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第34話:しもべたちへのプレゼント②

「このオバカ! そこにならいなさい!」


 セラを店から連れ出した後、ルミナは人気の少ない路地裏で烈火のごとく怒り始めた。

 セラは「?」という顔をしてこくりと首を傾げている。

 恐らく、何が問題だったのか状況を理解できていないのだろう。


「こぴー、してなにがわるかった? あのふく、たかい。だから、せつやくじゅつ」


「そういう問題じゃありません! 正体を皆にバラさぬようにとギルドマスターに言われたばかりでしょうが!」


 僕は腰に手を当てるルミナの横でうむうむと頷いた。

 もう一度言うが、彼女に悪気はなかったのだろう。

 ただ売られている商品を勝手にコピーし、取得するなんて泥棒と同じだ。人として決してやっていいことではない。


「公の場でやるから問題なのです。やるならこっそりやりなさい!」


「ルミナ!?」


「あうぅ~、ごめなんさい」


「いや、そういう問題じゃないからね!? 倫理的に普通に駄目だから!」


「ククク……まあ、別に良いのではないか? 通常の窃盗とは違い、物が減ることはないのだから」


 ……そういう問題なのだろうか?

 どうもスライムと人間の認識には重要な齟齬があるようだった。


「全く、こっそりコピーすれば金貨を4枚も節約できたのに!」


「だから、そういう問題じゃないってば! 違法コピーは普通に駄目だからっ!」


 確かに彼女たちの言うことは一理あるようにも思われた。

 人に迷惑は掛けないのだからいいじゃないかという理屈だ。


 ただ今回に関しては、ぼくは個人的に彼女たちに何か贈り物をしたかった。

 ダンジョンの遥か奥底で八カ月間も生存できたのは彼女たちのおかげに他ならかったからだ。


「あー、ごほん! とにかくだ、ルミナとアンブラ。とりあえずお前たちにも服をプレゼントするよ。セラにだけ買って君らに買わないのはいくらなんでも不公平だからね」


 僕はまともな感性で発言をしたつもりだった。

 だが、先ほどのセラと同じように、こちらをじっと見つめる2人は別に必要ないと言う。


「な、なんで!?」


「フフフ……我が王よ。我は、この漆黒の装束を大いに気に入っているのだ。特にこのひらひらがいい感じなのだ。代わりの装束は必要ない」


「私も同じ意見です。メイド装束はマスターへの忠誠を示す大事に小道具。実用性もとても高く、市場をざっと見た限り、これ以上の服は見当たりません」


 しもべたちは実に謙虚であった。

 まともな女性経験のない僕だけど、普通、このようなイベントは喜ばれるものだと思っていたけど……


「そ、そっか……」


 僕はがっくりと肩を落とす。

 すると残念な気持ちが伝わったのか、ルミナとアンブラは顔を見合わせて何やら言葉を掛けようとする。


「あー、ごほん。その、あれだ。せっかく我が王が家臣に褒美を賜ってくれるというのに、それを断るのは失礼かもしれん」


「ええ、そうですね。マスターのご好意を無駄にすることは、私としても本心ではありません」


「服以外でもなんでもいい。我が王よ、我への褒美を選んでくれ」


「え、もしかして、僕に任せるというの?」


「ますた、せきにんじゅうだい」


 シルクのワンピースを着たセラは呑気にそんなことを言った。

 しかし先にも言ったように、僕には女性経験がほとんどないのだ。そんな状態で女の子たち(ただしスライム)にプレゼントを選べと言われることは、僕には拷問に近かった。


「ククク……気負うことはないぞ、我が王?」


「ええ、そうです。我々はマスターを信じています」


 くそっ、この2人。普段は結構喧嘩するくせに、こんな時だけは息がぴったりだ。

 僕は恨めしい目でルミナとアンブラを見やった。


 そうして、ごほん、と咳払いする。


「ちなみになんだけど二人とも、どういう系統がいいとかある?」


「無い。我が王のセンスに任せる」


 ぐっ……そういうのが一番、困るんだよなぁ……


 僕は表の通りに出ると、2人を観察し始めた。

 これは数少ない経験則だが、女性側の提示する「なんでもいい」を文字通りの意味で受け取ってはいけない。何か、こちらが察すべき正解があるはずなのだ。


 その時、僕はアンブラがこっそりと近くの露天にある何かを見ていることに気が付いた。そちらに近付いて行ってみると、彼女の視線を引き付けてるのはシルバーの髑髏の眼帯らしかった。もしかして、これが気になるのだろうか?


「これにする?」


「あ、いや、いい」


「どうしてさ?」


「むぅ、だって……戦闘の時にこんなもの付けたら流石に邪魔になるからな」


 僕は素直に驚いた。

 普段は割とお調子者なこの姉妹たちの末っ子だが、意外と真面目な一面もあるらしい。


「じゃ、こうしよう。あれは、あくまでアクセサリーとして戦闘時以外に着けるのはどう?」


「む、我が王よ、天才かっ!? それなら実用性とか気にせず気軽に着けられるじゃないかっ!」


 そう言うとアンブラはその眼帯を手に取って、一瞬、ちらりと上目遣いにこちらを見つめた。


「か、勘違いするでないぞ、我が王? これは我自信がこの装飾の価値を見出し、買うという結論に至ったのであり、我が王に言われたからじゃないんだからなっ!」


 なぜか、こちらをずびしと指差してツンとした表情になるアンブラ。

 別に怒ってるわけじゃなさそうだけど、思春期病の女の子の考えることは相変わらずよくわからない。


 そて、そうなったらお次はルミナだ。

 彼女の表情は常にクールなので何を考えてるか読みにくい。


「ルミナも装飾品でいい?」


「ええ、なんでも。マスターの選んでくれたものならば別に文句は言いません」


 ……うん。絶対、嘘だ。

 特にこういう大人びたタイプの女の子は、直接口には出さなくても裏では色々と考えてるものだ。

 僕は周りの露天を見渡し、カチューシャのように頭に着ける大きなリボンを手取ってみた。普段のメイドカチューシャのバリエーションになるかもしれないと思ったからだ。


「……あの、マスター、正気ですか?」


「あんま気に入らない?」


「逆に聞かせていただきたいのですが、こんなフリフリのピンクのリボンが私に似合うと思いますか?」


「そうかな? ルミナは美少女だからなんでも似合うと思うんだけど……」


 僕は嫌味でもなんでもなく、心の底で思ったことを言った。

 ルミナは僅かに頬を赤らめると「……そこまで仰るのでしたら」とカチューシャを付ける。


 次の瞬間、アンブラがぶっと噴き出した。

 「ますた、あくしゅみ」と追い打ちのようにセラが妹を攻撃する。


 いくらなんでも、そこまで言うか!?

 なんていうふうに思ったけれど、まじまじルミナを見つめると、確かに……うん。クールな印象の彼女には思った以上に似合わない。


 プライドを傷つけられたのかルミナはぷるぷる震えだす。

 ま、まずい! これ適切なケアをすぐにやらないと後々、禍根を残すやつだ!


「じゃ、じゃあルミナこれ! これはどう!?」


 僕は咄嗟に商品を選び、ルミナに「はい!」と手渡した。

 それはべっこうの素材でできた小さな簪だった。


 僕はカチューシャをそっと彼女から取ると、代わりにそれを着けてやる。


「どう? これ、ここに鏡があるよ?」


「ほう、流石だな我が王よ。苦し紛れに選んだにしては中々のセンスと言っていい」


 うるさい末っ子!

 僕はちらりと値札を見た。

 貴重な素材を使ってるためか、普通に結構、いい値がする。


「このようなものをいただいて本当によろしいのですか?」


「今まで、ジョン・ドゥームの日記の件とかでも、君には特にお世話になったからね。これはせめてものお礼だよ。よかったら、受け取ってくれるかい?」


 ルミナは簪を手に取ると、それを大事そうに胸に抱え、クールな顔にやわらかな微笑を浮かべた。


「マスターこれ、末永く大切にします」


「そうしてくれると嬉しいな」


 僕も彼女に微笑えみ返した。

 こうして、しもべたちへのねぎらいミッションはひとまず完了したのだった。

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