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第二十四章「煉華」


チセ村への移動手段はまたしてもユニコーンを利用する。


さっきはアピスと一緒だったので、大型のゆったり進む子だったけど、急ぎの今回はレースに出れるくらい瞬足の引き締まった子に乗らせてもらう。


「よろしくね」心なしか特に人懐こい感じがするユニコーンだ。実に可愛い。

「では行くかルシヴァ!」

「あ、ちょっと待ってレイト。君が先に行くのは絶対にありえない。ね?わかるよね?」

「う、うむ。すまない先導を頼む」

心当たりがありすぎるのか大人しくなるレイト。

「にゃはは、流石の神聖騎士も方向音痴には抗えぬか」


「じゃあ行こう!まずは遺跡の途中にあるチセ村だ」


手綱を引くと、勢いよく駆け出すユニコーン。


目まぐるしく景色が変わり、あっという間にサバンナが終わりを迎えた。

生態系が明らかに変わり、ジャングルに入る手前、緑の濃さが明確にわかり始めた頃に目的のチセ村が見えて来た。


周りがジャングルという事を除けば、のどかな雰囲気の素朴な村。

ただ、普通の商店には並ばないジャングル産の屈強な魔獣の素材や肉などが陳列されているのを除けばだが。


兄の話では義姉は酒場の手伝いをしていると言っていたので、辺りを見回しているとレイトが肩を叩く。

「ルシヴァ、君の義姉がいるのは酒場と言ったか?」

「ん?そうだよレイト、見つけたかい?」


「見つけたというか、凄い人だかりができているのでな」

「人だかり?」


僕はレイトの指差す方を見た。


見なきゃ良かった……


そこにいたのは、5メートル級の巨人冒険者に絡まれて、襟首掴まれぶら下がっている義姉チェリッシュ・オルランドだったからだ。


「おい、もう一度言ってみろよ姉ちゃん」

「こんな事も一度で覚えられないなんてぇ、脳みそも巨大さんだから回転が遅いんですかねぇ?」


巨人に首根っこ掴まれてメッチャ煽ってる。ああ、あれは確かに僕の義姉だ。


「にゃんだ、喧嘩かい?あたしも混ざりたいねぇ」

ニコさんそれだけはやめて、本当に。


「いいですかあ?お酒を飲むのはいいんです、そう言うお店なんですからぁ。でもぉ、お店の女の子に手を出すのはいただけません!規則違反ですよぉ」


「うるせえ!この俺様が女を口説いて何が悪い!いいか?俺様は冒険者ランク……」

「ですからぁ、悪いのは貴方の頭でぇ、規則違反だってずっと言ってますよぉ?もう私も言い飽きちゃいましたぁ」

義姉は桃色ロングの髪をかきあげながら続ける。

「そもそもぉ、お客様は以前からこう言う事を常習なさってるって店長から聞いてますよぉ、出禁ですよ出禁!なのに来るとか恥ずかしくないんですかぁ?」


「このクソチビ女……もう許してやらねえからな!」

「許さないとどうするんですかぁ?」


パキポキと指を鳴らし、拳を作る巨人。

「痛い目見せてやる!」


その拳が義姉に向かって放たれた。


よせばいいのにと僕が思うや否や。


義姉の拳が先に、巨人の身体へと叩き込まれた。


「凄いな、あの一瞬で……だが、あの技、前にどこかで……」

それを見たレイトも驚嘆している。


見れば、殴られた巨人は一見ピンピンしている様だが

……義姉の恐ろしさはここからだ。


「だはっ!速ぇ……たいして痛くねえけど……女ぁ、お前何者だぁ?」


その問いには答えず、義姉は首筋にある紋章を発動させていた。


煉華の紋章 百花繚乱


義姉が巨人を打ったおよそ百の打撃痕。


そこに時間差で花開く火花。


「熱、痛!うがっ、また、おわっ、なんだよ、いつ終わるんだこれぁ⁉痛ぁ!」


一つ一つの威力は小さくとも、休む暇なく弾ける火花は巨人の体力を確実に奪い、50を超えた所ですでに立っていることすらままならず、熱と衝撃に意識を失う事もできない巨人。


「熱いですかぁ?痛いですよねぇ?でも、まだ半分ですよぉ?頑張ったら今回の一件は不問にしてあげますからねぇ」


まだ半分、それを聞いた巨人は根を上げた。


「す、すまねえ、俺が悪かった。もう無理だ、こんな熱くて痛いのが続いたら死んじまう!止めてくれぇ」


懇願する巨人を前に溜息をつく義姉。

「根性なしさんですねぇ」


紋章の能力が解除された途端、大慌てで一目散に逃げていく巨人。

「もう来ちゃダメですよぉ、大きな出禁さん」

と笑顔で送り出す義姉。


ありがとうと駆け寄る女性。

あれが義妹の友人さんかな?


しかし、相変わらず無茶苦茶な人だ。


兄エヴァンスの嫁にして最高ランクの冒険者。

かつてフューリー家で赤の紋章を持つ灼熱令嬢(なんかベルといい危ない二つ名ばっかだな)と呼ばれていた。


チェリッシュ・オルランド


あれ?なんか、店長らしき人に怒られている。

もっと徹底的にやらなきゃダメ?

止めを刺すまでがクレーム対応だ?


大丈夫かな、このお店……


まあ、それはさておき要件を済まそう。

「お久しぶりです義姉さん」

そう話しかけた僕に気が付き、義姉が近付いてきた。

「ルー君久しぶりねぇ、元気だったぁ?」

僕は、熱烈な抱擁をせんと突っ込んでくる彼女を、暖簾に腕押しよろしくヒラリとかわす。


「どうして避けるのぉ?久しぶりに会った義弟に親愛のハグをしようと思ったのにぃ」

「相変わらず距離感バグってますね義姉さん。僕はもう子供ではありません。親愛を示すなら握手とか方法はいくらでもあるはずですよ?」

「もう、お堅いんだからぁ。まあ、その方が可愛いから好きよ、あ!ニコちゃんも来たのぉ?相変わらず毛並みが素敵ぃ、抱っこさせてぇ」


「あたしゃ、煉華の嬢ちゃんは嫌いじゃないが、抱っこはお断りだよ」

「え〜いけず〜」

「てか、そんな事より義姉さん、兄から連絡は来ていますか?」

「ん?ああ、エヴァから?来てる来てる!アバオラの遺跡を案内してあげて欲しいってヤツよね。物好きだねぇルー君、あそこにはお宝とかあんまりないんだよぉ?あるのは古代魔獣の封印とか、モンスター関連の古文書とかそんなんばっかなんだからぁ」

それを聞いた僕は嫌な予感がした。


レイトの部下達がここにいる。

ということは、同行しているヴィランがいるはず。

そして、魔獣の封印。

ヴィランの目的はまだ、明確にはなっていないが、お宝よりも魔獣こそが目当てなのだとしたら……

「義姉さん、申し訳ありませんが、案内を大急ぎでお願いしたいのですが」

「俺からも頼みます。部下の安否がかかっているのです」

レイトが切羽詰まった表情で義姉に話しかける。


「あれ?キミは……」

「はい、紹介が遅れました。王国騎士団の団長を務めております、レイト・クシュリナーダです」

マジマジとレイトを見る義姉。


やがてハッと思い出した。

「やっぱりそうだ!聖拳道場で対戦したレイトくんでしょ!あたし煉獄流拳闘術で学んでたチェリッシュよぉ、覚えてるでしょ?あたしの肋骨ヒビ入れたじゃない」

「⁉︎あの時の鬼神が如き拳を振るった女性か!肋骨への一撃の後、俺を全治二ヶ月の重傷まで追い込んだ!」

なんか物騒な言葉の応酬が聞こえるが、二人が知り合いだったのは驚きだ。

「ここで会ったのも何かの縁!再戦を申し込む!」

「望む所よ!」

……僕は流石に、そのやり取りに割って入った。


「そんな事してる場合じゃないって言ってるよね?」

「「……はい」」

流石にバツが悪かったのか大人しくなる二人。


義姉はそそくさと酒場へ向かい、店長や同僚の女の子に挨拶を済ませ、冒険用の身支度に着替えてきたらしい。

「よ、よーし!じゃあ、善は急げねぇ!早速アバオラに乗り込みましょう!」

「やはりここからは徒歩で行きますか?」

密林の中は流石にユニコーンで向かうのは無茶だろう。

「ううん!あたしのパートナーに乗せてってもらうつもりよぉ」

「パートナー?」

義姉は肩から掛けた鞄から一本の笛を取り出して吹いた。

勢いよく吹くわりに音は微かに聴こえるのみ、たぶん人間には聴き取りにくい音なのだろう。

やがて暫くすると、サバンナの方から物凄い勢いで何かが飛来してきた。


それは、ライオンの下半身に獰猛な鷲の頭と翼を持つ美しく気高き幻獣グリフォンだった。

「紹介するわ、あたしの冒険のパートナー、グリフォンのヒバナちゃんよぉ」

「これは予想してなかったです、まさか義姉さんがグリフォンナイトだったとは」

「凄いな、俺も初めて見た」

「えへへ〜あたしとヒバナは熱い友情で結ばれてるのよぉ」

ガブ。

ヒバナの嘴が義姉の頭を咥え……義姉は無言で鉄拳制裁を返す。

本当にあるのか?

熱い友情……


だがまあ、感嘆する他ない僕とレイトをよそに、早速荷物をヒバナに載せて準備を整える義姉。

「さあ、急ぐんでしょう?早く乗ってぇ、ヒバナちゃんは五人くらいまでなら全然大丈夫だからぁ」

確かにデカい。

先だってヒバナの首元にある鞍へと跨った義姉、僕とレイトもそれに続き、ヒバナの鞍から、胴体に渡されている綱をしっかりと掴んだ。

「準備大丈夫です義姉さん。お願いします!」

「はーい、じゃあ行くわよヒバナ!」

手綱を引く義姉。

それに呼応して空へと羽ばたくヒバナ。


3人と一匹は大密林アバオラに突入した。


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