13.今度こそエピローグ?
こんばんは。もう夜です。
事務所で吉沢所長と刑事の若林さんと向かい合い、3人でただ黙って座っているだけで胃が痛くなってきた田中桃華です。
「坂道の報告がないけどどうした?」
所長は私に普通に聞いてきました。
「若林さんはご存知だったんですか?あの坂で沢田が女性に暴行して流産させたことを」
私は若林さんに振ります。
「俺は関わっていない事件だが、確か被害者本人の強い希望で不起訴処分となっているはずだ」
「被害者さん本人がですか?現在行方不明と聞いていますが」
「代理人を通してだと思う」
「……」
「吉沢、お前の方はどうだ?」
「闇金に金を借りたことで、よくない連中の言いなりになっていることは確かだ。外国人を安く雇って駒にするようなゲスヤクザだな」
「じゃあ、椿さんの強盗はそのヤクザさんが雇ったかもしれないってことですか?」
「まだ可能性の話だ」
ピピッ
咲良さんからのメッセージです。
『お姉ちゃん、綺麗なシャンパンゴールドのカーテンをすごく気に入ってたの。それがあんな安っぽくてセンスのない青にするなんて』
「どうした?」
吉沢さんに聞かれました。
「あ、沢田晴人の部屋のカーテンの話を咲良さんに聞いていたんです。椿さんがずっとカーテンを見てるので。やっぱり変えたみたいですね」
「そうか。で?」
「はい?」
「桃華がどうしてそんなにびくついているのか聞きたいものだな。後ろめたいことでもあるのか」
やはりお見通しです。これから説教タイムでしょうか。若林さんいますよー
まさか2人がかりでしょうか。
「沢田を説得して除霊をするのが嫌なんです」
「どうして?」
「沢田は他にも多分2件以上の罪を重ねています。和菓子屋さんご夫婦のためにも、流産させられた女性のためにも、そして椿さんと咲良さんのためにも、彼を捕まえて欲しいです」
最後は若林さんに向けて言った。
2人は一瞬「和菓子屋さん?」みたいな顔をしましたが、すぐに真顔に戻りました。
「証拠がなぁ」
若林さんが言いました。
「工藤椿さんに関しては防犯カメラで雇われている外国人の区別くらいできるんじゃないの?」
「その外国人が、勝手にやったと言えばそれまでだ。しかし、もう1度チェックはしてみよう」
そう言って立ち上がり、
「それ以外の分野は俺には役に立てないからな」
と帰って行きました。
吉沢さんは腕を組んで黙っています。縮こまる私。しかし、怒っているわけではないようで、誰に何を言ったのかちゃんと説明しなさいと言ってきました。とにかくお見通し、流石です。
私は和菓子屋さんで宣言してしまった話を正直にしました。
「はぁぁ」
ですよね。お金にならない、危険が増える、デメリットしかありません。
「沢田についてる赤ちゃんがその坂で流産させられた赤ちゃんだとしたら一応納得はいく。たぶん被害女性がヤツを呪った結果だと思う」
「その女性は生きてるんでしょうか」
「桃華が見た限り強い悪霊となってるんだろ?正直、生きているとは思えないな」
「それをひたすら見守るだけの椿さんが不思議なんです。あっ、子供好きだということですから心配してるのかなぁ」
「沢田を見てるわけじゃないってことか。そうなると、カーテンにも意味があるのかもしれない」
所長は出て行ったばかりの若林さんに電話をかけました。
「カーテンを取り替えたあたりの防犯カメラをよく調べてみて欲しい」
もう今夜は私たちにできることはなさそうです。
吉沢さんは帰り際に、
「どのみち沢田には払う金なんてないようだから、今回はタダ働きだ。給料ないぞ」
と言いました。それは、以前の会社のようなブラック丸出しな言い方じゃなく、とても優しい言い方でした。
「はいっ。浮気調査頑張ります!」
その後、警察の調査で、何かを包んだように丸められたシャンパンゴールドのカーテンを運ぶ沢田の姿が防犯カメラで確認されました。
現代の防犯カメラはすごいらしいですね。車に乗せて隣の県の山の方へ運ぶところまで確認されて、最終的に山からカーテンに包まれた女性の遺体が見つかりました。流産させられた女性のようです。それは、咲良さんが撮った椿さんの後にお付き合いしていた女性と一致しました。
沢田は1つバレて責められたらもう完全に諦めてしまったようです。クズでヘタレです。椿さんのことも白状しました。ヤクザに唆されたようです。まさか殺すとは思わなかったなんて言っていますが、信じてくれる人はいないかもしれません。
沢田が捕まってしまったので、赤ちゃんがどうなったのか私には知ることができません。悪霊化したのか、気が済んで成仏したのか。裁判が始まったら見に行ってみようと思います。もしも、他人に危害を与えそうだったら、裁判中にこっそりドラゴン波をやるしかありません。退場させられるかもしれませんが、仕方のないことです。
事件が解決してから、私は沢田の部屋の斜め前の電柱を見に行きました。沢田もいないので、やはり椿さんもいませんでした。私は電柱に手を当ててお礼を言いました。
「赤ちゃんを守ってくれて、そのお母さんも見つけてくれてありがとうございます」
あたりがキラキラ輝いて、椿さんはもう成仏しているんだなとわかりました。
「桃華〜!」
振り向くと咲良さんが走ってくるところでした。
「ねえ、お姉ちゃんいる?」
「ううん、成仏してるよ。素敵な女性だったよ」
「そうでしょ。終わったんだね。私ももうここに来ることはないかな。桃華はどこにいくの?」
「私は坂の方をちょっと見てくるつもり」
「そっか。じゃああたしは帰るね。今度飲みにでも行こうよ」
「うん!」
私を桃華と呼ぶ人が増えました。もう全く嫌な気持ちになりません。この調子でどんどん上書きしていかなくちゃ。咲良さんとの飲み会も楽しみです。お酒の上書きもできそうです。
私は坂を登って行きました。登りながら両手を広げ、浄化パワーを出しながら歩いて行きます。そんなことをしなくても、ほとんど悪い気はなくなっているようですが、今の私にできる精一杯です。
和菓子屋さんに入って行きました。今日はたくさん残っているようです。売れてないのかな?と心配していたら、私より少し年上と思われる若い女性が出てきて、
「いらっしゃいませ」
と言ってきました。アルバイトさんかなと思っていると、
奥から奥さんが出てきました。
「あら!あの時の探偵さん、あなたー!」
ご主人も出てきました。
「あんた、本当にやってくれたな。ありがとうよ。おかげで娘も帰ってきて店を継ぐとか言い出してさ」
お嬢さんだったんですね。お元気になられたようで良かったです。でもまだちょっとだけ無理してそう。
「いえいえ!捕まえたのは警察ですよ。私はほんの少しお手伝いしただけなんです。うちの事務所ですごいのは所長なんです」
私はお嬢さんの両手を握り、癒しの力を送り込みながら、
「だから、何かあったら遠慮なく頼ってくださいね」
と言って手を離しました。彼女はポカポカした手を不思議そうに眺めていましたが、先ほどよりも顔色が良くなったように見えました。私の癒しの力が心にどれだけ効くかはわかりませんが、少しでもこの先の人生が明るいものになりますように、私はローデス様に祈りました。
お嬢さんが帰ってきたことで和菓子職人が増えて、作り過ぎてしまったという和菓子をたくさんいただいちゃいました。
そういえば、吉沢さんて甘いもの好きかしら。
とりあえずオムそばの後で濃いお茶と一緒に出してみましょう。
私は和菓子の入った袋をブンブン振り回しながら事務所へ帰っていきます。少しだけ暖かい風が吹き、春が近づいてきているのがわかります。
これからたくさんの人生の上書きをしていくことに期待でいっぱいの田中桃華は、帰りの電車で頭の上にたくさんの「鳥のようなもの」を乗せた人物を目撃することはまだ知らないのでした。




