第十八章「白日」
魔動列車がヴィランの襲撃を受けて、いの一番に動いたのはレイト・クシュリナーダだった。
彼は一両目に近い席の窓を開け、ヴィランの突撃に合わせて車両後方へと空を翔けた。
レイトは右手の正拳に力を込めてヴィランを思いっきり殴りつける。
聖拳突き
レイトが戦闘の際に使う武術である、聖拳闘術の基礎中の基礎。
ガーゴイルのヴィランは彼の強襲を予想しておらず、自身に叩きつけられた一撃に面食らうも、体制を崩す事なく列車の上に飛び乗る。
そして力任せにレイトを引き離し車両に投げつけた。
こちらも難なく体制を整えるレイト。
「ふむ、硬い。やるな石カラス!」
レイトの拳が離れた途端、ガーゴイルの石の体表が少しひび割れ崩れた。
「ナンダオマエ、邪魔ヲスルナ……!」
レイトは手を前に突き出して、ガーゴイルの言葉を遮る。
「どの口が言う!善良な一般市民が乗る魔動列車の安全な運行を妨げるお前の所業は看過できん!聖拳制裁執行する!」
その言葉を皮切りに、膨大な白のオーラがレイトの身体から迸り、握り拳に集約してゆく。
「オイ、チョットマテ……ナンダヨ、ソノ馬鹿ゲタオーラハ⁉︎」
慌てるガーゴイル。
予想だにもしなかった明らかなる死の予感。
合成された魔獣の本能が彼に告げたのだろう。この男は危険だと。
その油断を見逃すレイトではない。卓越した足捌きで距離を詰め寄り、技を繰り出した。
聖拳さみだれ突き
単純明快にして威力抜群の正拳突きによる連打。
ただし、その全てがさっきレイトがガーゴイルに喰らわした箇所へと正確に、一点集中で叩き込まれてゆく!
「ガハッ」体表を割られ、めり込んだ拳のダメージによって吐血するガーゴイル。
あまりにも差がありすぎる。
これがレイトクシュリナーダの実力。模擬戦では騎士としての立場上、剣を主として戦っていたが、拳で全てを語る武闘家のスタイルこそが彼本来の戦い方だった。
ガーゴイルのヴィランは沈黙し、防御体制を取った。
魔奥義 ガーディアン・ストーンズ
己の持つ魔力を防御にすべて投入し、先程とは比較にならない強度の岩肌と化したガーゴイル。
追撃をしようとしたレイトが手を止める。
「ほう、中々良い考えだな。自分の長所を最大限に活かすと言う事か」
ニッと笑うレイト。
「ならば、こちらも使わせて貰うぞ!」
右手にはめたグローブを外し、握り拳に力を込め始める。
すると彼の纏っていた白いオーラの迸りが激しさを増してゆき、その右手に紋章が浮かび出てきた。
白日の紋章。
以前あった国王陛下観覧の騎士団員同士の模擬戦で、レイトが見せたもの。
クシュリナーダ家の白の紋章は光を司る。
まばゆい閃光のように煌めく紋章が刻まれた拳。
それがガーゴイルの身体に触れた。
瞬間
石の体表は更に隆起し、巨大な岩の様に膨れ上がる。
「あばぁ?アガがぁ」
何が起きたかガーゴイルも理解が追いついていない様子。
白日の紋章の能力は、ルシヴァの奪うという能力とは真逆の"与える力"である。
レイトが持つ魔力や力、それを他者に分け与える事ができる。
他にも聖なる加護を与えてアンデット対策をしたり、命令を与えて行動を制御するなど汎用性は高い。
これは、常人の何倍ものオーラ総量を持つレイトだからこそ扱える能力で、神聖騎士として神の加護を賜る事で効果は倍増する。
そんな彼がガーゴイルに与えたのは"オーラ"と"命令"である。
命令とはこうである。
"レイトの膨大なオーラを魔力に転換。それを使ってガーディアンストーンズをさらに強化し続けろ"
これを実行するとどうなるか?
馬鹿げた量の魔力に耐えきれず決壊する。
ガーゴイルは自分の魔力にレイトのオーラを与えられ続けて、石の体表を増強させ続けた結果、自重で潰され気を失った。
だが、白日の能力はそれだけではない。
この能力のエグさは与えたその先に待っている。
この紋章によって本人の許容範囲以上に力を与えられた対象は、膨らみ切った風船の如く危うい状態で、ほんの少しの負荷をかけるだけで途端に破綻してしまう。
「ここまでだ」
止まる事なく巨大化してゆく石の体表だったが、レイトのその言葉で膨張が止まった。
「てぇりゃああああ!」
そこへ聖拳突きが叩き込まれる。
あまりにもモロく砕け散り、音を立てて崩れてゆく。
そこから出てきたガーゴイルの本体を捉えたレイト。
「ふっ、この程度ではまだまだだな、オレは自分自身に"与える"技を使っていないぞ?もう少し歯応えがあると思ったんだが……む?」
喋らないガーゴイルに気付けの一撃を加えるレイト。
「お前には聞きたいことがある」
「がべっ⁉︎」
血反吐を吐きながら、意識を取り戻したガーゴイル。
その時、頭部に当たる石の体表が剥がれ落ちた。
そこからのぞいた姿を目の当たりにしたレイトは驚愕した。
「バカな……」
ガーゴイルのヴィランの正体。
それは……




