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第二十二章「大密林アバオラ」


 「うわー、凄いねベルママ!全部砂なのぉ!」


大はしゃぎのアピスとベル。

「そうね、あたくしもオルランド領には何度か来てるけど、この壮大な景色にはいつも驚かされちゃうもの」


 魔動列車の駅から出た僕達を出迎えてくれたのは、ギラギラ輝く太陽と、見渡す限りの砂の海だった。


王都の南に位置するオルランド領。


北のロックス領とは真逆で、気候的にはかなりあったかい。


僕達は昨日、運搬会社が飼育調教している幻獣”砂クラーケン”に乗って砂漠地帯に入った。


砂クラーケン。

そのサイズはかなり大きく、大型のガレオン船級。

砂漠における彼らの移動速度たるや、魔動列車と肩を並べるくらいだ。


「こんな大きな魔獣を手懐けているなんて、オルランド領の魔獣調教技術はスゴイですわね、ルシヴァ様!」


「うん、オルランド領はかなり気候が特殊だからね。地域に生きる魔獣との共存する為に磨き上げられた技術は伊達じゃ無いって事かな。人間も魔獣も仲良く生きる事がができるなら、それに越した事はないって事だよね」

僕は砂クラーケンの体表を撫でながら続ける。

「それに砂漠やサバンナに生息する魔獣は比較的大人しい種が多いからね、ジャングルだとこうはいかないけど……」


良かった。どうやらアピスは多少落ち着きを取り戻してきたようだ。

追われる身というのはきっと、彼女の心身に多大な負荷をかけていたに違いない。

とにかく、今は僕の実家に急いで、少しでも早くアピスを休ませてあげたい。


そんな事を考えている間も、砂クラーケンはガンガン砂漠を泳ぎ続け、あとものの数分で僕の実家のある首都ソラブカーテに到着する所まで来ていた。


「二人とも、もうじき到着するだろうから準備しなよ」

「「はーい」」

本当に仲良いな。

まるで姉妹みたいだ。


一方で、僕の兄エヴァンスとレイトが何やら話し合いをしている。

仕事上付き合いのある二人だけど、公の場以外で話し込んでいるのは珍しいな。


「すまないルシヴァ!少しいいか?君の意見も聞きたい!」

なんだろう?僕は二人の元へ向かった。


「実は今、エヴァンス様と話していたのだが、駅で俺達を襲ったヴィラン達の正体がわかった」

「ああ、念話の魔石で駅に向かわせたうちの使用人から連絡がきてな。全員が全員、以前から失踪の届けが出ていた行方不明者達だった」

それを聞いて唖然とする僕。


「ちょっと待ってよ。という事は、あのヴィラン達はオルランドの民って事かい?犯罪者とかではなく?」無言で頷く兄。


代わって口を開いたレイト。

「魔動列車で襲ってきたのは俺の部下だった。俺が知る限りあいつは聖騎士の職務に誇りを持っている。悪事を働くような人間では決してない」

という事は、どういう事か。

答えは一つしかない。


「洗脳魔法だろうにゃ」

黒魔猫のニュウを引き連れた灰色の魔猫ニコが会話に割って入る。


「やはりその線が濃厚か」

「許せん!なんの罪もない人々に悪事を働かせるなど卑怯千万!今すぐ殴り飛ばしてやりたい」


怒る兄とレイト。落ち着きなって、こんな時こそ冷静にならなきゃ。

「坊や、良いかおしてるじゃないか、あたし好みだ」

ニコ、揶揄うもんじゃないよ。

僕は落ち着いてる。

ただ、民を傷つける悪は許せない、絶対にだ。

その想いだけは抑えきれていないのかもしれない。



そして、程なくして砂クラーケンはソラブカーテの停留所に到着。


僕達は陸に降りて、ここから始まるサバンナ地帯用の乗り物に乗り換える。


「わあ、今度はお馬さんなの?角あるね、ルシパパ!」

アピスの可愛い感想の補足だが、僕達が次に乗るのはレンタル式の小型魔獣。


「ユニコーン」


このサバンナ地帯に数多く棲息しており、慣れている人なら自力で手なづけて乗ってしまうくらい人懐っこい。


余談だが、兄の始めた事業の一環であるユニコーンレースという競技もあるのだが、僕はこれには先見の明があると睨んでいる。


それはさておき、僕は少し大型のユニコーンを借りて、乗馬をやった事のないであろうアピスと一緒に行く事にした。


ここで、ベルがゴネる。


「アピスだけずるいぃ、あたくしもルシヴァ様と一緒がいいですわ!」


「ベルは乗馬できるって、さっき砂クラーケンの上で言ってたじゃないか。それにアピスは狙われてるんだから護衛が必要なんだよ。今度一緒に乗ってあげるから今日は我慢してね」

「んもう、仕方ないですね、約束ですよルシヴァ様?お願いね」

「アピスもベルママと乗りたいの、今度一緒に乗ろうね」

「ドキュウウン!あっ、ヤバ、この子ったらなんて可愛いんですの、欲望に溺れた自分が嫌になるぅぅ」


あれこれと忙しいベルは放っておいて、僕達はユニコーンに乗って出発した。


サバンナ地帯の広さは砂漠ほどではないが、それでもユニコーンの足で30分程の距離は悠にある。


駿足のユニコーンに揺られていると、楽しそうにはしゃぐアピスの目に、大密林が目に入ったらしい。


「ルシパパ!あれ何なの?すっごい緑!」


大密林アバオラ……

オルランド領の3分の一を占める広大なジャングル。


数多の冒険者達が果敢に挑むも、あまりの広さと、生息する魔物の強力さに半分も開拓が進んでいない魔境だ。


「あれはジャングルって言って、凄く広い森なんだ。とっても危ない場所だし、迷子になっちゃうから、アピスはまだ近づいちゃだめだよ」


「うん、アピスわかったの!」


良い子だね。


「ベルもわかりましたわ」


ベルも良い子だなあ


「ん?」


おかしい、さっきからユニコーンの進行速度が遅くなっている。

手綱を引いても、進む事に躊躇する感じが見て取れる。


「ルシヴァ、変じゃないか?」

そう声をかけてきたレイト。


彼のユニコーンも動きがぎこちない。


「レイトもそう思うかい?」

「ああ、ユニコーンが酷く怯えている。原因は、あのジャングルのようだな」

僕同様にユニコーンの動きが悪くなっている事に気づき、さらには原因がどこにあるか突き止めたレイト。僕も同感だ。


直感だけど、何かイヤな予感がする。

ジャングルで何か起きているのだろうか?


「ふうん、中々鋭いね白日の小僧。当たりだよ」

ニコが口を開く。

「ニコ様?当たりと言うと、やはりジャングルで何か起きているのですか?」


「ああ。……今はまだ無事のようだがね」

「それってもしかして、遺跡が関係してる?」

僕はかつて読んだアバオラ文明に関する文献にあった、遺跡の記述の事を思い出しニコに尋ねた。


「あんたも鋭いね坊や。十中八九そうだろうさ。まあ、そう簡単にはトラブルなんて起きないだろうが、用心に越した事は無いんじゃないかね?」

含みのある言い方。

ニコはあの遺跡の全貌を知った上で、未来を予測している。


「そうだ!白日の小僧。駅であんたが尋ねた答えを教えてあげるよ」


ニコの手が大密林を指し示し


「あんたの探し人はあそこにいる」


彼女はそう言った。



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