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第二部-第三十七章 あなたを想い続けて

秋の風が頬を撫でる午後、一花は陽翔の手を握りしめながら、如月家の門をくぐった。


陽翔は少し緊張した面持ちで、一花の隣を歩いている。


彼女の胸の奥には、今日伝えるべき言葉が静かに、しかし確かに息づいていた。


玄関を開けると、幸代が出迎えてくれた。


真宙もすぐに現れ、柔らかな笑顔で陽翔に手を振る。


智恵美は少し離れた場所に立っていたが、その表情には以前のような険しさはなかった。


「いらっしゃい、一花ちゃん。陽翔くんも、よく来てくれたね」


幸代の声は穏やかで、どこか懐かしさを感じさせた。


一花は深く頭を下げ、陽翔とともに居間へと通された。


座布団に腰を下ろすと、陽翔は一花の膝の上にちょこんと座り、周囲をきょろきょろと見渡している。


彼の無邪気な様子が、場の空気を少し和らげた。


一花は、胸に抱えていた言葉をゆっくりと紡ぎ始めた。


「今日は……皆さんに、私の気持ちを伝えたくて来ました」


幸代と真宙が静かに頷く。


智恵美も、少し緊張した面持ちで耳を傾けていた。


「遥斗さんとも、智さんとも……お付き合いしないことにしました。二人ともとても優しくて、陽翔にもよくしてくれて……でも、うちは……」


一花は陽翔の頭をそっと撫でながら、言葉を続けた。


「うちは、恭平を想い続けて生きていきたい。彼が残してくれた日記を読んで、改めて気づいたんです。うちは、彼を愛していたし、今も愛している。陽翔と一緒に、彼の記憶を胸に抱いて歩いていきたいんです」


静寂が訪れた。


誰もすぐには言葉を発さなかった。


だが、その沈黙は冷たいものではなく、むしろ一花の言葉を受け止めようとする温かな間だった。


やがて、幸代がゆっくりと頷いた。


「それがあなたの選んだ道なら、私たちは応援するわ。一花ちゃん……あなたは、強いね」


真宙も微笑みながら言った。


「陽翔のために、できることは全部する。何かあったら、いつでも頼って。俺たちは、家族みたいなもんやから」


その言葉に、一花の目に涙が浮かんだ。


陽翔は不思議そうに一花の顔を見上げたが、何も言わずに彼女の手を握り返した。


智恵美は黙ったまま、一花と目を合わせることなく、少し離れた位置に座っていた。


一花が恭平への深い愛を胸に生きることを選んだ姿に、智恵美の心は静かに震えていたのだろう。


やがて、彼女は顔を上げ、一花に向かって静かに言った。


「……うち、ずっと許せなかった。恭平兄ちゃんがいなくなって、あなたが前を向こうとしているのが、なんだか……裏切られた気がして。でも、今日、わかった。恭平兄ちゃんがどれだけあなたを愛していたか。そして、あなたがどれだけ恭平兄ちゃんを想い続けていたか」


一花は、智恵美の目をまっすぐに見つめた。


「……ごめんね。うち、何も言えなかった。恭平のことを話すのが怖くて……でも、ずっと彼を想ってた。陽翔にも、恭平のことをちゃんと伝えていきたいと思ってる」


智恵美は、少しだけ微笑んだ。


「……ありがとう。一花さん。うちも、恭平兄ちゃんのことを忘れない。あなたが恭平兄ちゃんを想い続けてくれるその気持ちを大切にしたい」


その言葉に、一花は涙をこらえきれず、そっと智恵美の手を握った。


二人の間にあったわだかまりが、静かに溶けていくのを感じた。


その夜、一花は恭平の日記を胸に抱き、陽翔を腕に包み込んだ。


二つの温もりを確かめながら、静かな夜がゆっくりと過ぎていく。


「恭平……うちは、あなたを愛し続けて生きていく。陽翔と一緒に、あなたの想いを守りながら」


月明かりだけが優しく二人を照らす部屋の中、一花の心には確かな確信が芽生えていた。


――この選択は、間違いではなかった。


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