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第二十三章「オルランド家の人々」


あの後、本当に大変だった……


暴れるレイトを闇魔法でふん縛ってくれたベルには、本当にありがとうと言いたい。


「ありがとうベル」


というか言った。

やっぱ感謝の気持ちは言葉にしないと伝わらないよね。

「えへ!そんなぁ、愛してるだなんて照れちゃいますわ」

あれ?言葉にしたけど伝わってない?


しっかし、急にニコがレイトの部下達は密林にいるって言い出すもんだから、レイトは今すぐ行くって言って聞かなかった。


「行かねばならん!離せルシヴァ!一刻も早く駆けつけねば!」


「無理だよレイト。君、方向音痴じゃん。多分だけど、離した途端に反対方向に駆け出すと思う」


大密林アバオラは広い。何度か取材で訪れた僕でさえキチンとした準備なしでは遭難しかねないんだから。


僕だって行方不明の人達は心配だ。

でも、だからそこ慎重にならなきゃならない。


その為にはまず、憂いをすべて無くす。

レイトには悪いが、まずはアピスの身の安全を第一に考えさせてもらう。


そう思いながら、久しぶりに帰ってきた実家を眺めてみた。


「この武骨な造り、変わらないな」


オルランド領地は北のロックス領よりは安全と言われるが、実はそうではない。

北以外の三方向を海に囲まれ、他国の侵略こそ無いものの、大密林や砂漠、サバンナと言った野生区が多く、魔獣も大型種が大多数。

それらに備えてオルランドの城は砦の様な造りをしている。


幾層にも造られた壁と高み櫓。随所に設置されているバリスタ。

これらはすべて魔獣によるスタンピートに備えた設備だ。

これはオルランド城のみならず、首都の周囲にも同様の防衛設備が敷かれている。


でも、これだけの防衛設備を持つ場所だからこそ、アピスを信頼して任せて行ける。


「今の所は使わないで済んでるけど、ニコの言葉が気にかかるんだよなあ。でも、気に病んでも仕方ない。前向きに行こう!」


なんてつぶやきながら歩く内に我が家に到着。


オルランド城の玄関前で兄が、来客一同に礼をして言った。


「さて、何はともあれ、ようこそ我が家へ」


家主の兄エヴァンスに続いて、実家の敷居を跨ぐ僕達。


しかし、扉を開けたそこには、母さんが待ち受けていた……


「お帰りなさい、ルシヴァさん。随分とお久しぶりだこと」

笑顔だ。

しかし、その内側に渦巻く怒りのオーラがまるで隠せておらずダダ漏れておりますよ?

お母様。


「ただいま帰りました。ご無沙汰してます、母さん」

「あら?わたくしが母だという事はかろうじて記憶して下さっていたようね」


ぐっ、相変わらずイヤな物言いだなあ、ボディブローみたいに人のハートをエグってくる。


「まあいいでしょ、で?例の話はどうなりました?」


「例の話?」


「ロックス家のお嬢さんとのご縁談の事です!こういうのは当人だけでなくお家の事なんですから、キチンとした準備というものが必要になるの!で?ご挨拶に伺う日は決まりましたか?」


「ああ、それならもう僕が直接ロックス領に行って話しつけてきましたよ?」

「は?」

「無事婚約を済ませて、今日もお嬢さんに挨拶に来てもらってますし」

「はあ?」

なんで母さんはこんな空いた口が塞がらない様な顔してるんだろう?

後ろで兄も頭を抱えている。

まあ、いいか。


僕は後ろに控えているベルを呼ぶ。

「ベル、少しいいかい?」

「はい、ルシヴァ様!」


では改めて紹介しよう。

「ベル、こちらが僕の母アーミア・オルランド、そして母さん、彼女が僕の婚約者ベルファゼート・ロックス」


「はじめましておかあさま、あたくしロックス領主ブリザリオ・ロックスの娘、ベルファゼートロックスと申します。どうぞ末永くよろしくお願い致しますわ」


優雅かつ丁寧に礼を示し、柔らかな笑顔を浮かべるベル。


その時だった!母の顔が、まるで電撃が走ったかのような驚愕の表情に変わったのは。


「かんわわわわわいいいいいい!」


びっくりした。急に耳元へ50代女性による絶叫が轟いた。


なんかワナワナ震えてるし、本当にどうしたんだろう?


「出たな、母さんの可愛い娘大好き症候群。オレの嫁さんの時も大変だった」


なにそれ?

兄が急に母の未知なる症状を僕に告げたその時だった。


「やあ、ルシヴァ君おかえり。久しぶりに会えて嬉しいよ。おや?そちらの美しいお嬢さんはどなたかな?」


麗しき人と書いて麗人が、母の後方から姿を現わし、ベルに向けて麗しオーラ全開の視線を放つ。


「きゃー!ルシヴァ様!ど、どなたですの?こちらの美しい方は?」

驚くベル。

まあ、はじめて見たらみんなそうなるよね。


「ああ、"彼女"は僕の"姉"上、マシェリカ・オルランドだよ」

「ホゲェー!こんなにかっこいい方がルシヴァ様のお姉様ぁ⁉︎尊と過ぎますぅぅ」

「ベルちゃん可愛いわぁ、わたしこんな娘が本当に欲しかったのよぉぉ」

「なんだって?この素敵なお嬢さんがルシヴァ君のお嫁さん!わたしに妹ができるのだね?何という僥倖だ!」


なんだか物凄いカオスな状況になってきた。


「ねえ、ルシパパ?アピスは?アピスも自己紹介したいの!」

戸惑う僕を前にアピスがそう言った。

「そうだね、母さん、姉さん、この子はアピス。僕とベルの……」


「「イヤァァァ!可愛い過ぎぃぃぃ」」


母と姉が同時に絶叫!


そして、ベルファゼートとアピスを交互に見た後。

「え?ベルちゃんがわたしの娘になった上、更に孫まで?」と母。

「え?ベルちゃんがわたしの妹になった上、更に姪まで?」と姉。


「でかしたわ、ルシヴァ!最高の親孝行よぉ!」

「やるなあ、ルシヴァ君!流石わたしの弟だ!」


テンション高くベルとアピスを歓迎する母と姉。

戸惑いつつも、超褒められて甘やかされてデレデレの二人。


「あの、僕らはこの後、仕事で大密林に行くんだけどアピスの事を頼んでもいいかな?」

「もちろんよぉ!むしろこんなに可愛いベルちゃんとアピスちゃんをあんな危ない所に連れてったらぶち殺すわよ!」

超殺気立ってる母と姉に、半分追い出されるように部屋を出た僕。


どうやら、ベルも連れ出したら殺されるかもしれないので、彼女にも残ってもらい、このまま調査に向かうしかないか。



それにしても疲れた。

そんな苦労を慮ってか、兄が僕の肩に手を置き頷く。


「さてルシヴァ、着いて早々すまないが、君とレイト君に大密林に向かってもらいたい」

「兄さんは……他にやる事があるだろうし、仕方ないね」


「ああ、オレはヴィラン化した人々の身元の紹介と家族への連絡、その他諸々取り掛かろうと思う。ただ、あの遺跡に向かうと言うなら、途中にあるチセ村に寄るといい」


「チセ村?何があるんだい?」


「そこの酒場が大盛況だそうでな。友人の頼みとの事で俺の嫁さんが手伝いに行ってる。事情は念波石で伝えておこう。きっと助けになってくれる筈だ」


「そう言う事か……わかった。ありがとう兄さん。じゃあ、早速だけど僕とレイトで向かうよ」

「待ちな坊や!」

ニコが声をかけてきた。


「え?どうしたのニコ。ご飯まだ食べてないのかい?」

「ご飯はさっき食べたさ。それより、あの遺跡に行く気だろう?あたしも連れて行きな」


え?


「どういう風の吹き回しだい?」


「なに、ただの気まぐれさね。それに、あんたに稽古をつけてやろうと思ってにゃ」

ニコリと笑うニコ。


あれ?

可愛いんだけど怖い、怖いけど可愛い。


「おお!ニコ様の稽古だと!羨ましいぞルシヴァ!」


「あんたもいずれは揉んでやるよ。白日の紋章にもあたしゃ可能性を感じてるんでね」


「本当ですか!感謝しますニコ様!」


なんだか先行き不安だなあ……


取り敢えずはチセ村。

そういえば義姉さんに会うのも随分久しぶりだなあ。



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