第14話:因果応報
時間を半年さかのぼる。
冒険者ギルドのサブロビー、通称リガルミンの酒場の一画にたむろしているパーティがいた。その内の1人、ジェイド・グリードは樽ジョッキの中に注がれたエールを豪快にグビッとあおって唸る。
「あ~~~、最っ高の気分だぜぇ~! そう思わねぇかお前らよぉ~!?」
筋肉質な上腕に無数のタトゥーを入れているこの男は、このパーティ「狼の牙」のリーダーである。
彼が上機嫌な理由はシンプルだった。
昨日のダンジョン探索で、たまたま珍しい魔物を倒した。
その魔物がドロップしたアイテムがかなりの値段で売れたため、彼は昼間から仲間を集め宴を開くに至ったわけだ。
「いやぁ、それにしても運がよかったよな。あの階層に〝アルミラージュ〟が出るなんて」
「ジェイドが最初に見つけたのよね」
「いよっ、我らの大領主!」
周りの仲間たちに持ち上げられてジェイドはますます機嫌をよくした。
彼はウエイトレスを横柄に呼び付け、追加の酒を注文する。
やがて彼の目は据わり始め、どんどん泥酔していった。
「アレだな、多分。俺たち運が向いてきたのは、疫病神を追い払ったからに違ぇねぇぜ」
「疫病神?」
「クリフだよ。あの役立たずのボンボンだ!」
ジェイドがその名を口にした瞬間、周囲の空気が一気に凍った。
彼らは互いに目配せし合い、とても気まずそうな顔をする。
「……なぁ、その話はよさねぇか? ここにゃ人の目もあるしよぉ?」
「……ああ、そうだよ。不用心だ」
周りはジェイドをいさめるが、彼は「へっ」という声を上げる。
「あぁ、なんだぁ? ビビってんのかてめぇらよぉ! あいつは不運にも魔物に捕まり、俺たちの前で食べられたんだ。だよなトム?」
「…………ああ、そうだな」
「いい返事だ。俺たちは何も悪くねぇ! あいつの運が悪かっただけさ!」
そう言い、ジェイドはげらげら笑った。
だがメンバーの顔は彼とは逆に複雑な心境を示していた。
確かに「あいつ」はトロかった。
錬金術師と称するくせに最弱のスライムしか使役できない青年――彼をパーティに置き続けるのは損失が大きかっただろう。
だが、あの青年は彼なりにパーティに貢献しようと頑張っていた。
たとえばヒール。
わざわざ僧侶の魔力を使うまでもないちょっとした打ち身や擦り傷などを彼はスライムで治療してくれた。
たとえば陽動。
毒属性のスライムで獣系の敵を怯ませたり、魔法を使えるスライムで群れをなす魔物に隙を作ったりしてくれた。
決して悪い奴ではなかったのだ。
ジェイド以外のメンバーには、そんな青年を手にかけた罪悪感が多少なりともあるようだった。
周囲の空気を察してか、それまで上機嫌だったジェイドは眉をひそめ、メンバーたちにらみつける。
「オイ、てめぇら。まさか、この俺の判断が、間違ってたとでも言いてぇんじゃねぇだろうなぁ?」
ドスのきいた声で脅されて、皆は一様に首を振った。
「そ、そんなことがあるわけねぇよ!」
「そうだとも! あんたは最高のリーダーさ!」
おだてられた彼は機嫌を直し、再び酒に手を付けた。
一同の顔に浮かんでいたのは、ほっとしたような表情だった。
「ああ、そうだ。俺様は何も間違わねぇ。今後も稼ぎてぇのなら、俺の言いなりになるこったな!」
そう言うとジェイドはウエイトレスに追加の酒を注文した。
だが酒が来る前にテーブルに現れたのは、きっちりとした楕円形の眼鏡を掛けたギルドの受付嬢と、その後に続く屈強な5人の衛兵たちだった。
「あぁ、なんだぁ?」
「評議会からの伝令です」
「よくわからねぇが、とっとと済ませろ」
「では簡潔に。クリフ・カリオスの失踪についてあなたに逮捕状が出ています。ただちに審問を執り行いますので我々にご同行願えますか?」
直後、ジェイドの手元から空のジョッキがガタンと落ちた。




