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第二十一章「ルミナス」


 "ルミナス"


みなさんは覚えているだろうか?

カーバンクルの幻獣人アピス・ヴィラネスが逃げ出しできた変態の巣窟である。


大事な事なのでもう一度言おう。


変態の巣窟である。


オルランド領にあるスラム街"テポン"に隠された秘密通路を抜けた先に広がるダンジョン。

そこにその場所はあった。


禁断の地ルミナス


かつて、魔王と呼ばれた人類の敵が支配した荒廃せし地。そこに建てられた古代の闘技場。


この呪われた場所で今まさに、血で血を洗う激戦が繰り広げられていた。


「欲しい、全部欲しい、俺は全てを手にしたい!」


血塗れの身体に肩で息をし、アドレナリン全開のまま堪え切れずに男は叫び、目の前の巨大な怨敵の首に双剣を振り下ろした。


三十後半といった年齢だろうか、身なりからして恐らくは冒険者。

獲物は双剣。

冒険者としてはかなり高ランクなのだろう、彼の前に首の切れた魔獣ヘルハウンドの死骸が転がっているが、この魔獣は相当の実力がなければ単騎で狩ることなどできない。


「約束だろう?俺はコイツを葬ったぞ!さあ、俺に人間を超える力をよこせ!」


闘技場の外側に広がる漆黒の闇に向かって彼は吠えた。


鎮まる闘技場内。

「なんだ、腰抜けばかりか?嘘付きのペテン師どもめ、時間の無駄だったな」


そう吐き捨てる様に言って男がその場を去ろうとすると、いつの間にか背後に黒いローブを羽織った者の姿があった。


「何!」


男は振り返りざま、ローブの者に首を掴まれた。


「お前が強欲なのがよくわかった。そして、強さにしても中々だという事がな……良かろう」


ローブの者はその渋く低い声からして男性らしい。

彼の手から男は解放され、地面に膝を付く。


「ガハッ、ゲホッ、なんだお前は、一体、ゴホッ」


喉を痛めたのか咳き込む男を尻目に、ローブの男が魔獣の首を掴み、男の顔を凝視した。


魔力 魅了のヒュプノシスアイ


それを目にした男は、完全な洗脳状態に陥った。


「名を告げよ」

ローブの男の言うがままになる男。


「俺の名はマドゥラ」


「よかろう、これより貴様が葬った地獄の魔獣ヘルハウンドのチカラを授ける」


そう言って右手を差し出すローブの男。


その先にいつの間にかやって来ていた女性がおり、コクンと頷くと、彼女の胸元にある紋章が澱んだ輝きを放った。


獣化の紋章 オペレーション・コクーン


女性を中心に広がりゆく澱んだ色の空間。

結界魔法に酷似した繭、その中にマドゥラとヘルハウンドの亡骸とが飲み込まれ、ローブの男が叫ぶ。


「ここに新たなる"人類の敵"の誕生を迎える!」


ローブの男の声に呼応するかの様に、闘技場の周囲から声が怒号の如く鳴り響く!


「祝福を!」

「祝福を!」

「祝福を!」


「我らルミナスの新たな使徒、ヘルハウンドのヴィランよ、目覚めよ!」


噴煙が迸り、繭が弾け飛んだ。

そこから現れたのは、ヘルハウンドの合成獣と化したマドゥラの姿だった。


犬のような頭、強靭でしなやかな身体からは煉獄の炎が迸っている。


「ふむ、予想以上に強いヴィランになった様だな」

「うん、この結果ばかりは完成するまで分からんちんだかんね」


ローブの男と獣の紋章を持つちっこい女性がそう言うと、マドゥラが二人に近づき跪いた。


「生まれ変わらせてくださり光栄至極。我が主よ、この命はあなたの為に」


ローブの男が頷き、マドゥラに告げる。


「うむ、ではマドゥラ!生まれ変わった貴様に命じる!ヘルハウンドの魔力を生かし、我らの元から逃げ失せた幻獣人アピスを狩猟せよ!」


ゴソゴソとローブの中から何かを取り出す。


「これを貸してやる!アピスが読んでいた本と、お洋服だ!これに染み付いた彼女の匂いを辿るといい」


ドヤ顔で変態行為を暴露するローブの男、そんな彼をマドゥラはじっと見つめて。


「は?何偉そうに命令してんだオッサン、俺が忠誠を誓うのは、こちらの美しく小さいご主人様だ!調子こくなよクソが!」


……


気まずい空気に居た堪れなくなったのか、小さい女性が言った。


「えっと、じゃあさあ、あたしが君に命令するね。さっきこの人が言ったのと同じ事をしてくれるかな?あたしの為にね、お願い」


「はっ!このマドゥラ、命に変えましても!」


そう言うと尻尾を振って駆け出していってしまった地獄の猟犬。


残された二人は沈黙。


「あのさあ、アンチィ……わたしの魅了魔法より、君の方が魅力的なのだろうか……」

ローブの男が震える声で沈黙を破った。


そして、アンチィと呼ばれた獣化魔法使いの女性は彼の肩を叩きこう言った。

「この後、飲み行くかい?」

どや顔で!


ローブの男は首を横に振る。


「わたしは下戸なのでな。それに……」


「この秘密結社ルミナスの大首領ともあろう者がこれしきのストレスで落ち込むわけがなかろう!」


「あっ、ヴァルカン様!」


颯爽と去り行く彼の背中は、何故か少し寂しそうだった……



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