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第十四章「誓いの指輪と姉妹の絆」


 洞窟の外に出た僕が、中であった事を話したら、まあ、予想通りの展開だと笑うブリザリオ伯。


そして、帰りの馬車の中。僕は非常にどんな顔をしたら良いのかわからない思いをしている。


「ルシヴァ様ぁ、しゅき」

そう言って、父親の前にも関わらずくっ付いてくるベル。


この子、こんなにアホな子だったっけ?


「ヌハハハ、仲良き事は美しきかなだな」


って、オッサン。


「あの、一応確認したいんですがこれって試練は合格なんですかね?正直僕にはナニがなんやら」


試練を受けに行ったはずが、すでに紋章を使えるベルファゼートと殺し合いしただけだった……


「そう言えばベル、キミは紋章に選ばれたと言ってたけど、あれはどう言う意味なの?」


「どういうって?なんですかぁ?ルシヴァ様ぁ?あん、かっこいい」


「いや、普通はロックス家のご令嬢はあの試練を受けて初めて、自分の紋章に覚醒するって聞いてたからさ」


「うむ、わたしも不思議に思っていた。何故ベルだけは覚醒ではなく継承なのか」


「あーそゆ事ですの?あれはですね、昔あそこの近くの村の子と遊んでた時、洞窟にかくれんぼで隠れてたら、黒の大紋章を見つけてそん時に言われたんですの。あんたは才能あっからあたしを受け継ぐのに相応しいって」


軽っ、なに?

黒の大紋章ってそんな感じなの?

もっと、厳かと言うかそんなイメージだったんだけどなあ。


てか、かくれんぼであんな危険な洞窟行くなや!


「ふむ、確かにわしの実家であるアスリュート家に伝わる青の大紋章も、かなりクセが強いからな」


「そう言えばブリザリオ様は氷の紋章をお使いでしたね」


「うむう、わしの事は気楽にお父さんとかおやじと呼んでくれ倅!」


「だから、気が早いっての」


「ふぬう!黒の大紋章が一族の女子のみに紋章覚醒を促すのと同じでな、青の大紋章は筋肉の美しさによって覚醒の承認をするのだ」


「筋肉の美しさ……ですって?」

「うむ、筋肉の美しさだ!」


……これ以上は聞きたくないので、僕は馬車から外を眺める事にした。


目の前に筋肉美がどうとか言うおっさん。

隣にはデレデレしまくりの美少女と言うカオス。


誰か、助けてください。


その後、僕達はようやくロックス家の館に帰ってきた。


「お帰りなさい、で、どうだったの?どこまでいったのよ、ねえ、チュウくらい?どんくらい?ねえったら!」


とんでもなく下世話なご婦人のお出迎えに僕は頭を抱えてしまう。


この家、変な人しかいねえ……。


すると、メイドのエンデラさんが僕の肩を叩いて無言で頷く。

ああ、貴女も苦労しているんですね?

今ならわかります。


「何はともあれ、これでルシヴァ君とベルの婚約は無事成立した。」

「おめでとうベル。うぅ、良かったわねえ」

「はい、嬉しいですわ。ありがとう、お母様、お父様」

喜ぶロックス家の人達。


 なんだかんだで陛下の思惑通りか。

少し癪だけど、僕は自分の選択に後悔はない。


「あ、そうだ」

僕は暗黒空間に手を突っ込み、しまっておいたあるモノを探す。


「婚約が成立した時の為にと思って、事前に買っておいたんだ」


それは綺麗にラッピングされた小箱。

「あまり高いものは用意できなかったんだけど、受け取ってくれるかい?」

「えっ?これって……」


小箱を受け取ったベル。

少しそわそわしてる。


「開けてみて」

「は、はい」


ラッピングを解き、小箱を慎重に開けるベル。

その中には、錬金術で加工した金細工の指輪が入っていた。


ロックス家の紋章にも描かれている蝶の意匠を施している、いわゆる婚約指輪というものだ。


「ふあぁ、これ、あたくしに?」


この反応は喜んでくれてるみたいだね。

一応、婚約がとんとん拍子に成立する可能性も考慮しといて本当に良かった。


「折角だからルシヴァ様に着けていただいたら?」

「やっ、お母様ったらそんなぁ、ムリぃそんな事されたらヤバいですってばぁ」


ヤバい?

それくらい別にいいけど。


「え?いいですよ、じゃあ、ベル指輪貸してくれる?」

「ひょ?」

「あれ?イヤだった?」


僕の問いかけにブンブンと首を振り、黙って右手を差し出すベル。


僕は指輪を手に取り、ベルの小さく愛らしい薬指にはめた。


「うん、可愛い。ベルにとっても良く似合ってるよ」

僕が彼女を褒めながらほほ笑んだ瞬間。


「はぎゅ」

ヘンテコな声を出して前のめりに倒れたベル。

僕は慌てて駆け寄り、彼女を抱き起こした。


「大丈夫かいベル⁉︎」

「ダメ、もう、しあわせいっぱい過ぎて、キャパが、足りないんですのぅぅ……がふっ」


「ええ?ただ指輪あげただけなのに大袈裟な、ベル、ちょっと、ねえ」


気絶したベルに呼び掛ける僕を尻目に、ロックス夫妻がつぶやく。


「ねえ、あなた。ルシヴァ様はアレ、素でやってるのかしらね」

「んむう、だとしたら中々のジゴロだな。ムハハハ」


 なんか好き勝手言われてるけど、僕は全部無視して、エンデラさんとベルを寝室に運ぶ。


「それではルシヴァ様、わたくしはこれで失礼致します」

ベルをベッドに寝かせ、エンデラさんは別の業務に向かう。


しかし、ふと彼女の足が止まり一言。

「ルシヴァ様、昨日は奥様の命令とは言え、魔法で狙撃などと大変な失礼をしてしまい申し訳ございませんでした」


急に頭を下げた彼女に驚きつつ。

「気にしないでください、主人の命令で仕方なしだったんでしょうから」


「……いえ、それだけではございません。わたしはお嬢様をルシヴァ様に取られるような気がして……そんな嫉妬心もあったのだと思います」

「嫉妬?」


「わたしとお嬢様は小さい頃からずっと、おこがましいかもしれませんが姉妹のように育ってきました。そんなお嬢様が結婚……非常に複雑な気持ちでして」


エンデラさんが言葉を詰まらせる。


すると


「エンデラ……」

「お嬢様?」

いつの間にか目を覚ましていたベルが、エンデラさんに語りかける。


「あたくしも同じ気持ちですよ。エンデラの事はいつだってお姉ちゃんみたいに思ってきましたもの」「!」

口元を手で押さえて驚くエンデラさん。


「いつもあたくしを守ってくれた。いつもあたくしを思ってくれた。これからもずっと、エンデラはあたくしの大切な家族ですわ」


「お嬢ざば、結婚おべでどうござびばず……」


もう、涙と鼻水がえらい事になってる……


「……ありがと、お姉ちゃん」

そう言って微笑むベル。


「ベル」

感極まって抱きつくエンデラさん。


僕はこっそりと静かに部屋を出た。

姉妹のやり取りに水を挟まないように。


するとそこに、魔猫スピカのニュウがトコトコとやってきた。

相変わらず可愛らしいなあ。

僕は抱っこする為に、両手でニュウを掴む。


「んなぁお」しかし掴もうとした箇所がまるで霧のように散ってしまった。


「知ってるよ、君は魔力で霧散する事ができる。これを使うという事は、まだ僕に懐いてくれてないって事だね。でも、残念。僕にはこの黒夢の紋章がある!」


僕は両目に刻まれた紋章の力を発動!


ニュウの霧散する魔力を奪った。


掴まれても、あまりびっくりしないニュウ。

こないだもこうして抱っこしたもんね。


「うぅ、可愛いなあ、なんでこんなに可愛いんだろ?いやあ、本当にこの紋章があって良かったぁ」


たまらず絶叫。

そして、それをドアの隙間から見ていたベルファゼートとエンデラさん。


「お嬢様、本当にこの人でよろしいのですか?わたくし心配ですが……」


「ずるいぃぃぃぃぃ!」

「「へ?」」


ベルのいきなりの絶叫にびっくりした僕とエンデラさん。


「ルシヴァ様ったら、ニュウばっかり可愛いがってずるいですわ!ベルも可愛がってくださぁい」


そう言って僕の土手っ腹に頭突きをかますベル。


「おべしっ!」鳩尾のいいところに喰らい、吐きそうなくらい痛い。


「はい、ニュウみたいに頭なでなでしてぇ」

「いや、無理、マズイ、ゲボ吐きそう」

「ヤダァ!してくんなきゃ魔法で半殺しちゃいますから!」


僕らのそんなやりとりを見てフッと微笑むエンデラさん。

そこにブリザリオ伯と夫人もやってきた。


「あらあら、本当にこの2人は賑やかでいいわね」

「ヌハハハ!」

夫人の言葉にエンデラさんは、もう一度優しい微笑みを浮かべた。


いつでも微笑みを、そんなやわらかなねがいが叶いますように。



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