第7話:鎧化《アムド》
魔力測定器という機械がある。
遥か昔、大賢者アレイスターの時代から使われている由緒正しきアイテムだ。
それを使って体内の魔力を測定してみたところ、なんと数値がカンストした。
……間違いない。
セラの言う通り僕そのものが「賢者の石」になっている。魔力をほぼ無尽蔵に生み出せるという空想上の存在に……
しかし、だからといって直接的な戦闘力が向上したというわけではない。
魔道士ではない僕は下級呪文すら使用することができないし、戦士のように魔力を使って身体能力を上げることもできない。
現状、僕の体質はスライムへの給餌専用なのである。
だからそう。もし今、工房から出て、セラといっしょにダンジョンに潜ったとしても命を落とすだけだろう。
そもそもヒールスライムの攻撃力はほぼゼロだ。
人化して武器を持たせたとしても、あの姿では表層のゴブリンにすらも勝てるか怪しいところである。
せめてルミナとアンブラが同じように人化してくれたのなら戦況は変わっていたかもしれないが、無いものに頼っても仕方がない。
だからこそ僕は考えた。
水飴職人とからかわれた、僕だけにしかできないやり方を。
「出て来い、セラ」
そう言って瓶を揺すった僕は自分の化合獣を工房に呼び出した。
光の粒子が集まって少女の姿を顕現させる。
彼女は、ふわぁ、と眠たげに余った服の袖で目を拭った。
「なに、ますた?」
「セラ、1つ聞きたいことがある。お前のその体を鎧みたいにして、僕が着ることは可能だろうか?」
僕は一縷の望みに賭けた。
セラは、うーん、と考えた後、僕を見上げてこう言った。
「ますた、のイメージりょくしだい」
「つまり頑張ればできるってこと?」
「そんなにむずかしくないとおもう。いままでも、ますた、そうやってきた」
それを聞き、僕は納得した。
確かに今までもスライムのことを即席の落下傘の代わりにしたり、体を覆って盾にしたり、イマジネーションの力を使って様々な形に変えさせてきた。
この計画に破綻はない。
そうと決まれば早速実験だ。
僕は姿見を持って来て、そこに自身の体を映した。
目の前にはセラが立っている。
そんな彼女の薄い胸に触れ、僕は静かにこう呟く。
「【鎧化】」
瞬間、セラの肉体はピンク色をしたスライムに戻り、僕の体を飲み込むように体にぴったりフィットした。顔以外の全ての体の部位をピンク色のゲルに覆われた僕は、全身タイツを着ているみたいなひどく間抜けな姿になる。
……いや、まあ、これは実験だから、デザインは後で詰めればいい。
僕は試しに歩こうとしてみた。
しかし見かけによらずスライムというものは結構重い。周辺を少し歩いただけで筋肉にかなり負担がかかった。
でも、ここまでは想定内だ。
僕は歩くの同時に魔力を使ってセラアーマーを操作した。
この作業かなりコツがいり、歩こうとするタイミングと魔力を送るタイミングが少しずれるだけでバランスを崩しそうになる。
僕はかなりの時間をかけてゆっくりと部屋を一周した。
姿見の前で一息つくと、その後は攻撃力テスト。
レンガを机の上に置き、腕に思い切り魔力を送る。
「~~~~~ッ!?」
結果、必殺のパンチによってレンガは見事に粉砕された。
けど代償に腕の靭帯を派手に損傷したらしい。
――だいじょぶ、ますた!? なおす!? なおす!?
セラから念話が送られてくる。
「……ああ、頼む」と僕が言うと、彼女はたちまちヒールの魔法を損傷した箇所にかけてくれた。
おかげで痛みが引いてくる。
僕はセラに礼を言うと、一度【鎧化】を解除して彼女を人間の形状に戻した。けなげな人型スライムはその後も僕の腕をさすりヒールをかけ続けてくれていた。
……なるほど、これは難しい。
魔力が少なすぎても、多すぎても駄目。
しかもタイミングがシビア。
だが、これ以外にダンジョンを踏破する方法を思い付くことができなかった。
であれば、練習あるのみだ。
少しの間、休憩すると僕は再び【鎧化】を使った。
全ては外の世界に出るため。
そしてまた、僕をハメた連中に一泡吹かせてやるためだ。
こうして僕はスライムを身に纏う地道な訓練を開始した。




