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第二十五章「暗黒卿vs魔猫レーゼン」



グリフォンで大密林に突入した僕達。


その目の前に広がったのは、あまりにも巨大な魔獣と食獣植物の繰り広げる弱肉強食の世界だった。


「久しぶりに来たけど相変わらずの無法地帯だね」

僕とレイトはかつて国王陛下によって、この密林で修行という名の拷問を受けていた。


「偉大な騎士になりたければ、まずは強さだ。ここで一ヶ月生き抜いてみろ」


なんて言われ、ジャングルの奥地に放置された恨みは絶対に忘れない。


「ふむ、懐かしいとは思うが、また緑が増えたようで、道がまったくわからんな。俺がここに放置されたら一貫の終わりだ!ははは」

レイトの言う通り、この密林は成長速度が尋常ではない。

目印を付けても、それを見失う事などザラだ。


「大丈夫よぉ、遺跡の位置はヒバナちゃんがキチンと覚えてくれてるから」


その言葉に反応してか、僕らを乗せて飛翔するヒバナちゃんが得意そうに鳴く。


すると、ニコが唐突に口を開いた。


「ふむ、なら安心だね。そんじゃあ、白日の小僧と煉華の嬢ちゃんは先に行きな、あたしと坊やはここで降りて、後から合流するよ」



え?ニコ、今なんて?


「恐らく白日の小僧の探してる人間は遺跡の奥だ!三人くらいのオーラが千里眼で確認できたからねえ。ほら、坊や!とっとと降りな!」


ぐわっ、強い!

ニコの小さな身体に似つかわしくない怪力で押され、呆気なくグリフォンから落とされた僕。


「ニコちゃん、じゃあルー君は任せるわねぇ。私達は遺跡へ先に行ってるからぁ」


「ルシヴァ!羨ましいぞ!ニコ様!今度俺にも稽古をお願いしたい!」


二人とも僕の心配なんぞしやしない。


後から行くって、ニコ遺跡の場所わかってるの?

まあ、千里眼使えるんだからいらぬ心配かな?

ってか、なんとかしないと地面に叩きつけられて死ぬ!


ダークオーラはまだ使えないので、ここは衝撃をどうにか逃すしかない!


暗黒闘技 受け身技 散離力


地面との衝突の瞬間、手で地面を叩き全身が受ける衝撃を散らす。


だが、グリフォンの飛翔高度がかなり高かった為、完全には散らす事ができず、そこそこのダメージが来た。


「あいたぁ!」


僕は人より頑丈だけど、今のはかなり痛かった。


「うぅ、酷いよニコ。あの高さから急に突き落とすなんて、死ぬかと思っ……た」


流石にやり過ぎだ!と思って文句を言ってみたが、目の前にいるニコを見て言葉に詰まった。


彼女からとてつもない殺気が迸っている。


「さあ、坊や。暗黒卿になりな!」

「え?なんで?」

「……死にたいのかい?」


有無を言わさぬプレッシャー。


ニコの突然の命令に戸惑う僕。

だが、こんなに怖くて可愛い猫の頼みを断れる訳がない。


暗黒の鎧を召喚し、僕はそれを纏った。


「何故わたしをこの姿にさせたのだ?ニコ」


この問いかけに含み笑いで答えるニコ。


「坊やに本気を出してもらう為さね、これは戦いじゃにゃくて授業。にゃははは、キッチリ教えてやるにゃ、坊やの持つ紋章の本当の使い方をねぇ!」

そう言ったニコの小さな愛らしい身体から、尋常ではない殺意が迸る。


来る!


圧倒的な存在によってもたらされる死の予感。


最早、この地上に存在しないと言われる古代魔獣の一角、魔猫レーゼン。


その固有魔力は余りにも単純で、余りにも凶悪だ。


"覇壊"


彼女はなんであろうと壊せる。


物質であろうと、概念であろうと、なんであろうがお構いなしにだ。


彼女の破壊に抗うには、彼女を上回るオーラを持ってして跳ね返すしかない。

だが、そんな事ができる存在は、彼女と同じ太古の魔獣くらいだろう。


「わたしの紋章の力だと?今は使えないとニコも知っているだろうに……」

そんなわたしの呟きはお構いなしのニコ。

「にゃははは!行くよ!」


ニコが駆ける。

覇壊の魔力の発動条件は単純。

彼女が壊したいと思う。ただそれだけだ。


勿論、対象となるモノの抵抗は存在する。

ニコに以前聞いた情報によると、覇壊に必要な魔力は対象の抵抗力の約二倍との事。


つまりは非常に燃費の悪い魔力。

……と思われるが、ニコの場合はそれに当てはまらない。

その理由は、彼女が古代魔獣である魔猫レーゼンである事が大きい。

古代から生きてきたという事は、それまで鍛え上げられてきた魔力総量もとんでもないという事。


つまり、わたしを壊す事はニコにとっては容易い事でしかない。


彼女の手がわたしの暗黒の鎧の肩当てに触れた。


覇壊 猫散昏ねこちぐら


何の痛みも衝撃もなく、呆気ないほど容易く暗黒鎧の肩当てが壊された。

馬鹿な、いかにニコの覇壊といえど、この鎧はダークミスリルで鍛えられた特別製。

こんなに脆いはずは……


「にゃははは、やっぱり直に魔力を流すと効くねえ。油断してると跡形もなく消し飛ぶよ?」


なるほど、思念で魔力を飛ばすのでなく、直に触れて魔力を注ぐからこその破壊スピードという事か。


「くっ、これ以上鎧を壊されてはかなわん!」

「だったら紋章の力を使いな!」


「だから使えないと……」


「やれやれ、やっぱり分かっていないんだねぇ、嘆かわしい。前任者のヴァルバトスからは何も聞かされてないのかい?」


「陛下?あの人からは何も……」

「やっぱり。アイツは感覚派だからねぇ……教えるだのは向いちゃいないか。安心しな!あたしがちゃぁんと教えてあげるよ」


そう言ってニコはわたしの鎧の胸部に尻尾を向けた。


覇壊 瞬尾またたび


魔力の込められた尻尾が、わたしの鎧の胸部に近づく。

不思議な事に、わたしにはそれがゆっくりと見えていた。

喰らったら死ぬ。


死に直面した時に起こる走馬灯というモノだろうか?

それとも、追い詰められたわたしの命がくれた刹那のチャンスか?


わたしは両目に宿る紋章の力を振り絞った。


使わねばやられる!


ニコのこのあり得ない魔力を奪うしか生き延びる方法は無い。


その後どうなるかわからないが……


黒夢の紋章 魔力剥奪


わたしは以前、ベルファゼートとの戦いでも使った黒夢の能力を発動。


ニコの尾のインパクト直前に、そこに込められた魔力を奪う事に成功。

彼女の覇壊を未然に防いだ。


……が。


「やればできるにゃ。でも、この後が問題だねぇ」

ニコの言葉の通り、先程奪った彼女の魔力、それがわたしの中を激しく駆け巡っている。


「うがああああああ」


苦しい、かつてこんなにも強大で、膨大な量のチカラを奪った事はなかった。


その力が出口を求めて、わたしの身体を破壊しようとしている。


「聞こえるにゃ?坊やの紋章は相手のナニカを奪う能力さ。だが、坊やは育ちが良くて欲のない性格だからねぇ。甘っちょろいったらありゃしない」


急なディス。

何が言いたいのだ?


「わかってない顔だねえ?簡単な事さ。何故奪ったチカラを糧にしないんだい?現にあんたは奪ったチカラを自身の内に貯め込んでいるだけ。そしてそれを押さえ付けるのに無意識のうちにオーラを消費しちまってる。それが今ダークオーラを使えない原因さね」


それでか、奪ったあとしばらくダークオーラが使えない理由は……


愕然とするわたしを見て呆れた顔で続けるニコ。


「それだけじゃにゃいよ、坊や。貯めてるだけじゃ、そのエネルギーはやがて萎んで消えちまう。そんな無駄な運用してちゃ、折角の紋章が宝の持ち腐れだよ」


わたしが紋章のチカラを無駄にしている?


「あんたは奪うって行為を無意識の内に卑下してるのさ。お上品な貴族様らしいけどね。それじゃダメだ!あんたに足りないのは、奪い、喰らい、更なる強さを求める、野蛮で粗野な力への渇望にゃんだ!」


確かに奪った後の事までは頭が回っていなかった。

奪うという行為に忌避感があったのも事実。

溜め込み抑えるのではなく、咀嚼し取り込み自身のモノとする……

それだけの器量が……なくてどうする!

わたしは目を閉じ、意識を内に向けてみた。


あった。さっきニコが狙った胸の辺り。ここに確かに残っている。

ロックス領でベルから奪った神殺しの槍の魔力。

そして、さっきニコから奪った覇壊の魔力。

どちらも強大な魔力だ。


欲しい。

全部欲しい。

これはわたしの、ボクのモノだ。


奪い、喰らい、己が糧に。


わたし、ボクの覇道の礎となれ!


わたしは、剥奪した力をはじめて認識した。

そして今まで、奪ったチカラを押さえ込むモノとして機能していたダークオーラを意識して改革。

剥奪対象の分解、吸収が始まり、わたしの心にこれまで感じた事のない高揚感が生まれた。


「なんだ、これは、この感覚は、この万能感は、今までのわたしは、なんだったんだ?」


昂るわたしにニコが言葉をかける。「期待以上だよ坊や、さあ、これも喰らい尽くせるかい?」


そう言って突き出した可愛い手に魔力を流すニコ。


覇壊 魔猫のタンゴ


さっきまでとは比較にならない威力の魔力が込められた、拳が迫る。


「⁉︎」


だが、わたしは臆さない。


これまでとはまるで違う、未知のダークオーラが甲冑の下で迸る。


ニコの覇壊の魔力がそこへ直撃。


わたしの中に生まれたあまりにも強過ぎる黒いオーラは、ニコの魔力を打ち消した。


そして、遂には抑えきれず、先代から譲られた暗黒の鎧を粉々に砕いてしまった。


「やっぱりあんただ、坊や……いや、もうそんな呼び方はできないね。あたしの主人、期待を遥かに上回る成長だよ。嬉しいねぇ」


粉々になった鎧の下から立ち昇る、洗練された漆黒のオーラ。


"俺"は確信する。


今日この日、ルシヴァ・オルランドは生まれ変わったのだと。



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