Fromのないラブレター⑤
もやもやとしたまま、時間だけがすぎていく。三兄弟はやはりみんな差出人ではないようで、これまでと様子が変わらない。時間が経てば返事を急かすようなアクションを起こすかもとも考えたのに、そういった動きもまったくない。
手紙が届いてから十日、このまま差出人がわからないままなのかもしれない。相変わらず士音に意地悪をされながら学校について、昇降口で別れた。靴箱を開けたら白い封筒が上履きの上に置かれている。見覚えのある封筒は、先日唯の自宅に届いたものと同じだ。エンボス加工の蔦模様があり、やはりパソコンの文字で『越川唯様』と宛て名が書かれている。裏返すとまたも差出人はない。
でも学校の靴箱に入っているということは、高校の誰かだ。外部の人が侵入するとは考えられない。それに士音は唯と一緒に来たから、先まわりして靴箱にこれを入れることはできない。
どきどきしながら封を開ける。中にはやはり便箋が一枚入っていた。
――放課後、校舎裏で待ってます。返事を聞かせてください。
文章もパソコンの文字で、前回と同じ。男子か女子かもわからない。
「いやいやいや、誰なの?」
ストーカーの線は消したが、それもありえるのかもと思いはじめる。返事なんて、相手が誰かわからないのに返事のしようがない。
登校してくる生徒の邪魔になるので、手紙はスクールバッグにしまって靴を履き替える。今も手紙の差出人から見られているかもしれないと思うと、変に緊張する。
教室について自席にバッグを置く。重いため息を吐き出して椅子に座ったら、視線を感じる。たぶん、と思ったらやはり百瀬が睨んでいた。不安や緊張などいろいろな心情がまざって、いつものことなのに落ち込んでしまった。
授業中もずっともやもやしたまますごし、放課後になった。本当に行って大丈夫なのか。士音についてきてもらおうか――いや、士音のことだから遊び相手となにかしらしていて忙しいだろう。ひとりで行くしかない。
なるべくゆっくりと歩いて校舎裏に向かう。最悪の事態を想定しておいたほうがいいかもしれない。といっても最悪の事態ってなんだ。
どきどきしながら校舎裏についた。そこにはなぜか百瀬がいる。
「百瀬……?」
場所を間違えたか、それとも百瀬も女子からの呼び出しで同じ場所を指定されたか。なんにしても気まずいので、逃げようと足を一歩うしろに引く。
「遅い」
いつものように唯を睨みつけながら、百瀬が文句を言う。頭の中に疑問符が浮かび、首をかしげる。
「百瀬は僕を待ってたの?」
約束なんてしていない。
「靴箱に手紙入れただろ」
「……」
「手紙見たから来たんじゃないのかよ」
「…………」
それは、つまり。
「あの手紙って百瀬なの!? じゃあ最初のも――」
「そうだ」
「差出人書いてよ! わかんないよ!」
「いつも見てますって書いただろ、それでわかれよ!」
わかるわけがない。むしろあれでわかるほうがおかしい。
「ていうか見てないよ、百瀬いっつも睨んでるじゃん!」
「見てんだよ! わかれ鈍感!」
「好きな相手にひどくない!?」
たしかに鈍感かもしれないが、あの手紙は差出人に問題が大ありだろう。唯が責められるのはおかしい。
「あー……てか、来てくれて、ありがと」
「う、うん……」
冷静にお礼を言われると緊張してくる。まさか百瀬が手紙の差出人だなんて、まったく考えなかった。いつも睨んでくるのが本人としては見ていたなんてことも、知らないしわかるわけがない。
「越川が好きだからつき合ってほしい。手紙にも書いただろ」
「書いて、あったけど……なんで僕? 話したことないよね?」
「はあ?」
思いきり不機嫌顔をされ、気がつかないうちに話していただろうかと記憶を辿る。話したとしても、好意を持たれるような特別な会話をしたと思えない。そんな会話なら唯だって覚えているはずだ。




