第4話:大魔導研究所
しばらくの間、ただ呆然と眼前の光景を見つめていた。
でも、はっとなって首を降る。
ぼーっとしてる場合じゃない。
「一体ここは……どこなんだ? まさか、本当にあの伝説のアレイスターの工房なのか?」
思った僕は、スライムたちを瓶の中に戻し、建物の中を調べることにした。
その建物は複数のエリアに分かれていた。
最初に僕が見た光景はその一部分に過ぎなかったのだ。
それは個人の工房というより、もはや国家が運営する研究所とでも呼べる代物であり、中には大きく分けて2つのエリアがあった。
1つは先に見た研究室。
魔力炉、錬金釜、試験台等が全て揃ったまさしく夢のような場所であり、膨大な書物や材料や、そしてなぜか様々な種類の女性用の衣服が揃った部屋などがあった。
もう1つは居住スペースだ。
そこには素材から水や食料を錬成する装置、衣服を洗浄する装置、排泄物をどこかへ流す装置など一通りのものが揃っていて、なんていうかもう住む前提でこの建物は設計されているらしい。
まさしく、いたれり尽くせりだ。
ここまで来ると、僕はあのカラスが、伝説の賢者アレイスターの化身であり、ここが本当に後世の錬金術師のために作られた場所なのだということを信じざるを得なくなっていた。
あのカラスは僕にこう言った。
――そのスライムらを触媒に〝ホムンクルス〟を創るのじゃ
正直、わけがわからない。
〝ホムンクルス〟――それは錬金術という学問の中で、理論上存在しうるが実際に創ることは不可能とされる、完璧な、不死の化合獣のことだ。
もし、あのカラスが本当にアレイスターの思念(?)のようなものだったとして、それをなぜ、僕のような落ちこぼれに託したのかがいまだに理解できなかった。
ただ1つだけわかるのはホムンクルスではないにせよ、スライム以上の強力な化合獣を創り、使役しない限り、ダンジョンの外に出るのは不可能だということだ。こうなったら、もう、やるしかない。
――それから僕は半年もの間、ラボにこもって研究を続けた。
ホムンクルスの錬成には「賢者の石」というアイテムが必要であり、そのアイテムの精製には〝神の雫〟――すなわちスライムが必要になるという。
あのカラスは今僕が持ってるスライム。すなわちセラ、ルミナ、アンブラを触媒にしろと言った。
けれども僕はこの子たちに愛着を抱いてしまっているので、実験は即興で作ったスライムを触媒にして行うことにした。
何度も何度も失敗し、そのたびに本で知識を漁り、トライアンドエラーを繰り返した。
しかし結果に繋がらない。
後ちょっとなのにピースが足りない。
多分、焦っていたんだと思う。
この空間にいる限り、飢えで死ぬことはまずないし、魔物に遭遇することもない。
でも、だからといって老いて死ぬまでこんな場所にいるのはごめんだった。
このままだと一生外に出られないかもしれない。
そんな漠然とした不安が僕を実験に駆り立てたのだ。
だからそう、あの日に犯したあのミスは疲労が原因だったのだろう。
いつものように巨大な錬金釜に材料となる薬草や物質を入れ、それを脚立からかき混ぜていた僕は、ふいに睡魔に襲われた。この空間には太陽がないので、時間なんてあってないようなものだ。
その日の僕は恐らく徹夜で作業をしてたのに違いない。
(もうちょっと、あと少しなんだ……)
僕は汗だくになりながら釜の中をヘラをかき混ぜていた。
ぐつぐつと煮えたその釜の中には強酸性の液体が入っており、体にかかればただでは済まない。だから専用の手袋をして、この液体から身を守るのは錬金術師の学園で最初に習うことだった。
確かに僕は手袋をしていた。
だがもう1つ、学園で最初に習うことをうっかり失念していたのだ。
――疲労時には錬成を行わないこと。
この鉄則を忘れた僕は、うつらうつらと船をこぎながら体を大きく揺らし始めた。
その時、脚立に乗せた足がズルッと前に滑ったことは今も鮮明に覚えてる。
「あ」
という声を上げたが最後、僕は釜の中に落ちていた。
苦痛を感じる暇もなく、僕の意識は一瞬にして暗闇の中に消えていた。




