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第二十章「雷尽」


 警笛の音が鳴り響き、魔動列車は遂に終着点であるオルランド領へと到着した。


そして、僕、ルシヴァ・オルランドは車両を降りて、直ぐに辺りを見回した。

ベルとレイトも同様だ。ここからはアピスを中心に囲む様にして動く。

すでに第2、第3の刺客が放たれているやもしれない。

油断は禁物だ。


「ううっ……」

そんな僕らの緊張が伝わってしまったのか、辺りを異常に警戒し怯えているアピス。

ベルファゼートはそんな彼女を落ち着かせる為、後ろからそっと抱きしめた。


「大丈夫よアピス!あたくしとルシヴァ様がついてますからね」

「怖いの、あちしを探してアイツらが近くにいるかもって、どうしても考えちゃうの」

心細さから不安な気持ちを吐露するアピス。


そんな彼女の両肩に手を添えて、僕はこう言った。

「僕達を信じて!アピス」

恐れに囚われた彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、僕は更に続ける。

「キミを絶対に守り抜く!」

そう決意を表明した次の瞬間!


この駅で既に待ち構えていた敵が一斉に飛びかかってきた。

数にして5体。鰐、牛、禿鷹、兎、針鼠の合成獣だ。

第2、第3どころじゃない、かなりの数を投入してきたな。

そんなにこの子が重要なのか?

そして、この組織にはどれほどの数の構成員がいるのだろうか?


なにはともあれ、僕は即刻迎撃する為、広範囲における剣技の構えを取る。


暗黒剣技 抜虎ばっこ


襲い来る5体のヴィラン。

レイトとベルもすでに戦闘態勢を整えている。

対象に向かって剣を引き抜こうというその刹那。


「無茶するなルシヴァ、まだオーラが使えないんだろ?」


聞き覚えのある声が僕の耳に届いた。

そして……間髪入れず、声の主によるヴィランへの攻撃が繰り出される。


雷尽の紋章 捕縛術・御雷縄ごらいじょう


黄の紋章により雷属性のオーラを付与された縛縄が声の主から放たれ、5体のヴィランを縛り付ける。

電撃が流れて感電し、そのまま気絶してしまうヴィラン達。


「なんだ、歯応えのない。これならばオレが手出しするまでもなかったかもしれないな」


仕立てのキッチリしたスーツを身にまとい、僕らの前に颯爽と現れたのは……


「兄さん、あまりみだりに紋章を使わないでくださいよ……」


彼の名はエヴァンス・オルランド。僕の実兄である。


それより僕はいま、のっぴきならない状態になってしまった。

他のみんなも僕と同様に四苦八苦している。

だが、この状況の元凶たる兄はどこ吹く風で呑気に言った。


「やあ、久しぶりだなルシヴァ。どうした?そんなに怒って」


「兄さん、黄の紋章は雷属性、基本範囲攻撃ばかりだから、味方の居場所や状況把握が重要ってのは定石でしょう?ヴィランだけじゃなくて、僕らまでまとめて痺れちゃったじゃないですかぁ!」


死屍累々、あまりにも急に迸しった電撃をまともに喰らい、倒れているみんな。


「ありゃま?すまんすまん、電気漏れてた?いやはや、まいったなぁ」


この兄は……どうも昔からおおざっばというかなんと言うか。

僕が痺れながら苦悩してると、聞こえる笑い声。


「にゃははは」

えっ?嘘。なんでここであの子の声が?

「あたしを放ったらかしにした罰だね、坊や」

小さい身体とは裏腹の尊大な態度。間違いない、姿を現したのは僕の飼い猫ニコだった。


「ニコじゃないか!ごめんよ長い間留守にしてしまって、ちゃんとご飯食べてるかい?身体は具合悪くなったりしてない?」

僕は久しぶりに再会できた事があまりにも嬉しくて次から次へと捲し立てて質問してしまう。


「あー、相変わらずだねぇ、あんたの猫好きも。大丈夫だよ。オルランド家の連中は分をわきまえてるからねえ。快適に過ごしてやったさ」


「うーん、それはそれで寂しい様な……」


「ふっ、毎日がデンジャラスと隣り合わせだったなあ……」

兄が遠い目をしている。


何故?

こんな可愛いニャンコと一緒にいれたのに?


「それより坊や!」


「ん?なんだい?」

「あんた、あたしのいない間に他のオンナにうつつを抜かしたね?」

ニコがベルを指差す。


「え?あ!いや、彼女は……」

「問答無用だよ!そこの泥棒猫!あたしゃあんたに用があって来たんだ!よくそのツラを見せな!」

属性耐性とプライドの高いベルファゼートが、痺れるだろうに無茶して立ち上がった。

「このあたくしを泥棒扱い?なんですの?この生意気ニャンコ!いくら可愛くても失礼だと思いますわ!」


めっちゃ怒ってらっしゃるベルファゼート。


だが……


「あんたじゃないよ小娘。あたしが言ってんのはあんたの荷物の中で寝てるそのメス猫の事さね」


「え?それってベルじゃなく?」

驚く僕。

「え?ニュウの事ですの?」

驚くベル。

ショルダーバッグで眠る、黒き魔猫ニュウを優しく取り出して、抱っこする。


「え?そっちかい?ニコ。わたしもてっきりそちらのお嬢さんの事かと……」

驚く兄。


「あたしゃ初めっから言ってただろう?泥棒猫、メス猫って!一言でもメス人間とか言ってたかい?」


メス人間ってなんだよ。


どうやら、ニコは千里眼でロックス領にいた時、僕がニュウを可愛がっていたのを見ていたらしい。

ヤベ……


こんな状況でも悠々自適にすやすや眠るニュウ。

それを見たニコは更に機嫌を悪くしたらしく、魔力を練り始めた。


ヤバい……膨大に膨れ上がる魔力の奔流に大気が震えている。


「いやぁ、何ですのこの魔力!ルシヴァ様やだ、死にたくないですわ」

悲鳴にも似た叫びをあげるベル。

魔法使いだけに魔力に関する感度が高いらしくニコのヤバさがイヤと言う程わかってしまったらしい。


「あいも変わらず恐ろしいな、心がバキバキに折れてしまいそうだ」

冷や汗をかきながらも、レイトは笑顔で拳を握っている。

いや、無理だよ?勝負にならないからね?


魔猫レーゼン、古代魔獣に分類されるその原初の魔力に皆が打ち震えていたその時……


「うなぁ」

あ、ニュウが起きた。


「お!目を覚ましたね!こら泥棒猫!ちょっと可愛いからって、あたしの坊やに手出ししたら、ただじゃ……」

怒鳴り散らすニコに歩み寄り、頬擦りするニュウ。

「うにゃお」

その純粋無垢な鳴き声にハートをぶち抜かれた僕。


そして……


「な、なんだい?あんた、まだ魔力の覚醒も迎えてない赤ん坊みたいなもんじゃないか」


「うな?」

ジッとニュウを見つめるニコ。

「嘆かわしいねぇ。今の魔猫はこんなにも弱くなっちまってるのかい?」


古代を思い返してセンチメンタルなニコさん。


「よし、いいだろう!これも何かの縁さね!あんたを現代最強の魔猫に育ててやる!」

「え?ニコ?」

急な展開に付いてくのがやっとの僕。


「あたしの魔力を目の当たりにしてビビるどころか頬擦りときた。楽しみだねえ、将来有望だよこの子は!育てるよぉ、にゃははは!」


なんか飼い主であるベルの意向とか完全無視だけど、と思ってベルを見たら、死んだ目のまま笑顔でコクンと諦めた様に頷いた。


「ニコ様、少しいいだろうか?」

神妙な顔付きでニコに話しかけるレイト。

「おや、白日の小僧じゃないか、あんたも来てたのかい?」

「はい、実はニコ様に折り入ってお話が……」

「あたしにゃないよ」

静かな威圧。

確かな死の気配。

だが、レイトは怯む事なく言った。


「わたしの部下が3名このオルランドで行方不明となってしまいました。現在捜索中であり、ニコ様に御助力いただければと考えております」

言い終えた後、レイトは胸ポケットから何かを取り出す。

「これはほんの気持ちですが」


それを見たニコ。

その目が釘付けになる!

「こいつはニャオチューチューじゃないか!なんだい、こんないいもん持ってるなら先に言いなよ、いいよ。その案件、手伝ってあげるよ」

「本当ですか?勿論、これはほんの気持ちでして、解決の暁には一年、いや、三年分ほど用意させていただきますので、何卒!」


「うむ、苦しうにゃい!にゃはははは!」

「ありがとうございます!ははははは!」


こうしてレイトの人探しの件はニコの協力を得られる運びとなった。


うん、猫はみんなあれ好きだよね。



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