第9話:ボスラッシュ
アラームが鳴ったその瞬間、僕はびっくりして宝箱から手を離した。
一体、何が起きたんだ!?
この宝箱は罠だったのか!?
なんていうことを考えてると、背後でガシャンと音がした。
見ると円形広場の出入り口――ついさっき僕が通った道――が鉄柵によって塞がっていた。見ると、前方の3つの出口も同様に柵で塞がれている。
これはまずい……ハメられた!
やがて広場の四方の壁が、ぼこっ、と隆起し始める。
そして「そいつら」は生み出された。
サーベルと円形盾で武装した、全身真っ黒の骸骨たち。
「おい、嘘だろ……」
僕は思わずそう漏らした。
〝イビルスケルトン〟
表層でボスとして登場するスケルトンソルジャーの上位種だ。
それが一気に8体も広場の中に現れた。
どう考えても逃げ一択だ。
僕は咄嗟に魔力をこめて「【開門】!」と高らかに叫んだ。
しかし扉は現れない。
僕は繰り返し【開門】と叫ぶが、工房へ続くあの扉は一向に出現しなかった。
なぜ現れないかはわからない。
ただ、わかるのはこのままだと、今から僕はこの闘技場で戦わなければならないということだけだった。
ダンジョンの最下層だけあって出現する魔物が強いのは覚悟していた。
けど、しょっぱなからこの展開はさすがに予想もできるまい。
僕は咄嗟にメイスを構え敵の攻撃に備えようとした。
こうなったらもう玉砕覚悟で死ぬまで戦う他にない。
僕は最悪を覚悟した。
ところが、だ。
イビルスケルトンたちはサーベルを構えてはいるが、中々、動き出さなかった。どころか、じりじり後ろの方に後退していく個体もいる。
一体、何がそうさせるのか?
考えた僕は、はっ、となる。
今の僕は聖属性のスライム、セラを全身に纏っている。
アンデッド系の魔物にとって聖属性は天敵中の天敵だ。
つまり警戒されている。
アンデッドには自我が無いといわれているが、眩しい光から目を逸らす本能のような感覚は、多分持ち合わせているのだろう。
そこで僕はその隙を利用して、セラに念話でこう言った。
――いいか、セラ? 僕が合図を送ったら敵にヒールをかけるんだ。
――ますた、じゃなくて、てきにかけるの?
――ああ、それでいい。それがいい。いいアイデアが浮かんだんだ。
会話を終えると1体のイビルスケルトンがじりじりとにじり寄って来た。
僕は一度だけ深呼吸。
その後、ダッシュで敵に近付いて上からメイスを振り落とし、
「うおりゃああああああああ!」
円形の盾を破壊した。
一見、武具に見えるそれは、その実彼らの一部である。
つまり聖属性の攻撃によって簡単に破壊することができるのだ。
盾を失ったイビルスケルトンは一瞬、大きな隙を見せた。
その間に僕はセラアーマーの圧倒的な機動力を利用し怯んだ敵に肉薄し、
――セラ! 今だ!
イビルスケルトンのあばら骨に思い切り掌底を叩き込む。
次の瞬間、セラアーマーに覆われた手からヒールが敵に流れ込んだ。
その攻撃は効果はてきめん。
そいつは断末魔を上げることもなく、その場で即座に灰と化す。
よし、やった! 成功だ!
僕は内心でガッツポーズを決める。
治癒魔法の基礎であるヒーリング。
生者であれば傷を回復させるこの魔法は、だがアンデッド系の魔物に対しては体を内から破壊する真逆の効果になる。
すると灰となった仲間の奥から次の相手がやって来る。
僕は先ほどと全く同じ動きをした。
まずはメイスで盾を叩き割り、掌底でセラのヒールを送る。
2体目もあっさり倒された。
もし自我のある魔物であれば、それを見て作戦を変えたかもしれない。
だがアンデッドはアンデッド。
木偶人形にすぎないこいつらに学習をする知性はない。
よって残りの6体を処理するのに大した時間はかからなかった。
一度、挟み撃ちによる攻撃を受け窮地に陥りかけたことはあったものの、僕はサーベルの攻撃を、今までさんざん練習してきた「スライムシールド」で受け止めた。
そして、そのままヒールでとどめ。
最後の1体を処理したところで、僕ははぁはぁと息を荒げながら思わず、その場に膝を突いた。
「やった、のか?」
誰にでもなく僕は問う。
すると質問に答えるように、広場への出入り口を塞いでいた鉄柵がガシャンと上がり、カンカンカン、と音がする。
まるでゴングのようだった。
同時にガチャと音がして中央の宝箱がパカッと開いた。
どうやら僕は「やった」らしい。
――ますた、すごい!
セラの黄色いはしゃぎ声が頭の中に直接響いた。
……いや、すごいのは僕じゃない。
MVPはセラである。
表層のボスクラスの魔物を一撃で灰にしてしまえるような、彼女の魔法が強かったのだ。
緊張の糸が切れた僕はしばらくの間、その場にへたり込むと、いまだにバクバク鳴り続ける心臓が少し落ち着くのを待った。
その後、中央へと向かう。
あんなに大きな宝箱なのだ。
さぞや大量の財宝が入っているに違いない。
そう期待して中を覗き込むと、そこには、ぽつん、と1つだけ――金色に光る指輪があった。




