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第6話:はじめてのごはん

 工房アトリエにある部屋の1つ――女物の服ばかりが揃えられた部屋――が、なぜ存在するのか推測してみる。多分、アレイスターは〝ホムンクルス〟が人間の女性の姿になることを予測していたんじゃなかろうか?


 ただ、それが幼女になるとは思っていなかったようで、セラの体に合う服は残念ながら部屋にはなかった。


 とはいえ少女の姿をした存在をいつまでも裸でいさせるわけにはいかないため、なんとか工面する必要があった。僕の場合、アレイスターのものと思われる予備の着替えがあったからそれを拝借したけれど、はてさてどうしたものだろう?


 なんていうことを考えていると「ますたの服、かりてもいい?」などとセラが言いだした。


 僕がなにげなしにワイシャツを差し出すと、彼女はそれをぺたぺたと触り、質感や形状を確かめ始める。

 次の瞬間、彼女の体に異変が起きた。玉のような肌からピンク色のゲルが噴き出して、それがどろどろ形を変えて、いつしか彼女の体には僕が貸したものそっくりのワイシャツが纏われていたのである。


 すごい! こんなこともできるのか!


 などと感心するも、それは男物のシャツだったのでセラにはあまりにぶかぶかすぎて袖の部分を大きく余らせている。学園に通っていた頃に「彼シャツ」という言葉を聞いたことがあるが、まさしくそういう格好だった。


 ……素っ裸よりマシではあるが、さすがにこれはどうだろう?


「えへへ、ますたとおなじふく」


「気に入ったのかい?」


「うん、これにする~」


 そう言われては否定しづらい。

 よって当面の間、彼女にはこの服を着てもらうことにした。


 すると唐突に、ぐぅ~~~、という音。

 見ると切なげな表情でセラがお腹をおさえていた。


「ちからつかったら、おなかへった……」


「フードルームで何か食べる?」


「ううん。この体、普通のたべもの、えいようにできない。ますたの魔力しかたべられない」


 そう言われ、僕ははっとなった。

 化合獣キメラは術者の魔力を糧にその存在を維持できる。

 こんな姿になったとしてもセラの本質は変わらないわけで、だとすれば普通の食べ物が喉を通るわけがないのである。


「ごめんねセラ、元の状態に戻れるかい?」


「なんで?」


「なんでって……そうしなきゃ魔力供給できないだろ?」


 そう言うと、セラは首を傾げた。 

 まだ彼女が普通のスライムだった頃、僕は彼女の体に指を突っ込んでそこから魔力を供給していた。だから今回も同じ要領でそれを行おうとしたのだが、


「…………マジか」


 セラは人間の姿のまま、あーん、と口を開けていた。

 この中に指を入れろということらしい。


 いや倫理的にどうなんだこれは。見つかれば逮捕されるぞ僕。


 なんていうふうに思ったが、くりくりとした丸い目が切なげにこちらを見つめていた。

 ……仕方ない。僕は、こほん、と咳払いすると彼女の前に歩み寄り、


「いいかい、セラ? 今から僕らが行う行為はあくまで主人から化合獣キメラへの給仕だ。変な意味とかはないからな?」


 言い訳みたいにそう言った。

 そうして僕は彼女の口に人差し指を挿し入れる。


 じゅぽっ。


 セラは僕の指に吸い付いた。

 スライムなのに体温がある。

 湿った舌がねぶり取るように指を這い、魔力を吸収し始める。


「…………っ」


 人化したセラの感触は思った以上に人に近かった。

 もし元の姿に戻るところ見なければ、僕は絶対にこの子のことをスライムとは思わなかったろう。


 ……にしても長い。

 指の皮をそぎ落としそうな勢いで、ぬぷぬぷじゅぽりとセラは僕の人差し指から過剰に魔力を摂取した。


「お、おい、ちょっと食いすぎじゃないか?」


「こにょからあ、ええるぎーがいる」


 恐らく普段の魔力供給の10倍以上のエネルギーを吸い取られたに違いない。

 こんな勢いで魔力を吸われれば普通は失神するのだが、その兆候となるめまいもふらつきも全くと言っていいほど起こらなかった。どころか体の内側からどんどん魔力が湧いてくる。


 ――まさか本当に僕そのものが「賢者の石」になったのだろうか?


 なんていうことを考えてると、ようやく満足したらしいセラが僕の指から口を離し、つぅーとよだれが後を引く。


「美味かったか?」


「うん」


「ならいいよ」


 僕は反対側の手でセラの頭を撫でてやった。

 気持ちよさそうに目を細めた彼女は、しまいに、ふわぁと欠伸する。


「ますた、ビンある?」


「眠るのか?」


 そう聞くと、セラは頷いた。

 普段から腰に下げている瓶は釜の中で溶けてしまったので、予備の分の瓶を取り出すと、彼女の体は粒子と化してその中に吸い込まれる。


 まるでドカ食い気絶だな、と僕は内心で苦笑する。


 けど笑ってもいられない。

 彼女のことや、この体のこと、もっと調べなければいけない。


 外に出るのは当分先だなと、僕はひとりで溜息をついた。

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