラルドならすごいお値段になりそうです。とりあえず手に取って見ていると、ユキノ様が近寄ってきて、嬉しそうにおっしゃいました。


「魔物の大元が倒された時に、美しい石が残されると今までの聖女様の文献に書いてありました。それは聖女様のものですよ。私の母は白い大きな真珠だったそうです」

 そういって、胸から下がっているネックレスを見せてくれた。直径3センチくらいの本当に大きな真珠でした。いいな、私もネックレスにしようかななんて考えました。


「でも、本当に今のがラスボス……最後の敵かはしばらくまた森を回って様子を見ないとわからないのではないですか?」

 私は楽天的な性格ではないので、聞いてみました。

「いいえ、わかるのです。その美しい石とこの清らかな空気が証明してくれています」


 言われてみれば、空気の清浄さが半端ない。そうか、終わったのか。あっけなかったな。もっと退治したかったけど、平和になったのなら喜ばしいことです。

 今後の身の振り方を後でユキノ様に相談してみよう。


 そう思いながら振り向くと、ユキノ様が地面に魔法陣のような物を描いていました。そして私を見て笑顔でおっしゃったのです。


「わたくしの母は、父と結婚してわたくしを産んでからも、夜中に何度も帰りたいと言うことがありました。今の人生は確かに幸せなものではあるけれど、故郷に残してきた人たちが恋しいと泣くこともあったんです」

 あらまあそうだったんですね。


「ですから次の聖女様にもそのような思いをして欲しくなくて、わたくしは幼い頃から聖女様を転生先に戻す方法を研究していましたの」

「いえいえ、私は……」

「何も言わなくてもわかります!たまに見せる憂い顔、夜中にうなされていることも聞き及んでいます」

 いや、それはむしろ前のことを思い出して憂鬱に……

「もうこの国は当分大丈夫です。どうぞ心置きなくお帰りください。ありがとうございましたモモカ様……」


 涙ぐみながらも笑顔を向けるユキノ様を呆然と見つめている間に、私の周りは光に包まれていました。

 えっ、ちょっと待って━━━


 気がつくと私は大きな交差点の1つの歩道の端に立っていました。動きやすい黒スーツを着て緑色の石を手に。


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