-幕間- 「暗黒令嬢の回想」
あたくし、ベルファゼート・ロックスは恋をした。
あれは半年前、父様と母様に誘われてオルランドに遊びに行った時の事。
あたくしは父様に連れられて夜の繁華街へ。
楽しみにしていたコロシアムの試合を見る為に馬車に揺られ、父様と話し込んでいたその時。
凄い衝撃と共に馬車は何度も横転し、その途中でドアが吹き飛んで、あたくしと父様は放り出されてしまった。
馬車の中でも地面に転がる時も、父様はあたくしを身を挺して守ってくれましたわ。
でも外に出てきたあたくし達を狙っていた敵は、その好機を見逃しはしなかった。
完全に不意をつかれた形になり、父様の腹部に何かが突き刺さり負傷。
その時、月の明かりに照らされて、敵の姿があらわになった。
それはタコのヴィラン。
オルランドに最近ヴィランが出現するという噂は聞いていましたわ。
でも、まさか自分が狙われるなんて思ってもみなくて。
あたくしは魔法には自信があった。
でも、圧倒的に実践経験が足りていなかったんですの。
震えるあたくし。
一歩、また一歩と迫ってくるタコを前に、死を覚悟したその時でしわ。
夜を駆けるように、あの方は現れた。
暗黒卿ヴァルス。
彼は腰に下げた剣を抜き、タコを一撃の元に切り捨てる。
そして、あたくしの方にやってきてこう言ったわ。
「立てるか?素敵なレディ。災難な夜だが、きみが無事で本当に良かった。きみの父上も……」
「あの、ありがとうございました。その、貴方様のお名前は?」
「わたしはヴァルス……暗黒卿ヴァルスだ」
そこで彼は後ろを振り返った。
タコのヴィランが再生して、逃げる体勢に入っていたから。
「すまない、ここでさよならだ、素敵なレディ。わたしはヤツを追いかけなければ!」
そう言って夜へ駆け出すヴァルス様。
かっこよかったぁん!
これがあたくしと暗黒卿ヴァルス様との出会いと恋の始まり。
そしてなんと、その憧れが今や目の前にいますの!
しかも、あたくしの大好きな本の作者であるルシヴァ・オルランド様と同一人物だったなんて……
知らなかったとはいえ、先程はとんだ御無礼を働いてしまいましたわ。
紋章の力を全開にして当たったら即死級の闇魔法をぶっ放つとか、自分でも引きますわぁ。
でも、あの時のルシヴァ様もカッコよかったですわぁ。
黒夢の紋章って言ってましたけど、あんなのありですの?
すべてを奪う能力ってヤバっ。
あたくしの心もすっかり奪われちゃいました、なんつってぇ(恥)
あの後、ルシヴァ様はあたくしの色々な失礼を笑って許してくれた。
「まだ18歳だもんね。恋は盲目って言葉もあるし、大切なのは過ちを繰り返さない事だよ。僕だって20歳だから偉そうに言える立場じゃないけど」
そう言って優しく諭してくださいましたの。
優しいぃ好き。
大好き。
はあ、はあ、はあ……あたくしは決めましたわ。
もっと強くなります。
ルシヴァ様の隣に並び立つ為に!
そしたらもっと、もっと、もーっと、好きになってもらえますよね。
ぐへ、うへへへへへへぇ……
しあわせ❤︎
このエピソードは本来15章「黑夢」の直後にUPしようと思っていたのですが、忘れてました。