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第17話:2つの選択

「少し離れていてください」


 そう言ったルミナは沼に近付くと、ぬかるみの中に手を突っ込んで、あろうことかそれをペロリと舐めた。


「る、ルミナ!?」


「大丈夫です。毒の成分を分析するので少しの間、時間をください」


 メイド姿のポイズンスライムは眉1つ動かさず冷静にそう言った。

 僕は彼女の言葉を信じ、セラといっしょに後ろで待つ。


「……かなり厄介な毒ですね。強い酸性を持つ上に、揮発性もあり危険です。マスター、念のためもう少し下がってください。空気が汚染されています」


 その後、1分か2分の間、ルミナはその場で考え込んだ。

 だが、やがて手から無色透明の液体を滴らせ始める。


「この粘液で体を覆えば毒に侵されることはありません。ただ、それは私自身か私を纏ったマスターに限った話です」


「セラの体に塗っても駄目ってこと?」


「少しの間なら大丈夫でしょうが、あまり長くは持たないでしょう」


 それは由々しきことだった。

 セラを瓶の中に格納し、その上でルミナアーマーを【鎧化アムド】すれば、この先を渡ることはできる。


 だがしかし、それはセラ本体、あるいはセラを纏った僕という貴重な戦力を犠牲にしなければならないことを意味する。この先の道を進む上で、強力なヒーラーを封印することは大きな痛手になるだろう。


「セラ、おるすばん?」


「少し考えさせて。……ルミナ、このことをどう思う? 引き返した方がいいだろうか?」


「他の2つのルートを行くべきか、という話ですか?」


 僕は頷いた。

 多分、この道はルミナにとっては非常な有利なルートだろう。

 セラの離脱を差し引いても、ポイズンスライムである彼女の毒耐性は大いに役立つからである。


 ルミナは顎に手を当てて、少しの間、考えた。


「最終的な決定権はマスター自身にありますが――」


 そう前置きして彼女は私見を述べ始める。

 なんでも自分が指揮官であれば、この状況では間違いなく、今のこの道を選ぶだろうということだった。


「ここへ至るまでの道のりは一本道でした。途中で魔物に出くわすこともなく【鎧化アムド】を温存した状態で戦闘を回避できています。ですが、他の2つの道はどうでしょう? 分岐の先に分岐があったり、魔物の襲来が頻発すれば、遭難やダメージを負うリスクを覚悟しなければなりません」


 彼女の言うことはもっともだった。

 この道ではセラを使えないリスクがある。

 だが、それは今の段階で予想することのできるものであり、未知のリスクに晒されるよりは数段マシだというわけだ。


 僕は「よしっ」と頷くと、セラの頭にぽんと手を乗せた。


「今回はセラは留守番だ。その代わり、毒の地帯を抜けたらお前にもはたらいてもらうからな」


 かくして作戦は決定した。

 僕はピンク髪のしもべを粒子に変えて、腰にぶら下げた瓶の中に格納すると、前にいるルミナと頷き合って彼女の胸に手を掛ける。





「【鎧化アムド】!」





 瞬間、ルミナの体が溶けて紫色のゲルになる。

 僕の体を覆ったそれは一瞬のうちに固まって、この1週間で会得した暗殺者アサシンを思わせるアーマーへと瞬時に形を変えていた。


 ――マスター、今回のアーマーですが、揮発性のある毒なのでフェイスシールドを追加します。これを通した空気であればマスターにとって無害ですし、万が一目に毒が目に入ることも防げるようになるでしょう。


 ルミナは念話でそう言った。

 同じく念話で礼を言い、僕はいかにも毒々しい沼地に足を踏み入れる。


 ほぼ無尽蔵に魔力を作れる「賢者の石」と化した僕ではあるが、体力と、そして集中力は常人のそれと変わらない。特に【鎧化アムド】をしている時は全身の筋肉に微細なコントロールを求められるため永遠に纏い続けることはできない。


 だからこそ、僕はこの場所をただちに抜け出したいと思う。

 けれど油断は禁物だった。こういった場所には大抵の場合、その環境に適応した魔物が生息しているからだ。


 ――マスター、上です。


 ――うん、わかってる。


 僕は足を止め、そいつらを持った。

 すると天井付近に張り付いていた、ぬめぬめとした生物たちが、ぼちゃんと沼に落ちてくる。


 それは中型の魔物であった――ヤドックトード――解毒が非常に難しい致死性の猛毒を持つことで知られているカエルのような魔物である。


 サイズは大型犬ぐらい。

 派手な警戒色を持つ5体のヤドックトードたちは、大口開けて一斉にこちらに唾を吐きかけてくる。


 ――避ける必要はありません。


 しかしルミナは冷静だった。

 ポイズンスライムの彼女は、あらゆる生物毒に対し完全耐性を持っているからだ。致死性を持つヤドックトードの毒でもこのアーマーには通じない。


 その隙に僕はインファイト。

 ダガーナイフを生成し、かたっぱしから敵の皮膚に鋭い切れ込みを入れてゆく。


 すると、どうだろう。

 ヤドックトードたちはビクッと痙攣し、次々と泡を吹き始める。


 ――麻痺毒です。今のうちにとどめを刺してください。


 ルミナに言われるまでもなく、僕はカエルたちの心臓辺りをダガーで無慈悲に突き刺していった。すると彼らは黒煙に変わり、跡形もなく消滅する。

 普通の生き物とは違い、魔物の死体は残らない。

 代わりに「魔石」と呼ばれる結晶体がその場に出現するのである。


 それらは売れば金になる。

 ゆえに僕らは粛々と回収作業にいそしんだ。


 ――地上に戻れば大金持ちだね。


 ――そうですね。このランクの魔物から出た魔石となれば1つ500サルクは堅いでしょう。


 ――〝あいつら〟を見返してやれるかな?


 ――無論です。マスターを罠に嵌めたこと。死ぬまで後悔させましょう。


 念話でそう言ったルミナに、僕は無言で頷いた。

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