第5話:美少女スライム誕生
――――――夢を見ていた。
僕が生まれる前の夢、まだ母親の胎内に留まっていた頃の夢だ。
そこには、なんの苦痛もなかった。
不安も、痛みも、苦しみも、何もなかった頃の夢。
僕はあたたかな羊水の中、長いまどろみの中にいた。
けれども、それは永遠じゃない。
ある時、激しい頭痛と共に外の世界に引っ張り出され、そこから苦痛が始まった。
還りたい、と僕は思う。
脅かされることが決してない、あの、あたたかな空間へ……
――直後、パチンと音がした。
夢の終わり、現実の始まり。
眠りから覚めたその瞬間、僕は自分の頭が何かやわらかなものに乗っていることに気付いた。
一体、これはなんだろう? もちもちとしてあたたかい。まるで高級な枕のようだ。
と、ふいに、誰かの手にやさしく頭を撫でられる。
思わず二度寝しそうになった。
けれど釜の中に落ちる瞬間がふいにフラッシュバックして――
僕は、はっ、となり目を開けた。
生きている。
その上、どこも痛くない。
「ますた、おきた?」
耳の近くで声がした。
目を開けるとそこは釜の中、視線を横に動かすとそこに女の子の顔があった。
「うわっ!」
僕は慌てて体を起こす。
その時、僕は初めて自分がいわゆる「膝枕」の体勢で女の子に寝かしつけられていたことに気が付いた。
「き、君は誰!? ぼ、僕は、どうしてこんな……」
僕は少女をまじまじ見つめた。
年齢は10、11くらいだろうか?
髪は鮮やかなピンク色、緩いウェーブを描くそれは腰の辺りまで伸びている。
あどけない、くりくりした目は愛らしく、成長すれば化けるに違いない非の打ちどころのない美少女だった。
問題なのは、その子も僕も一切の衣服を着てないということ。
幼女に全裸膝枕させるとか重犯罪にもほどがある。もし、この状況を誰かに見られたら確実に僕は詰むだろう。
「あのね、ますた、セラはセラだよ~」
「なんだって?」
「ますた、のしもべのセラだよ~」
その幼女は僕が使役するヒールスライムの名前を名乗った。
全く意味がわからない。
一体、何がどうなってこんな状況になったのか?
「えっと、セラ?」
「なにぃ?」
「いくつか聞きたいことがある。でも、その前に、まず君が僕の化合獣のセラであることを証明することはできるかい?」
僕は真剣な口調で聞いた。
セラを自称する美少女は、う~ん、と首を傾げた後、あっ、そうだ、という顔になり、僕の目の前でどろりと溶けた。
「わっ!?」と声を上げる僕の目の前で液状化した塊はどんどん小さくなってゆく。気付けば、そこには見慣れた姿――膝丈ぐらいの大きさの――ヒールスライムが鎮座していた。
――これでいい? ますた?
その声は単なる音ではなく頭の中に直接響く声だった――いわゆる念話というやつだ。
僕が呆気に取られていると、ヒールスライムはふくらみ始め、元の幼女の姿を取る。
「信じられない。まさかこんなことって……」
思わずそんな言葉が漏れる。
だが目の前で実演された以上、目の前にいる幼女は=僕のスライムの1体なのだろう。
僕は矢継ぎ早に質問した。
一体、何が起きたのか? ルミナとアンブラはどこにいるのか? そもそも、どうして自分はこうして傷ひとつなく生きているのか?
セラは困った様子であった。
見た目通り、あるいはそれよりも彼女の情緒は幼いらしい。
なのでゆっくりと、起きたことを1つずつ確認した。
なんでも彼女の話によると、僕が釜の中に落ちた時、スライム入りの瓶ごと釜に落ちたため、アレイスターの言うように彼女たち自身を触媒にして錬成反応が起きたという。
その材料には僕も含まれていた。
僕は高熱でぐつぐつ煮えた強酸性の液体の中で、肉も骨すらもどろどろに溶けた人間スープとなったらしい。
だが、それこそが正解だった。
賢者の石を錬成するのに必要な最後のピース、それは人体だったのだ。
その後、セラたちは僕を触媒に〝ホムンクルス〟へと進化した。
彼女たちは僕を取り込むと、3匹の力を合わせて僕を「復元」した。
つまり元々のこの姿に〝産み直された〟ということらしい。
「えっとね~、ルミナとアンブラはちからをつかっちゃったから、いまはセラのなかでおねんねしてるの」
「休眠状態にあるってこと?」
「わかんないけど、たぶんそう」
セラは舌ったらずな声でいう。
他の2匹が消えていないことに僕はかなりの安堵を覚えた。
「それでその、賢者の石は一体どこにあるんだい?」
「ますた」
「うん、なんだって?」
「ますた、そのものが賢者の石」
こちらを指差す小さな手を僕は「はい?」という顔で見た。
この僕自体が賢者の石……そんなありえない話があるのか?
と、ふいに、僕はくしゃみをした。
何しろ裸なものだから寒気を覚えたわけである。
「ますた、さむい? もういちど、セラであたたまる?」
「いや、いい! それは大丈夫! それよりセラも服を着よう!」
早口にそうまくしたてた僕は、セラの裸体から目を背け、急いで釜から這い上がった。




