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これ、事故物件?

──ついに、この日が来た。

押入れから段ボール箱をズズズと引っ張り出し、慎重に蓋を開ける。

中から顔を覗かせたのは──他の荷物を減らしてまで持ってきた、秘蔵のオカルトグッズたち!

奇妙な模様が入った盛り塩用の小皿が何枚も重なり合い、新聞紙に包まれた大小さまざまな鏡たちが控えている。

神社でお年始にもらった飾り紐つきの五円玉は、袋の中でガチャガチャ音を立ててるし、隙間には乾燥ハーブのチャック袋がぎゅうぎゅう。

中央に鎮座しているのは──お気に入りの、あやしく輝く水晶球。専用の木箱に入れてたおかげで無事っぽい。

引っ越しの衝撃にも耐えて、割れも破れもナシ。

よしよし、さすが私のオカルトエリートたち……!

……ん? あ、護符がない!?

ま、そこはコンビニで印刷すればオッケーっしょ!


「よーし、ついに本番だ。これで準備は完璧! 待ってろよ、心霊現象!」


気合を入れて、一式をキャリーバッグにえいやっと詰め込んだ。




改めまして──私は綾瀬みこと。

オカルト愛好歴はそれなり。

きっかけは某テレビの心霊特番で『謎の手の影』を見ちゃったあの日から。

あれ以来、オカルト沼にどっぷり沈みました。

現場未経験だけど、オカルト現象への愛は本物のつもり。

っていうか今まで行けなかったのは、ただの田舎住まいだったからであって!

ほ、本気出せばいつでも行けたんだからねっ!

で、なんでこんなにテンション上がってるかっていうと──

それは、数少ない友達からカフェテリアで超それっぽい感じの相談を持ちかけられたからなのです!


今日のお昼、私は午後の授業に向けてカフェテリアで昼飯チャージしようとしていた。

春のキャンパスは、例によって風に乗った勧誘プリントが空を舞っていて──うっかりすると顔面に直撃コース。

あ、今まさに一発命中した教授がキレ顔でスマホに電話してる……どこのサークルか知らないけど、ご愁傷さまです。

そんな春の恒例行事を横目に、私はカフェテリアの隅っこの席にすべり込んだ。

人が少ないエリアの方が落ち着くし、なにより──心霊動画に集中できるからね!

トレーの上には、今日の主食・カレーうどん。

その隣には、相棒のスマホ。

お目当ては、つい最近アップされたばかりの心霊検証系動画だ。

変わってるって? うん、よく言われる。

でも、これが私の通常運転。

画面の中では、いかにもな影がふわ~っと通過中。


「うーん……また演出盛りすぎだなぁ。もっとこう、自然なのに怖いやつが見たいんだけどなぁ……」


なんてブツブツ言いながら、ズズズとカレーうどんを啜っていた、まさにそのとき──


「……ねえ、みこと」


──不意に背後から名前を呼ばれて、うどんが喉にヘンな角度で入りかけた!


「げほっ!? うわっ、びっくりしたっ!」


振り返ると、そこに立っていたのは──文学部の同級生。

ロングスカートに淡いカーディガン、ほんわか癒し系なのに出るとこは出てる佐伯ひより。私の数少ない友達だ。

……なんだけど、今のその顔は完全に癒しじゃない。どっちかっていうと青ざめて……怪奇系?


「ちょっと……話してもいいかな……?」


私は慌ててうどんを脇に避けて、向かいの席を手で示した。


「どうぞどうぞ、カモン!」


彼女のトレーには、ふわとろオムライス。

でも、湯気が立ってるのに全然手をつける気配がない。

スプーンを持つ手も、ぎゅっと固まってて……明らかにただ事じゃない空気。


「最近ね……ちょっと、変なことがあって……」

「へぇ、変なこと。好きな単語きた!」


私はスマホを伏せて、ひよりにしっかり顔を向ける。

真面目な話なら、動画は後回し!


「夜になるとね、空気がすごく重くなるの。……誰かが、部屋の中にいるみたいな……そんな感じがして……」

「気配、ってやつだね?」

「うん……でも誰もいないの。姿は見えないのに、そこにいるって感覚がすごくて……」


ふむふむ、いいじゃん。いいじゃん。

気配系は、心霊の王道!


「で、他にもあって……」


ひよりの声がさらにトーンダウンする。


「……最近ね、夜中の0時ちょうどに、クローゼットの中から『カツン』って音がするの。しかも、毎回一回だけ……。中にはそんな音がするようなもの、何もないのに……」

「音!? それもピンポイントで時間指定あり!?」


思わず手に力が入り、割り箸がベキィっていったけどそんなの今どうでもいい!


「うん……毎晩。時計を見ると、いつもぴったり0時なの……」

「うわ、それもうラップ音確定案件じゃん!!」


私は身を乗り出した。カレーうどんが危うく宙に舞いそうになる。


「ひより、それ……もしかしたらマジでホンモノかも! 一回でいい、その部屋見せて!!」


ひよりは一瞬だけ戸惑った。でも──


「……来てくれるなら……私からもお願いする。ほんとに……あの部屋に一人でいるの、怖くて……」

「やった! じゃあ帰り一緒に……あ、ちょっと待った! これ心霊案件じゃん! だったらアレの出番だよ! えーと、ひよりの最寄り駅ってたしか青葉通だったよね?」

「え、うん……そうだけど……?」

「じゃあそこで待ち合わせしよう! 今日の講義、4時に終わるから、5時か6時……6時でいい?」

「えっと……うん、大丈夫」

「OK! じゃあ6時に青葉通の……あれ、西口?東口?」

「ごめん……南口方面なの」

「了解! 南口で待ち合わせね!」


本物の心霊現象と──ついに、ついに遭遇できるかもしれない!

このチャンス、逃してなるものか!!

私が「よし、腹ごしらえして全力出すぞ!」と気合いを入れた、そのすぐあと。

ひよりがゆっくり、スプーンをオムライスに伸ばした。

……うん、ちょっと落ち着いたみたいでよかった。

私はカレーうどんを──あ、箸。取ってこなきゃ!

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