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第三章 素顔がこぼれるとき

放課後の校舎は、すでに生徒たちの多くが帰り支度を終えていた。


夕陽が斜めに差し込み、校庭の隅にある駐輪場も橙色に染まっている。


一花は一人、駐輪場の端に立っていた。


目の前には、黒く光るバイク。誰のものかはすぐに分かった。


(これ……如月くんのバイクやんな)


無口で近寄りがたいと思っていた彼が、こんなに存在感のあるものに乗っていることが、どこか不思議だった。


一花はそっと近づき、バイクのタンクに映る夕陽を見つめる。


そのとき、背後から足音がした。


「……何してんの?」


振り返ると、恭平が立っていた。


ヘルメットを片手に持ち、少しだけ肩をすくめている。


いつもの無口な雰囲気はそのままだったが、夕陽に照らされたその表情は、どこか柔らかかった。


「あ……ごめん。ちょっと、見てただけ」


一花は慌てて距離を取ろうとするが、恭平は首を横に振る。


「ええよ。気になるんやったら、見てもええ」


「ほんまに? なんか、かっこええなぁって思って」


「……そうか」


恭平はバイクのそばに歩み寄り、軽くタンクを撫でる。


「これはな、エンジンの音が低くて、振動も結構あるんや。乗ったら、体に響く感じや」


「へぇ〜……なんか、思ってたより繊細なんやな」


「そりゃあ、大事にせんとすぐ壊れるしな。雑に扱ったら、命にも関わる」


その言葉に、一花は少し驚いたように目を見開く。


「……如月くんって、バイクのことになるとめっちゃ喋るんやな」


「……まあ、好きなもんの話やし」


「なんか、いつもと違う感じする。ちょっと意外やった」


恭平は照れくさそうに目を逸らす。


「……お前が聞くからや」


一花はその言葉に、ふっと笑みをこぼす。


「そっか。じゃあ、もっと聞いてもええ?」


「……ええけど、ほんまに興味あるんか?」


「あるよ。昨日、信号待ちで見たときも思ったんやけど……めっちゃかっこよかった」


恭平は少しだけ目を丸くするが、すぐに肩をすくめて俯く。


「別に……普通や」


「普通ちゃうって。あんな風に風切って走ってる姿、なんか自由って感じして……憧れるわ」


夕陽がゆっくりと沈み、駐輪場の空気も少しずつ夜の気配を帯びていく。


「そろそろ帰るん?」


恭平がぽつりと聞く。


一花は少し寂しそうに頷く。


「うん……でも、今日ちょっとだけ、如月くんのこと知れた気ぃする」


「……そうか」


「うん。ありがと。話してくれて」


「……別に、たいしたこと言うてへんけどな」


一花は軽く手を振り、駐輪場を後にする。


そして心の中で、小さくつぶやいた。


(……なんでやろ。今日の帰り道、ちょっとだけ特別に感じる)


恭平もまた、一花の声と笑顔を思い出しながら、胸の奥で静かなざわめきを感じていた。


夕暮れの風が、二人の間をそっと通り抜けていった。

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