Fromのないラブレター④
というわけで、ひとりずつ聞いていくことにした。
帰宅してさっそく隣の長沢家に行くと、玄関に莉音がいた。帰ってきたところのようだ。
「りいちゃん、今ちょっといい?」
「うん、なに?」
くりんとした目を向けられ、本当に可愛いなあと感動さえ覚える。唯と同じ人間とは思えない。
「りいちゃんは僕のことどう思ってる?」
「大好き!」
即答された。もしかしたらラブレターの差出人は莉音かもしれない。もう少し話を聞こうと思ったら、莉音のほうが先に口を開いた。
「ゆいちゃんはもうひとりのお兄ちゃんだと思ってるよ」
「あ、……そう」
これは違う。好きは好きでも兄弟に対する好意のようなものだ。
「どうしたの、急に」
「ううん、ちょっと聞いてみたかっただけ」
首をこてんと傾けた莉音は不思議そうな顔で唯を見る。突然変なことを聞いたから、驚かせてしまったかもしれない。
「ごめんね、本当になにもないんだ。あ、いっちゃんは上にいる?」
「いるよ。今日は午前中だけだったみたい。大学生って忙しいのか暇なのかわからないね」
「そうだね」
本当に素直で可愛い。苦笑して階段をあがり、音伊の部屋のドアをノックする。
「いっちゃん、唯です」
「どうぞ」
中から声が聞こえて、そっとドアを開く。音伊は机でノートパソコンに向かっていた。なにかを入力していて、あ、と思う。あのラブレターはパソコンで入力された文字だった。もしかしたら音伊かもしれない。
「いっちゃん、変なこと聞くけど、僕のことどう思ってる?」
「……? 本当に変なことだな。どうした、急に」
「ううん、ちょっと聞いてみたくて」
椅子をくるりとまわしてこちらを向いた音伊は、柔らかに微笑んだ。優しい笑顔は昔から変わらない。おいでおいでと手招きをされ、素直に従う。
「唯は可愛い弟だと思ってるよ。なにかあったのか?」
頭を撫でられ、首を横に振る。優しさをしみじみと感じながら、音伊も違うとわかる。
あのラブレターには『つき合ってください』と書かれていた。つまり兄弟としての好意ではない。莉音も音伊も違う。
残るはひとり。でも遊び人の士音が唯を好きなんてことがあるのだろうか。まさか、遊び相手のひとりに迎えようとか……? ぶんぶんと首を横に振る。遊び相手なんていらないし、唯は本気の相手としかつき合いたくない。断ろう。
「どうした?」
「な、なんでもない。ちょっと考えごと」
音伊が唯の動きを不思議そうに見ている。不審な動きをしてしまった。恥ずかしくて縮こまる。
話していると隣の部屋から物音が聞こえてきた。士音が帰ってきたようだ。
「ごめんね、変なこと聞いて。じゃあまたね」
「ああ。なにかあったら相談するんだよ」
「うん、ありがとう」
音伊の部屋を出て、廊下を進んで隣の部屋へ。ノックをすると「唯以外なら入っていい」と返事があった。これは唯が来ていることをわかっている。
「僕だけど入るよ」
「唯はだめだって言っただろ」
「しおくんの意地悪」
こんな意地悪なことを言う士音が、唯を好きなんてありえるのだろうか。でも聞いてみないことにはわからない。好きな子ほどいじめたいタイプなのかもしれない。
「しおくんって僕のこと好き?」
ストレートに聞くと、士音は固まった。
「ついに頭おかしくなったのか」
真面目な顔をされ、士音も違うとわかる。この反応は、照れとかごまかしとかではなく素だ。首をかしげた士音は思案げに眉を寄せ、ゆっくりと唯に近づいてきた。ずいっと顔を覗き込まれて、圧で今度は唯が固まる。
「俺と遊びたいってこと?」
ぶんぶんと横に振り、近づいてきた顔から逃げるために頭を引く。士音も違う。
慌てて士音の部屋から逃げ出し、長沢家をあとにする。自室に戻って、しまっておいたラブレターを机に出す。一日経っても新しい文字が浮かんできたり、なにかが現れたりということはない。
「うーん……、いっちゃんじゃない、りいちゃんも違うし、しおくんも違う」
三兄弟でないなら、この手紙の主はいったい誰?




