第10話:スケルトンスポナー
工房へ戻る合言葉【開門】に関して、わかったことが1つある。
それは言葉を唱えてから実際に扉が出現するまで5分から10分ほどのラグがあるということだ。また、現れたらすぐに触れないと扉は消失してしまう。
ようするに、不意の避難には使用できないということだ。
イビルスケルトンを倒したあの日、戦利品として手に入れた指輪を僕は慎重に持ち帰った。
恐らく、何かのマジックアイテムかじゃないかと推測されるものではあったが、鑑定スキルを持たない僕にその真贋はわからなかった。むしろ嵌めると取れなくなる呪いのアイテム類の可能性もあるため、好奇心をぐっと抑え込み、僕は指輪を工房にただ運び込むに留めたのだった。
「きれいだねぇ」
と、セラが興味津々という感じで机に置いたそれを覗き込む。
「嵌めちゃだめだよ?」
「わかってるよ~」
「ルミナとアンブラの様子はどう?」
ぶかぶかのワイシャツを着た幼女のしもべは、下腹部の辺りを押さえて「う~ん」と唸る。
「けいけんち、まだたりないかも」
「レベルを上げればいいってこと?」
「たぶん、そう」
セラは言った。
ちなみにレベルというのは化合獣に特有の概念で、敵を倒して経験値を得ると強くなる現象のことである。
もし本当にレベルアップによって他のスライムが覚醒するなら、早いに越したことはない。先の戦いでは、たまたま相性によってイビルスケルトンを倒すに至ったが、アンデッドではない魔物が現れた時に今のまま戦えるかは未知数だからだ。
また僕自身も経験を積む必要があるように思えた。
明確なレベルの概念はないけれど、戦闘の熟練度という意味であれば、目には見えない実力の差が冒険者にもあるのである。
そこで僕は修行を積むことにした。
これはダンジョンあるあるなのだが、大抵、あの手のトラップは一定時間が経過するとまた元通りになることが多い。
そこで次の日に【退出】すると、案の定とでもいうべきか、開いていたはずの宝箱が閉まって施錠されていた。
セラアーマーを着込んだ僕は再び宝箱に触れると、またけたたましいアラームが響き、8体のイビルスケルトンが現れる。
そこから先は昨日と同じだ。
メイスで盾を粉砕し、体にヒールを流し込む。
それを繰り返すだけで簡単に敵は灰塵と化したのだった。
勝利後の戦利品も全く同じ。カンカンカンとゴングが響くと、あの謎めいた指輪と全く同じものが宝箱には入っていた。
それから僕はその場を拠点とし、毎日、経験値積み&宝の回収に勤しんだ。
セラ曰く、同じ魔物とばかり戦うと経験値が入りにくくなってしまうとのことだったが、それでも相手は表層のボスクラスの魔物たちなのだから得られるものは多いだろう。
繰り返される戦闘の中で僕は確実に成長を感じた。
セラアーマーの全身操作に無駄な動きがなくなってゆき、より早く、効率的に敵を討てるようになったのだ。
1つ誤算があったのは、このボス部屋のギミックが永遠に続くと思っていたことだ。
連続でイビルスケルトンを倒し続け、もはや指輪の回収が作業となった11日目、いつものように広場にゆくと宝箱の色が変わっていた。これまでの地味な木の箱ではなく、それそのものが価値を持ちそうな黄金色の箱に変わっていたのだ。
「セラ、どう思う?」
――ヤなかんじがする。
「実を言うと、僕もそうなんだ。なんかあからさまに釣られてる気がする」
セラの感想はもっともだった。
最初に宝箱に触れる前にも、セラはそれを見て同様のことを僕に告げたのを覚えている。この子の直感はある種のバロメーターだ。以前までの僕ならそれをスルーして3つの分岐ルートの探索に出かけようとしたに違いない。
でも10日間の連戦は僕に自信をつけさせていた。
仮に倍の数のイビルスケルトンが湧いたとしても、それらを全て倒せると思う。
そんなわけで、僕は「行く」ことにした。
怪しく光る黄金の箱に思い切って手を当てたのだ。
直後、鳴り響くおなじみのアラーム。
いつもなら四方の壁が隆起してイビルスケルンの群れが生み出されるはずである。
ところが、今日はそうではなかった。
隆起したのは広場の真上。
そこからミシミシ亀裂が入り、何かとてつもなく巨大なものがドスンと床に落ちて来た。
やがて「それ」は顔を上げる。
身長3メートルを超す巨大なスケルトンソルジャー。
「……っ、まさか!?」
それは全身を金属製の鎧で覆っていた。
その手にあるのは僕の身長ぐらいある馬鹿でかい鎌。
〝死神騎士〟
古代の文献に存在が示唆される伝説級の魔物である。
……僕は自身の判断が甘かったことを自覚した。




