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第13話:ルミナ誕生

「ご機嫌麗しゅう。マイマスター」


 若い娘がそう言った後、しばらくの間、ただ茫然と僕はその光景に見入っていた。


 年齢は15~6ぐらいだろうか?

 肩口辺りで切りそろえられた紫色の髪、ぱっちりとした芯の強そうな目。人形のように整ったその顔は「美少女」という言葉はこの少女のためにあると言っていいほどのものだった。


 しかも顔立ちだけではない。

 プロポーションも完璧だった。


 たわわに実った大きな胸に、それに相反するようにきゅっとくびれたウエスト。

 見事な砂時計体型だ。

 僕も男の端くれなので思わず意識してしまう。


「触りますか?」


「え?」


「私の体を舐めまわすように見てらっしゃるので」


 謎の美少女にそう言われ、ようやく僕は我に返った。

 僕は少女から目を逸らし、咄嗟に「ごめん!」と口にする。


「なぜマスターが謝るのですか? 我々はマスターの所有物。見ようが、触ろうが、舐めようが、全てマスターの意のままです」


「いや、舐めはしないよ!? 変態じゃないから!」


「では触りますか?」


「触らないって!」


 言うと、少女は不機嫌そうに頬を膨らませたように見えた。「セラにはべたべた触っていたのに……」とか、よくわからない独り言を呟き始める。


「と、とりあえず、何か服を!」


「マスターのものをお借りしても?」


 問われた僕はワイシャツを取り出した。

 それを釜の中に投げ込むと、セラの時と同じように彼女はぺたぺたとそれに触れ、布地をそのままコピーする。


「終わりました」


 という声を掛けられて顔を上げると、そこには僕のワイシャツを纏った比類なき美少女が立っていた。とはいえセラの時とは違い、胸の辺りがぱつぱつで今にもボタンがはじけ飛びそうだ……これはこれで目に毒である。


 僕は少女に手を貸して彼女を釜から這い上がらせた。


「その髪の色……ルミナなの?」


「ええ、そうです。ポイズンスライムのルミナです」


 ルミナは胸に手を当てて、こちらに敬意を示して言う。


 正直言って、不意打ちだった。

 今からおよそひと月前、セラが人型で出て来た時点で、他の2匹もそうなることはなんとなく予想が付いていた。ただセラの外見が幼女だったので、無意識の内に次の1匹もそうなるような気がしていたのだ。


 よもや年頃の娘になるとは……


 しかもこの子はセラとは違い、精神面の幼さを感じない。この新しいメンバーにどういうふうに接すればいいのか、女性経験が未熟な僕は皆目見当も付かなかった。


「マスター、1ついいですか?」


「何?」


「セラのことです。私と分裂する時に相当力を使ったはずなので、しばらく瓶の中で休ませた方がいいかと」


 そう言われ、僕ははっとした。

 ルミナ誕生のインパクトに圧倒されて、母体であるセラの体調のことを気遣うことを忘れていたのだ。


 僕は専用の瓶を取り出すと、言われた通りのことをした。

 ピンク色のゲルとして釜の中に沈殿していたセラは、光の粒子と化してその瓶の中に吸い込まれてゆく。


「大丈夫かな、セラ?」


「大丈夫ですよ。彼女の準備ができたのを見計らって私が表に出ましたので」


「見計らってということは、今までも意識はあったってこと?」


「ええ、そうです。半覚醒ではありますが、これまでのマスターとのやりとりをセラの目を通し見てきました。……正直言って、妬いています。私も早く【鎧化アムド】してマスターを包み込みたいです」


 クールな美少女は表情を変えず、淡々と願望を口にした。

 なんだか、この子はグイグイ来るな……

 1人目の子が無邪気だったから余計にそんな印象が強まる。


 なんていうことを考えていると、突如、ぐぅ~~、と音が鳴る。

 僕ではない。

 ルミナのお腹から出た音だ。


「あの、マスター……」


「うん、わかってるお腹空いたんでしょ」


 ルミナはこくりと頷いた。

 流石に恥ずかしかったのか、表情は変わらないもののその頬は赤く染まっていた。


 彼女は、こほん、と咳払いすると「お願いします」と一礼する。

 そうして、あーん、と口を開けた。


 げ、そうだ……そうだった!


 セラ然り、なぜか人化したスライムたちは、人間の形を保ったまま魔力供給を求めてくるのだ。


 正直、セラにやるのは慣れた。

 彼女の無邪気な性格は、まるで子犬のようであり、その行動が給餌というのを納得できたからかもしれない。


 けど、この姿のルミナに同じこと――口からの魔力供給――を行うことは、幼いセラとは別のベクトルで背徳的な行為の気がしたのだ。


「どうしたのですかマスター? 何をためらっているのです?」


「いや、そのさあ、この姿のままアレやるの、さすがにちょっとアレじゃない?」


「人型のままの供給の方が効率はずっといいですよ。疑似的な給餌器官である口という穴があるからです」


「いや、だけど……」


「それなら別の穴を使いますか? そちらも効率いいですよ?」


「別の穴?」


 そう聞くと、ルミナは僕の耳元に整った顔を近付けてきて、ぼそぼそと何かを打ち明けてきた――直後、ぼふっと湯気が出るように真っ赤に染まる僕の顔。


「どうします? そっちにしますか?」


「いや、いいよ! 口でいいっ! というか口にしてくださいっ!」


 こうして見事な策略により、僕は彼女の要求を受け入れざるを得なくなったのだった。


 ……前途多難な毎日がこれから幕を開けそうだ。

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