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第32話:受付嬢のアドバイス

 さて、その後……


 宿屋で一晩過ごした僕は、次の日、魔物のドロップアイテムの査定をギルドに依頼することにした。


 ただ1つだけ問題があった。

 僕は取得したアイテムを工房アトリエに預けた状態で地上に帰還したわけだけど、それを地上で呼び出すことができなくなっていたのである。どうやら、あれはダンジョンの魔力で稼働する装置だったらしい。


 そこで僕は再度ダンジョンに入り、表層の目立たない場所に行くと、そこで【開門ゲート】を発動した。


 そうして手に入れた魔石やその他のドロップアイテムを袋にぽんぽん詰め始めたのだけど、冷静になって考えてみると、突然やって来たソロプレイヤーが、袋いっぱいにアイテムに詰めて地上に出るのはどう考えても怪しすぎる。


 もしかすると……以前の呑気な僕なら、そんな難しいことは考えずに一度にアイテムを運んだかもしれない。けれどもジェイドの裏切りによって辛酸を舐めさせられた今の僕は、冒険者という人種そのものに不信感を抱くようになっていた。


 そこで、とりあえず価値の高そうなものを少量選ぶと、僕はこそこそと工房アトリエを抜け、ギルドの換金所へ行った。


 ただ今にして思ってみると、この行為すらも脇が甘かったかもしれない。

 なぜなら、イビルスケルトンとの戦闘で手に入れた例の10個の指輪。

 それを見せた時の鑑定士の女性の反応は実に大げさなものだったからだ。


「しぇ、シェリルさ~ん! ちょっといいですかぁ~?」


 ふわふわの髪を後ろでひと纏めにした緩い雰囲気のお姉さんが、同僚である眼鏡の女性の名を呼ぶ。


 呼ばれてやって来たシェリルさんは鑑定士のお姉さんに「何?」と首を傾けてみせた。するとお姉さんは、こちらをちらっと見てからシェリルさんの耳にひそひそ何か耳打ちする。


 と、シェリルさんが顔色を変えた。


「……とりあえず、事務所に来てもらっていい?」


 そう言われ、受付の奥に通される。

 もしかして、何かまずいものでも持って来てしまったのだろうか?

 事情を飲み込めない僕は怒られないかと不安になる。


「……単刀直入に言うわね、クリフ君。あのアイテムは、ここでは買い取れない」


 石造りの壁の中に長机と椅子が置かれただけの簡素な事務所。

 そこでシェリルさんは真剣な顔で僕に向かってそう言った。


「もしかして呪いのアイテムとかでしたか?」


「いいえ、違うわ。その逆よ。アイテムの価値が高すぎてギルド(ここ)では取引できないの」


 申し訳なさそうにするシェリルさん。

 なんでも彼女曰く、あの指輪は「退魔の指輪」と呼ばれるもので、身に着けているだけでアンデッドへの魔法の威力が大幅に上がる魔道士メイジ垂涎すいぜんのアイテムらしい。


 流石は最深層のアイテムだ。

 シェリルさん曰く、換金するには専門の場所を通す必要があるという。

 

「8カ月間も深層にいたってことは、他にもまだまだアイテムあるわよね?」


「ええ、一応」


「じゃあアドバイス。今、泊っている宿屋から、すぐギルド公認の借家に引っ越すといいわ。なんなら家を買ってもいい。突然、羽振りがよくなった冒険者って思った以上に狙われやすいから」


 確かに、それは盲点だった。

 ジェイドの一件にまるで懲りてないことを改めて思い知らされる。


 彼女の口ぶりからすると、恐らく僕が持つアイテムを全て売り払えば、家の一件ぐらいなら余裕で買うことができるのだろう。深層の魔物のドロップアイテムというのはそれだけ高い価値を持つ。


「親身になってもらってありがとうございます」


「気にしないで、これが仕事だもの」


 そう言うとシェリルさんは眼鏡をくいっと上げて「ちょっと待ってて」と僕に言った。なんでもギルド公認の寮のカタログを取りに行ってくれるとのことだった。


 いい人だ、本当に……

 もし、あの人に恋人がいるなら、その男は幸せ者に違いない。





 ――なるほど。マスターは、ああいうタイプの女性が好みですか。





 と、ふいに、腰元に下げた小瓶の中からじっとりとした思念こえが脳に送られてくる。

 それはルミナのものだった。


「な、なんのこと?」


 ――終始ニヤニヤしてました。


「……気のせいだ」


 ――鼻の下もだらしなく伸びていました。


「だから気のせいだって!」


 ――ククク……案ずるでないぞ、ルミ姉。我が王は存外、臆病ゆえに、あれが好みの女としても王の方から手は出せまい。


 やかましいわ! と言いたくなったが、これ以上しゃべるとしもべたちにペースを握られそうだったので僕は押し黙ることにした。


 やがてシェリルさんが戻って来る。

 その手にはギルド公認の住居カタログが握られていた。


「さっき誰かと話してた?」


「……独り言です」


「あら、そうなの? ずいぶん、おっきな独り言ねぇ」


 眼鏡の女性はくすくす笑った。

 恥ずかしくて顔をうずめたくなる。


「ああ、そうそう。それともう1つ言い忘れてたけれど、あなたのスライムちゃんたちにまともな服を買ってあげなさい」


「服ですか?」


「特にピンクの子。あの格好じゃあ、まともに外を歩かせることもできないわよ?」


 それは確かにそうである。

 セラは着る服がなかったために、臨時で僕のワイシャツを全裸の上に着せていたが、冷静になって考えてみると、あの格好の彼女を連れ回すのは変態行為に他ならない。


「ど、どんな服がいいでしょう?」


「そりゃあ、あなたのセンスの見せどころよ」


「いや、そんなこと言われても……」


「だったら、私が選びに行こっか? それこそ、今度の休日にでも?」


 僕は「ふぇ!?」と声を上げた。

 そそそ、それって、もしかしなくてもデートのお誘いというやつなのでは!?


 だがしかし、その時、受付の方から「シェリルさ~ん!」という声が聞こえてきた。

 仕事が立て込んでるらしい。

 彼女は僕に「ごめん、また」と言い、その場からいなくなってしまう。


 ――我が王よ、見事に伏線フラグを折られたな。


 言うんじゃないよ、我がしもべ……


 がっくりと肩を落とした僕は、事務所の椅子に改めて座ると、シェリルさんが持ってきてくれたカタログに投げやりに目を通し始めたのだった。

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