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第十五章「さらば、ロックス領」


 ロックス領に平和な朝が来た。


昨夜は、風呂に入ってご飯食べたら、試練の疲れが一気に押し寄せてきて、本当に泥のように眠ってしまった。


婚約の為にホントに色々な事があったけど、なんとかかんとか全部クリア。


朝食後のコーヒーを飲みながら、僕はようやくこれで落ち着いた時間を過ごせるなあ……と思った、その矢先にベルが唐突にこう言い出した。


「ルシヴァ様の御実家へ御挨拶に伺いましょう!すぐにでも!」


なに?その行動力……


「ちょっと待って、早くない?昨日試練終わったばっかりだよ?君と殺し合いしたんだよ?」

「善は急げですもん!あたくしは一刻も早くルシヴァ様と結婚したいんですの!」


「いや、ちょっと待って!そもそもベル16歳だよね?」

それが何か?という顔をするベルファゼートさん。

あれ?

さてはご存じない?


「あのねベル。エルデリーグ王国では18歳以下の男女は結婚できないって法律で決まってるんだよ?」


「ガーン!」


いや、ガーンて、口で言うんかい。

まさか知らないとは、結構な箱入り娘だ。


「そんな、てっきり今日にでも結婚できるものかと思ってましたのに、うっうっ……」


こればかりは、泣かれても仕方ない。法律は法律。

だから今回、"婚約指輪"を渡したんだから。


「うああああ、うえっ、あああんあんあん」


泣いてる。僕の目の前の少女がそれはもう気の毒になる程の泣きっぷりで……


「……まあ、でもベルが僕の実家に挨拶に行きたいって言ってくれるのは嬉しいよ」


「ズビっ?」


泣くのが止まり、僕の方を向くベル。


「だから今回は、無事婚約が決まりましたよ言う報告に行こうか。急ぐ旅でもないから明日からとか」


「行ぎばず!」


涙を拭い、ハンカチで鼻水をかみながらベルが賛成してくれた。


良かった。昨日の今日では僕の身体が持たない。


それに……昨日は紋章を使い過ぎた。


その代償がもうすでにきている。


「昨日奪ったのは"闇の最高位魔法"と"ベルの目の傷"。あと、"ニュウの魔力"を2回か。かなりたくさん使ったからなあ」


奪ったモノの大きさからして、恐らくこの先"一週間"。僕は暗黒ヂカラを使えなくなる。


その日はロックス家のみんなと昼食を共にし、ベル、ブリザリオ伯、夫人の奇行に手を焼きながらも和気あいあいとした1日を過ごした。


そして、次の日の朝。


僕とベルは僕の実家に挨拶に行く為、オルランド領行きの魔動列車乗車駅に向かった。


ブリザリオ伯は仕事がある為、同行できなかったが

「ムウ、愛倅に愛娘よ元気でな。見送らぬ父を許してくれ」

と、号泣しながら見送ってくれた。


まあ、癖は強いけど良い人だった事には違いない。


道中はロックス夫人が用意してくださった馬車に乗り、作家である僕の著書の話や、ベルの子供の頃の話などで楽しい時間を過ごした。


そうする内に、馬車はロックス領の首都アルゴーにある駅へと到着した。


以前、地元であるオルランド側の駅に取材で伺った時にも見事だなと思ったが、ロックス領側も、この地域特有の作りになっていて実に味わい深く美しい。


北のロックス領から、南のオルランド領までの区間を走る魔動列車。


まだ試作段階の為、領の首都同士という長距離の移動に限定されているが、後々は様々な村にも駅を作って、各駅停車する仕様を目指しているという。


「王都からロックス領に来る時も、これに乗れたらかなり早く着いたんだけどなあ」


そうぼやく僕とは裏腹に、ワクワクと楽しそうにしているベル。


腕の中には魔猫スピカのニュウを抱っこしている。


相変わらず可愛い。


「わあ、凄い。ルシヴァ様、あれは何ですの?あの美味しそうなの」

ベルが指差して興奮しているのは、駅で売っているお弁当だ。


牛肉のローストとチーズにレタスを挟んだサンドイッチか、たしかに美味しそうだ。

「あれは列車内で食べる食事だよ。折角だし買ってくかい?」


よだれをダラダラ垂れ流しながら頷くベルファゼートさん。


「それではわたくし達はここで見送らせていただきますわ、ルシヴァ様」

ロックス夫人とメイドのエンデラさんとはここでお別れだ。


「フィオネール様、この度は大変お世話になりました。そして、ベルとの婚約を許していただき本当にありがとうございます」

一礼する僕に微笑む夫人。


「ふふふ、お礼を言うのはこちらの方ですわ。大切な一人娘のお相手がルシヴァ様のような方で、わたくしも主人も本当に嬉しく思ってますの。ふふふ、貴女もそうでしょう?エンデラ」


「はい、ルシヴァ様。ベルファゼート様の事をよろしくお願い致します。もし、悲しませたら……」

「……はい、重々承知してます」

エンデラさんの目はまるで笑っていなかった。

怖い……。


そんな僕らのやり取りを見守りつつも、夫人は優雅な笑みを絶やす事なく、ベルの方を向く。


「ベルファゼート、婚約本当におめでとう。いいですわね、ルシヴァ様を絶対逃すんじゃありませんよ!」


「勿論ですわお母様!そんな事になるくらいなら、禁断の呪法だろうが何だろうがお構いなく使ってやるんですから!」


その答えを聞き、満足そうに頷くフィオネール。

そして

「いってらっしゃい、あたしの可愛いベル」

娘を送り出す母として優しくベルを抱きしめた。


「はい」

それに元気よく応えるベル。


丁度、発車を知らせる汽笛が鳴る。

僕は先んじて列車に乗り、手を差し出す。

「行こうかベル」

「はい、ルシヴァ様」


彼女の手を取り、列車へと引き寄せる。

こうしてロックス領の婚約騒動は幕を下ろした。


次なる目的地はオルランド領。

僕の実家か~

いつぶりだろう?





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