第22話:鋼鉄の巨人
魔物が頻出する道を超えた先、そこには円形の部屋が広がっていた。
その周りには松明の火が灯り、中央には大きな宝箱がある。
……デジャヴである。
このような構造をした部屋を前にどこかで見たような気がする。
「ますた、ここ、さいしょのへやに、にてる」
大きな宝箱を指差したセラに僕は「そうだね」と頷いた。
そう、あの時……最下層での冒険を始めたばかりの頃、イビルスケルトンと連戦したあのボス部屋に、この空間はよく似ていた。
ただし、あの時とは違い、その先に分岐ルートはなかった。
あるのは錠が掛けられた金属製の扉のみ。
「あれかな、これは? この宝箱の中身は鍵で、でもその鍵を手に入れるためには強い魔物と戦わなきゃいけないってところだろうか?」
「まあ、流れ的にそうでしょうね」
「ルミナの指で開けられない? なんていうか、こう、指先を鍵穴の形に変形させる感じで?」
邪道な提案を口にすると、ルミナは肩をすくめてみせた。
「期待しないでくださいね」と言いながら扉の方に進んだ彼女は、言われた通りの動作をする。だがしかし、すぐに首を振り、
「駄目です、マスター。これは魔法の錠です。正しい鍵を入れなければ開かないようにできています」
そう淡々と事実を告げた。
まあ駄目元での指示だったから、そこまで落ちこんだりしない。
その後に僕は、以前手に入れた銀色の鍵を差し込んでみた。
死神騎士を倒した時に宝箱から出てきたものだ。
「駄目だ。そもそも入らない」
けれども、それも駄目だった。
正直、こっちの鍵には少し期待していたところがあったのだが、正攻法のやり方でないとこの先には進めないらしい。
「引き返しますか?」
「ううん、そうだなぁ……」
僕はしばらく考え込んだ。
目の前にあるギミックが厄介なことは予測できる。
一度、引き返し、別の分岐を見るのも決して悪い手じゃないだろう。
でも、ここまでの道中には、たとえばカースドウルフといったスライムにとって厄介な敵がたくさん出てきた。引き返して再度、消耗するのは徒労なのではなかろうか?
「……いや、ルミナ、このまま行こう。日和っていても仕方ないよ」
「マスターがそうおっしゃるなら」
そういうわけで僕たちは試練に挑むことにした。
ちなみに【鎧化】はまだしない。
相手の種類を見た上で、より有利になるスライムをこの身に纏うつもりだった。
「じゃあ、触るよ」
そう言って、僕は宝箱に手を触れる。
すると聞き慣れたアラームが鳴った。
ボスが出現する際にどこからか響く警告音だ。
しばらくすると前方の壁が大きく盛り上がり始めた。
ボコッと壁を突き破り、それは堂々とそびえ立つ。
うわっ、なんだあれ!?
思わず僕はそう叫びたくなる。
それは今まで見聞きしてきた魔物のどれとも異なる姿をしていたのだ。
ゴーレムという魔物がいる。
体が硬い砂でできた非生物系の魔物である。
目の前の魔物のシルエットはそれによく似ていた。
人工的な四角いパーツを寄せ集めたような形状のボディに、円筒のような形状の手足。ただ異なるのはその大きさが一般的なゴーレムの倍以上はあることだった。しかも体がピカピカと金属質な光沢を帯びている。
〝アイアンゴーレム〟――咄嗟に僕はそう名付けた。
大きさは多分、5メートルはゆうに超えているに違いない。
それがズシンと一歩踏み出した時、僕は咄嗟にセラに触れ【鎧化】と叫んだ。直後、僕の体に出現したのは法衣のような形状をした防御重視の重装甲。
僕はメイスを生成すると、ズシンズシンと迫りくる敵に臆さずそれを振りかぶり、
「おりゃあああああああああああ!」
思い切り胴に叩きつけた。
ガキンと鋭い音がする。
硬化したセラのスライムメイスが根本から折れた音だった。
「嘘ぉ!?」
衝撃で腕がじんじんと痛む。
「ますた、うえ!」
「わかってるっ!」
僕は下半身に魔力を送り、思い切りバックステップした。
間一髪、今しがた自分がいた場所に鋼鉄の拳が振り下ろされる。
衝撃でビキビキと地面が割れた。
こんなものを直に食らったら、いくらアーマーを纏っていても僕はぐちゃぐちゃになるだろう。
「気を付けてください、マスター! 今、奴の拳から呪力の波動を感じました!」
「つまりルミナたちも危ないってこと!?」
「ええ、そうです! 逃げる回るしかありません!」」
それを聞き、僕は敵から距離を取った。
重量がかなりあるせいか〝アイアンゴーレム〟の動きは素早くない。
しかしルミナの毒攻撃が効くような相手には思えなかった。
メイスが折れたことを思うと彼女のナイフの攻撃も効果があるとは思えない。
どうすればいい!? 考えろ!
僕は脳みそをフル回転させ、この危機を乗り越える方法を考えた。
「ルミナ、金属を溶かす毒は作れない!?」
「……残念ながら専門外です」
「セラ、もっと硬いメイスを作れる!?」
「さっきのが、いちばん、かたいやつ」
僕はスライムたちに矢継ぎ早に聞くが、返ってきたのはそんな言葉。
ズシン、ズシン、と迫り来る巨体から逃げること自体は難しくない。
だが僕自身も従僕たちも体力は有限なのである。
このまま逃げ続けていても、いつか限界が来るだろう。
まさしく、これは背水の陣。
来た道はすでに塞がれていて、僕たちは今、死の牢獄の中に閉じ込められた状態だった。
するとアイアンゴーレムが、突然、歩くのをやめた。
代わりに、こちらに手を向けて狙いを定めるような動作をする。
直後、ゴーレムの体から黒いオーラがにじみ出た。
カースドウルフが纏うのと同じ呪力を帯びたオーラである。
「マスター、伏せて!」
ルミナがそう言い僕らの前に立ち塞がるのと、アイアンゴーレムの指先から大量の鉛玉のようなものが噴射されるのは、ほとんど同じタイミングだった。火薬が爆ぜるような音を聞き、僕は反射的に目をつぶる。
ややあってから目を開けると、僕らがしゃがんだその前に、穴だらけになったルミナが力なく横たわっていた。
「ルミナっっっ!」
僕は慌てて彼女に駆け寄る。
セラアーマーでヒールをかけるが彼女はピクリとも動かない。
弾丸を発射し終えた後、アイアンゴーレムは背中からブシューと煙を吐いて、そのまま動きを停止した。何が起きたのかはわからないけれど、技を使った反動でしばらく動けなくなったのかもしれない。
セラアーマーを纏った僕は、その隙にセラにありったけの魔力を送り、ルミナの治癒を試みた。だが全身で僕をかばったせいで彼女の傷はかなり深く、意識が中々戻らない。
「頼むルミナ、持ちこたえろ!」
僕は全身全霊で彼女をヒールし続けた。
幸いコアが無事だったおかげ全身の傷は塞がったものの、呪力はまだ体に残っている。それらを完全に取り除くためにはかなりの時間がかかるだろう。
その時だ。
煙を吹いているアイアンゴーレムがギシギシと体を軋ませながら、腕を元の位置に戻した。攻撃の反動が過ぎたのだろう。再び起動しようとしている。
万事休す。
もはや、これまでか。
……いや、諦めるのはまだ早い!
神でも悪魔でもなんでもいい。
それらに魂を売ってでも、この状況を打破する術を手に入れたいと僕は思う。
――汝、力を欲するか?
その時だった。
突如、脳内に何者かから思念の声が鳴り響いた。




