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第33話:しもべたちへのプレゼント①

 シェリルさんのアドバイスに従った僕は、その日のうちに自身の住居をギルド斡旋の借家に変えた。


 と、いうのも、前に住処にしていた宿屋は〝棺桶宿コフィーン〟と呼ばれるものであり、それは薄いカーテンで仕切られた寝藁にのベッドが棺桶のように等間隔に敷き詰められた文字通りの意味の宿だったのだ。


 それが今では机とベッド、それにクローゼットもある、まともな住居へ見事にランクアップした。


 退魔の指輪は便利そうなので1つは手元に残しておいたけど、他の9個を売るだけでも借家に数年住めるだけのまとまった金になったのだった。


 ルミナ曰く「マスターは偉大な錬金術師アルケミストなのでもっと上等な場所に住むべきす」とのことだったが、これでも生活水準は飛躍的に上昇したといえる。


 僕が偉大かは別として、いずれはもっといい住居に移りたい欲はなくもなかったが、アイテムを全て換金するのは時期尚早だと思われた。


 何せ、冒険者業は狭い世界。

 あいつがいくら儲けただとか、急に金持ちになったとか、そういう噂は広めたくなくても勝手に広まってしまうのだ。


 さて、そんなわけで当面の住所をそこそこの場所へ鞍替えした僕は、次にしもべたちの服を揃えてやることにした。特にセラ。この子は外に連れ出すには非常にまずい格好をしている。


 エイネスト中心部に居を構えたそこそこの大きさのある服屋に足を踏み入れると、さっそくセラに合う服がないかを店主に聞いてみた。


 その反応は実に怪訝なものだった。

 錬金術師アルケミストとの正装をした僕に、ミニスカメイドとゴスロリ少女、さらには裸ワイシャツの幼女という組み合わせは、共通点が何もない、異色のものに見えたのだろう。


 セラの頭に手を置いた僕は「この子は元々孤児でして……」と、若干くるしい言い訳をした。なぜなら孤児だと言う割には体には傷もシミもなく、清潔感に溢れている。ただしこうでも言わないと、幼女にこんな格好をさせている僕は変態になってしまうだろう。


 ただ幸いにというべきか、店主の親父はこの子の生い立ちには全然興味がないようだった。


「それで、ご予算はどれだけあるので?」


 彼の興味は財布であった。

 ああ、そうだ。すっかり出すのを忘れていた。


 僕は巾着を取り出すと、その中身を店主の目の前でテーブルの上に広げて見せた。

 じゃらじゃら金貨が広がる音に店主の親父の目の色が変わる。


「こ、こいつぁ……大変、失礼いたしやした。どこかのお貴族様でらっしゃいましたかっ! すぐ最上のを持ってきますので、その辺に掛けてお待ちくだせぇ!」


 店主の親父は慌てて駆け出し、カウンターの奥に一度、姿を消した。


 背後から溜息が聞こえてくる。

 それはルミナのものだった。


「少しは手の内を隠してください。これじゃ、足元を見られてしまいます」


「ククク……良いではないか、ルミ姉っ! この迂闊さこそ我が王なのだっ!」


 ……なんだか暗に悪く言われてる気もするが、敢えて気にしないことにする。


 と、店主の親父がおかみさんらしき女性を連れて、慌てて走り寄って来た。


「さあ、お嬢さん。私が着せてあげますからね。その見すぼらしい服をお脱ぎになってくださいな?」


 いや、それ僕の服……と、思ったけれども、考えてみるとこの服は元々はアレイスターから拝借したものだ。ただ愛着が湧き始めてたので、正面から否定されるとちょっぴり悲しい。


 おかみさんの手にある服を見たところ、それはシルクでできた純白のワンピースのようだった。

 最上のものというだけあって質は確かなようだし、何よりピンク色の髪をしたセラにはいかにも似合いそうに見える。


「いらない、です」


 しかし、突然そんなことを言いだすセラ。

 へ? という表情で顔を見合わせた夫妻は「何を言ってるんだこの子」はとでも言いたげに、こちらの顔を見つめてくる。


「ど、どうしたのさ、セラ?」


「ますたのふくが、おきにいり」


「でも、それじゃ外を歩けないぞ?」


「セラ、そういうのはきにしません」


 いや、気にするんだよ、この僕が!

 思わず、そう言ってやりたくなったが、最初期から着続けている服だけに彼女なりの愛着があるのだろう。


 すると後ろからルミナがつかつか歩き、セラの頭をぱしんと叩いた。


「我儘言うんじゃありません。マスターを困らせたいのですか?」


 言われたセラは涙目になり、こちらの顔を見上げて来た。

 僕は苦い顔で首を振る。

 この子の主を務めるものとして、流石にまともな服の一着ぐらいは買ってあげねばならないからだ。


「セラ、たとえば家の中だとかで着たい時は着てもいいよ。でも、せめて外に出る時はちゃんとした服を買っておこう?」


 僕がやさしく、諭すように言うと、ようやく理解してくれたのかセラはしぶしぶ頷いた。


「ますたのいうこと、したがいます」


「偉いぞセラ」


「じゃあ、とりあえず、さわさわタイム」


 セラは目の前のワンピースに触れると、その質感や全体の形を確かめるようにそれにぺたぺたと触れ始めた。


 ……猛烈に嫌な予感がする。

 制止する声を掛けかけたその瞬間、セラは夫妻の目の前で服の「コピー」を行ってしまった。店主とおかみさんは2人はびっくり仰天。えっ、えっ、えっ、とセラを見る。


「い、今一体、何が起こったんで!?」


「き、着てた服が一瞬で!?」


 僕らは咄嗟にセラの周りをガード。

 コピーした服を隠しながら「こ、この子は特別なスキル持ってるんですぅ~!」「服は買い取らせていただきますぅ~!」と、見苦しい言い訳をし始める。


 こうして僕は多めの金貨を店主の手に無理やり握らせると、呆気にとられた彼らの前から強引にセラを連れ出したのだった。

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