第24話:アンブラ誕生
アンブラが放った大魔法により僕らはアイアンゴーレムを倒した。
役目を終えたアンブラは「束の間の別れぞ」と言い残し、髪の毛をピンク色にした。そのままみるみる体が縮み、見慣れた顔が戻って来る。
「……ますた、おわった?」
そう聞くセラに、僕は頭を撫でてやりながら「終わったよ」とささやいた。
幸いルミナは無事だった。
意識を取り戻した彼女に事の顛末をかいつまんで話すと、彼女は少し驚いた顔になり、その後セラを見てこう言った。
「そこまで自我が目覚めているなら、誕生は遠くないでしょう」
その後、僕たちは宝箱から報酬の鍵を取り、ドロップアイテムを拾うと【開門】で拠点の工房に戻った。
ルミナの予言は的中した。
なぜなら、そう言ってから1時間と経たずにセラが下腹部をさすりながら「うまれそう」と言い出したからだ。
僕らは急いで準備した。
錬金釜に入ったセラは、ルミナが生まれた時のように、頬をぽうっと赤らめてその時が来るのを静かに待つ。
するうち、それはやってきた。
セラは体を液化させピンク色のゲルの状態になると、ぐつぐつ煮え立ち、発光し、細胞分裂を始める。
やがて漆黒の塊が塔のようにぬるりと立ち上がる。
固唾を飲んで見守っていると、それはドロリと形を変えて、やがて艷やかな黒髪を持つうら若き乙女に変身した。
「さっきぶりだなっ、我が王よ! 悠久の眠りより目覚めし我が肉体を、その目に存分に焼き付けるがいい!」
ドヤ顔で言うアンブラを、僕はあらためてまじまじ見つめた。
年齢は多分14ぐらい。
前髪がぱっつんと切り揃えられた長い黒髪を持つ彼女は、まるで血のように鮮やかな深紅の瞳を持っており、その顔立ちは他のスライムたちと同様にとても整ったものだった。
その身は細く、しなやかで、絹のようになめらかな白い肌と長い黒髪とのコントラストが彼女の美貌を際立たせている。
僕は、ごくりと唾を飲む。
胸は、まあ……そこそこある。
流石にルミナほどのボリューム感こそないが、しっかりとそこにあるのがわかる〝ほどよい大きさ〟をしていて、ほっそりとした体とのコントラストと相まって僕には非常に目に毒だった。
「マスター」
すると隣に佇むルミナからじっとりとした視線を感じる。
「そんなに裸が好きですか?」
「い、いや、そんなことはないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
僕はアンブラから目を逸らし、ごほん、と大きく咳払いをした。
ルミナは割と嫉妬深い。
ここで「好き」なんて答えようものなら「では私も脱ぎます」とか本気で言いかねないから、アンブラの裸体に見惚れていたことは胸の奥底にしまっておくことにした。
「と、とりあえず、服を着ようかアンブラ。衣装部屋へ案内するよ」
僕はいったんシャツを貸し、仮の衣装を着せると、釜の底にいるアンブラに手を貸して這い上がるのを手伝った。
その後、衣装部屋に来た彼女は、それほど長い時間をかけずにお気に入りの衣装を見つけたようだった。
「うむ、これだ。これが気に入った。これこそ我にふさわしい」
アンブラは選んだ服をぺたぺたと触り、質感などを確かめる。
すると黒色のゲルが肌からどろりと染み出して、それがどんどん固まってゆく。
最終的に彼女が纏っていたのは、長いスカートにたくさんのフリルが付いた漆黒のドレスだった。
ゴスロリファッション――かつて学園で一時期流行っていた、古風な装いそのものだ。
僕は感嘆の声を上げる。
それは彼女の雰囲気に非常に合っていたからだ。
「ククク……我が王よ、どう思う? 我が選んだ装束を?」
「完璧だよ」
「フフフ! 聞いたか姉上よ! 我が王が我を褒めてくれたぞっ!」
「そうですか。それはよかったですね」
ルミナは興味なさげに答える。
その様は、ちょっとお調子者な末っ子を適当にいなす本当の姉のようだった。
さて、その後。
セラとルミナの休養&アンブラアーマー開発のために、僕らはしばしその場所に拠点を築くことにした。
「ククク……我が王よ、契を交わそう。互いの肌を重ね合う、魂と魂の契約を」
「いや、あの、普通に纏うだけだからね? それ以上のことはしないから」
アイアンゴーレムと戦った円形の闘技場の中で、僕は目の前のアンブラに言った。
「フフ……そうだな」っていう感じに悪乗りしてもよかったのだけど、あいにく僕は〝そういう時期〟をもうすでに終えているのである。
これから訓練を始める。
僕は彼女の胸に触れ【鎧化】と呟いた。
一瞬、やわらかな感触があるが、それはすぐ液化した感触に変わり、顔を除いた全身を覆う柔軟性のある防護膜となる。
漆黒の鎧(仮)を纏った僕は、例によってそのまま歩いたり、走ったり、ジャンプしてみたりしてみた。
色々試した感想としては、スピードはセラアーマー以上、ルミナアーマー以下というところだろうか。いずれにしても後衛としては申し分ない速度に思えた。
次にやったのは魔法のテストだ。
僕は30センチほどの短い杖をアンブラアーマーから生成すると、暗黒魔弾を始めとした、彼女の得意とする闇属性魔法を闘技場の壁に向けて次々放った。
魔道士ではない僕にとって、魔法を放つ感覚は非常に新鮮だった。爽快だったと言ってもいい。
けれど実際に訓練を始めると、狙った場所にそれを当てるのはかなり難しいというのがわかった。実際に魔法を使っているのは僕じゃなくアーマー化したアンブラなのだけど【鎧化】している最中は、それを発動する主導権はこの僕にゆだねられることになる。
――フフフ……苦戦しているようだな、我が王よ。我がアシストしてやろうか?
――うん。ぜひ頼むよ、我がしもべ。
こうして僕はアンブラと共に魔法訓練に明け暮れた。
鎧のブラッシュアップの時間も含め、 結局かれこれ10日間、僕は今いるこの場所に留まることになったのだった。




