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第11話:死神騎士

 死神騎士リーパーナイトと対峙した瞬間、僕の脳裏によぎった言葉は「今すぐ逃げろ!」というものだった。


 だが例によって脱出口は鉄柵によって完全に封じられている。

開門ゲート】によるエスケープができないこともすでに証明されているわけで、ようするに僕は限りなく詰みに近い状態にあったのだった。


 生き残るには勝つしかない。


 ――ますた、くるよ!


 ――わかってるっ!


 セラとの念話が終わった直後、死神騎士リーパーナイト一直線にこちらに向かって突進してきた。

 驚くべきは、その速さ――フルプレートの巨体からは考えられないスピードでこちらを正確に狙って来る。


 受けきれる気がしなかった。

 必殺の鎌が振り下ろされた時、僕は咄嗟にローリングにより死神騎士リーパーナイトの脇を抜けた。空振りになった鎌の斬撃が背後の壁を派手にえぐる。


 無理無理無理! 勝てない、これは!


 死神騎士リーパーナイトの動きには、これまでのイビルナイトのような「怯み」が一切見られない。こちらを完全に獲物として認識している挙動である。


 僕はメイスの一撃を背後から敵に叩き込んだ。

 ガキンと硬い音がする。

 フルプレートのアーマーが攻撃を弾いた音だった。 


 効いてない。

 弱点のはずの聖属性の攻撃が、この化け物には通じない。


 と、振り返りざまに鎌の斬撃が横薙よこなぎにこちらに飛んできた。

 身を伏せてかわすことができたのは、この10日間の経験と、セラアーマーによって強化された運動能力の賜物である。


 とにかく距離を取らなくては!


 僕は円形の広場の中を縦横無尽に駆け回った。

 だが死神騎士リーパーナイトを撒くことはできない。

 攻撃、防御、素早さの全てが目の前の敵には備わっていた。


 弱点なんて見当たらない。

 伝説級レジェンドクラスの敵の理不尽な性能に僕は白旗を挙げたくなる。


 落ち着け僕、考えろ。

 完全無欠の存在なんてこの世に存在しないのだから。


 ――セラ、メイスを触手みたいに伸ばせるか!?


 ――ますた、がイメージすればできる。


 ――わかった、じゃあ……やってみるっ!


 僕が念話でそう聞いたのは、目の前の化け物に単純な打撃が通じないことを痛感させられたからである。


 そこで作戦を変更した。

 メイスを一度、触手のような形に変えて疑似的な「腕」を構成する。そこからヒールを流し込み、イビルスケルトンの時にやったように体を内部から破壊しようとしたのである。


 軽快なバックステップによって鎌の斬撃を交わした僕は、触手をびよんと敵へと伸ばしヒールを叩き込もうとする。

 ただ付け焼刃の作戦なので触手の動きはお粗末だった。

 当然、鎌でガードされる。

 

 ――セラ、ヒール!


 僕が命じた瞬間、死神騎士リーパーナイトはありえない行動を取った。

 なぜか鎌によるガードを解いて、ヒールをあえて自分の腹で食らいにきたのである。


 鎧の腹に亀裂が入る。

 やはりヒールは効くようだが、装甲を破壊するには至らなかった。

 どころか亀裂は一瞬にして何事もなかったように塞がってしまう。


 そんなのありかよ! と、僕は思った。

 アンデッドのくせに再生能力持ちとかいくらなんでも無法すぎる。


 だが引っかかる点が1つあった。

 いくら再生できるとはいえ、相手はどうして鎌ではなく腹で攻撃を受けたのだろうか?


 考えてる間に攻撃が来て僕の思考は中断される。

 死神騎士リーパーナイトの斬撃を、僕はスライムシールドによってかろうじて受け止めた。


 腕がビリビリと悲鳴を上げる。

 該当箇所を局所的に硬化させるスライムシールドだが、セラが聖属性でなかったら、今頃、僕の左腕は宙を舞うことになっていただろう。


 その後も敵の猛攻は続いた。

 僕は死の鎌が迫ってくるたび、ローリングしたりシールドを使ったりして、なんとかそれを退けた。


 だが限界は遠くない。

 心身の疲労は限界だった。

 セラアーマーを着ているとはいえ、それを操るのは僕だ。集中力を少しでも切らせばあっという間にあの世行きだろう。


 と、死神騎士リーパーナイトが大振りの一撃をこちらに叩き込もうとした。

 だが大きすぎるその鎌は狙いを外して壁へと当たる。


 その隙に僕は距離を取りセラに念話でこう聞いた。


 ――なんでもいい! 何か感じることはないかセラ!?


 ――なんでもいいの?


 ――なんでもいい!


 ――えっとね、ますた、なんとなくだけど、あの鎌からイヤなかんじがするよ?


 ――どういうふうに嫌なんだ?


 ――えっとね、なんか黒いものが、あそこに集まってる感じ。


 それを聞き、僕ははっとなる。

 学園で得た知識によれば、アンデッド系のモンスターには2種類のタイプがいるという。1つは死体が怨念によって蘇ったというタイプ、そしてもう1つはアイテムが死体を操っているパターンである。


 先ほど見せた不自然な挙動――ヒールをかけようとした時に、わざわざ鎌を引き離したのを見ると、もしかして()()()()()()()()()()なのではないか?


 そう思い、僕は作戦を立てた。

 どの道、何かをしなければ両断される運命なのだ。


 死神騎士リーパーナイトが僕に向き直る。

 アンデッドには自我がないと言われているが、その、もの言わぬ巨体からは「次の一撃でしとめてやる」という気迫が出ているように思われた。


 それは、こっちも同じである。

 僕は念話でこれからやることの指示をセラに送ってやる。


 ――ますた、それ、ほんとにやるの?


 ――ああ、もうそれしか手はないと思う。


 ――あぶないよ?


 ――わかってる。これはもう一か八かの賭けだ。


 死神騎士リーパーナイトが突進して来る。






 その死の鎌が首をねようとした時、僕はその場にしゃがみこみ、セラアーマーを脱ぎ捨てた。

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