第十九章「アピス・ヴィラネス」
魔獣カーバンクルとの戦いにおいて、魔法使いは圧倒的に不利である。
何故なら、カーバンクルは全ての魔法を反射してしまう。
魔法以外に攻撃手段を持たないであろう者にとって、これほどの驚異はない。
ベルファゼート・ロックスはそんな天敵を前にして、尚も不敵に笑っていた。
たしかに、彼女の持つ暁闇の紋章は、魔法使いとしては最高峰に位置する能力を持つ。
しかし、それでも反射されてしまうのでは意味を成さない。
それでも勝てる。
そう言わんばかりのベルファゼートが先に動いた。
カーバンクルは彼女の目の前にある座席の後ろに隠れている。
そこを目掛けて駆け出したベルファゼート。
カーバンクルまであと少しで触れるかどうかと言う所で、額にある宝石からバリアが張られた。
全てを拒絶する絶対障壁 リジェクションウォール
魔法の反射と付いを成す、物理攻撃を完全に防ぐ光の壁。
まさに死角なし。万事急須。
だが、ベルファゼートは怯まない。
彼女は今、ルシヴァへの愛情が満ち溢れすぎていて、やめられない止まらないスーパーハイテンション状態だった。
「闇の理、魔の力を持ちて剛の力へと転ずる」
黒い闇のオーラがベルファゼートの四肢を包み、収束。闇の手袋とブーツと言った様相へと姿を変えた。
闇魔法 ダークドレス
ベルファゼートは闇のブーツを纏った足で、ハイキックを繰り出す。
だが、カーバンクルが張ったリジェクションウォールによってそれを防がれてしまった。
続いて繰り出した、闇の手袋で強化された拳の連打。
それすらも傷一つ付かない。
だが、ベルファゼートは攻防の最中、更なる魔法の詠唱をしていた。
「深淵より轟け黒き雷鳴」
闇魔法 ダークボルト
「!?」
物理攻撃を仕掛けて来たベルファゼートに対して、絶対障壁による迎撃を図ったカーバンクルだが、ベルファゼートは同時に魔法による攻撃を被せて来た。
完全に不意を突かれた魔法攻撃に、カーバンクルは成す術がなく、黒い稲妻に貫ぬかれた。
「あなたの防御は見事なものですわね。それは認めてあげますわ。でも、一度に二つは出来ませんでしょ?それがあなたの敗因ですわ」
ドヤ顔しまくるベルファゼート。
すると、目の前のカーバンクルが、淡い光に包まれた。
「え?何ですの?」
驚くベルファゼート。
それもそのはずだ。
なんと彼女の倒した魔獣が、小さな女の子に姿を変えてしまったのだから。
「嘘ぉ、カーバンクルが女の子になっちゃった。え?どゆこと?謎過ぎ」
「んん……」
目を覚ました女の子。
瞬きをしてから辺りをキョロキョロと見渡し、ベルファゼートに気が付いた。
「あり?ここどこなの?んん?お姉ちゃん誰なの?」
「あたくしはベルファゼート・ロックス。あなたこそどこのどなたかしら?」
ベルファゼートの問いかけに少女が答える。
「あちし?あちしはアピス、アピス・ヴィラネスなの」
屈託のない笑顔で答えるラピス。
「そう、よろしくねアピス。それで?あなたは魔獣ですの?人間ですの?」
「両方なの、あちしは"ルミナス"で生まれたカーバンクルの魔獣人間なの!」
「ルミナス?魔獣人間?何それ?」
「アピスもよくわかんないの、でも、ルミナスはアピスのいた所なの。そこはいっぱい怖かったの。だから逃げて来たんだけど、追ってきたヤツにここ来る途中で捕まりそうになって、魔獣に変身したの!だけどアピス変身すると、自分が自分じゃなくなっちゃうの」
「逃げて来たって、ヴィランから?」
「うん、あいつら怖いの!変態なの!アピスを捕まえてイタズラしようとするの!」
こんな小さい子から変態呼ばわりされるなんて、どれ程の変態なのか、想像したベルファゼートは怒りで震えていた。
「ゆっ、許せない!こんないたいけな女の子にイタズラしようだなんて!いいですわアピス!そんなド変態共あたくしが一掃してあげますわ!」
「え?本当なの?お姉ちゃんありがとうなの!」
「うっ……ベル?」
ベルファゼートの怒りの叫びにルシヴァが目を覚ました。
「え?ルシヴァ様?もう目が覚めたんですか?嘘ぉ、あたくしの治癒術はたしかに効果が高いけど、こんなに早く……」
実際ルシヴァの回復は早かった。
常人ならば丸一日は動けなくなるほどの重傷を負っていたにも関わらず、ほんの十数分で完治に至り目覚めた。
「うん。それよりベル、いま変態がどうとか、それにカーバンクルはどこに?」
「あ、それはですね……」
ベルファゼートからここまでの経緯を説明されたルシヴァ。
「ゆっ、許せない!こんないたいけな女の子にイタズラしようだなんて!いいよアピス!そんなド変態共、ボクが一掃してみせる!」
さっきのベルファゼートとほぼ同じセリフを話すルシヴァ。
似た者夫婦と言うかなんというか……
「ルシヴァ様なら、そう言ってくださると思ってました!聞いたでしょうアピス!これからはあたくし達夫婦が貴女を守るから安心してくださいな!」
「お兄ちゃん達は夫婦なの?」
「まあ、正確にはまだ婚約中なんだけど」
「そうですのよ!相思相愛、最強無欠の暗黒夫婦とはあたし達の事ですわ!」
「暗黒夫婦て!なにそのヤバそうな名称!」
ハイテンションで捲し立てるベルファゼートとルシヴァのツッコミ。
そんな二人のやり取りを見て、アピスは少し悲しそうな表情で言った。
「いいなあ、アピスは生まれた時からずっとひとりぼっちだから……」
その一言を聞いたベルファゼートはアピスを抱きしめた。
「もう、ひとりじゃないですわアピス!これからはあたくし達がいますもの!」
その言葉に涙が溢れるアピス。
ルシヴァを見ると、彼も優しい表情で頷いていた。
笑顔になったアピス。
「じゃあ、ルシヴァ兄ちゃんと、ベルお姉ちゃんがアピスのパパとママだ!わーい!嬉しいな!えへへへ」
その言葉に驚くルシヴァと、笑顔のベル。
「あれ?僕らまだ結婚してないのに子供ができたの?きゅ、急展開ぃ……」
「女に二言はありませんわ!アピス!よろしくね!」
「うん!」
「おや、こちらでも何かあったのか?」
窓の外から車内に入ってきたのはレイト・クシュリナーダ。彼はさっき倒したヴィランの本体を肩に背負っている。
「レ、レイト、うーん、何かというか、とんでもない事が起きたんだけど、とにかくヴィランは倒したみたいだね。怪我はないかい?」
「ああ、だが、それで一つ問題があってな」
「問題?」
肩に背負っているヴィランを軽く叩きレイトが告げる。
「このヴィランの名はバルデラン・ボルンガ。……俺が探していた、行方不明になった聖騎士の一人だ」




