Fromのないラブレター③
「いってきまーす」
家を出ると、ちょうど隣の三兄弟も家を出たところだった。あくびをしている莉音も「駅まで一緒に行く」と言い出し、四人で駅に向かった。眠いとか宿題やってないとか寝ぐせついてるとか、いろいろと話をしていたら駅についた。
「ゆいちゃんプラスお兄ちゃんたち、いってらっしゃい」
「なんで俺が唯のおまけなんだよ」
「莉音も気をつけるんだよ」
莉音が手を振って、士音は文句を言いつつ手を振り返し、音伊はさすがの優しさで弟を気遣う。兄弟仲がいいことが見ていてもわかる。
「いってきます」
唯も莉音に手を振って改札に向かう。音伊の大学は逆方向なので、改札を入ったところで別れ、士音とふたりになる。
「唯、寝ぐせ全然直ってねえじゃん」
「えっ、直したのに」
「嘘だよ」
朝から意地悪全開な士音に文句を言っていたら、視線を感じる。なんだろうと振り返ると、クラスメイトの百瀬紅葉が唯を睨んでいた。濃茶色の髪と同じ色の瞳で、じっと睨んでくる。切れ長の目で睨まれると怖くて身が竦む。
百瀬は背が高くて美形だけれど、いつもひとりでいる。友達がいないというか、女子の噂を聞いていると少し怖くてみんな近寄りにくいらしい。性格は大人しいようで、休み時間には自身の席で本を読んでいることが多い。オーラが「近づくな」と言っている気がすると話す生徒もいた。
たしかに怖いと唯も思う。気がつくとこうやって唯を睨んでいて、唯はびくびくと怯えている。自宅最寄り駅が同じなのは最近知った。
百瀬とは話したことがないのに、なぜかいつも睨まれる。名前を覚えているのは綺麗で印象的だったから。でも話したこともない相手を睨むなんて怖い人だ。近づかないほうがいい。
「なにぼーっとしてんだ」
「いたっ」
士音に後頭部をはたかれ、手で押さえる。
「手加減してよ、馬鹿になるじゃん」
「大丈夫、唯は変わんねえよ」
「どういう意味!?」
士音は唯に意地悪をしたり言ったりすることが生きがいなのかと思うくらいに、とにかく意地悪だ。ラブレターの差出人の可能性はない。
でも。
意地悪をしながら実は、ということも……あるのだろうか。でも遊び人があんなに真面目なことをするのか。それに士音の性格的に正面きってはっきり本人に言うタイプだ。
「……わからない」
「なんだよ、電車の乗り方もわからなくなったか。さすが唯だな」
「違うよ! ほんっとしおくん意地悪」
士音はやはり違うと思う。だとしたら音伊か莉音? 丁寧な文面の雰囲気的には音伊な感じがするけれど、でも音伊が唯を好きなんて聞いたことがない。それに音伊が書く文章を前に見たことがあるが、なんというか、もう少し大人な雰囲気がある。でも意識して文章を変えた可能性もある。謎は深まるばかりだ。答えがまったくわからない。
電車に揺られながら士音に意地悪なことを言われ、高校の最寄り駅についた。改札を出たらまた視線を感じる。もしかして、と振り向くと、やはり百瀬が睨んでいた。どうしてそこまで嫌われるのかわからない。聞いたところで答えてくれなさそうな視線の鋭さだ。
わからない。どんなに考えても差出人がわからない。せめて態度や顔に出るとか、答えへの取っ掛かりがあればいいのに。
「もう直接聞いちゃう? でもそれって反則?」
「ぶつぶつうるせえよ。可愛い子が逃げるだろ」
「どうせ僕は可愛くないよーだ」
「おー、ちゃんとわかってんのか」
考え込んで呟いていたら、また士音に意地悪を言われた。士音だけは絶対に違う。唯は好きな人にこんな意地悪をしたりしない。
直接聞きたい。ただ三兄弟のうちの誰かとしても、他のふたりはそのことを知らないかもしれない。そうすると三人に同時に聞くのはだめだ。ひとりずつ当たっていくしかない。




