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第十ニ章「暗黒卿vs暗黒令嬢」


暁闇あかつきやみの紋章。


ロックス家の初代であるマリアンナ・ロックスが所有した、最も儚く美しき黒と呼ばれた闇の力。


目の前に浮かぶそれを、自分の所有物だと言うベルファゼート。


その言葉が真実だと言わんかのように、大紋章が動き出した。


黒い蝶のように羽ばたき、ベルファゼートの首筋へと張り付いた。


その瞬間、彼女の身体から僕と同じ漆黒のオーラが迸る。


「うふふ、ルシヴァ様。待ってましたわ、この時を!」

やはり、この祭壇に来る前とはまるで人が違っている。


「君は本当にベルなのか?」


「ええ、今まで猫被ってましたの。ごめんなさいルシヴァ・オルランド様。改めましてよろしくお願いしますね。あたくしが"暗黒令嬢ベルファゼート・ロックス"ですわ」


 ニヤリと笑みを浮かべるベルファゼート。

戸惑いを感じつつも、僕は疑問に思った事を尋ねてみる。


「ベル……この試練は君達ロックスの女性が紋章を覚醒する為の儀式だと聞いていたけど、あれは嘘だったのかい?」

「嘘じゃないですわよ?あたくしの母上も、父上とこの試練を受けて、自分の紋章に覚醒しましたの」

ベルファゼートが笑う。


「でもあたくしは違う。生まれた時からこの大紋章に選ばれていたのですから。覚醒を促されるのではなく、大紋章の継承者として。それだけの事ですわ」


「なら、この試練を受けた理由は?必要ない筈だろう?」


「必要はありますわ!試練がじゃありません。あたくしと貴方しか入る事の出来ない"この場所"に意味がありますの!」


「この場所?」


「そう、ここなら邪魔は入りませんわ。あたくしはここで貴方をぶっ殺しますの。そうすれば婚約は解消になりますでしょ?貴方に恨みはないけど、ごめんなさい。王命だなんて勝手に決められて、あたくしももうこうするしか……」


あれ?

もしかして彼女正常な判断ができてらっしゃらない?

目が怖い……


「……こんな縁談、絶対認ないんですから!だって、あたくしは暗黒卿ヴァルス様と結婚するんだもん!」


え?

暗黒卿ヴァルス?

え?

僕?


突然の告白をしたベルが両手を上げると、地面に魔法陣が展開した。


「馬鹿な、この洞窟は魔法が使えないんじゃ?」

「うふふ、あなた達にはね」


闇魔法 "ダークウェイブ"


地面の影がベルの手の動きに呼応する様に波立ち、僕に向かって押し寄せてきた。

暗黒障壁"叢雲"僕は影の波に飲まれまいと、咄嗟に防御系の奥義を発動。


「ふーん……昨日も思ったけど、あなたヴァルスさまみたいな技使いますわね。そこは良いですわね。かっこいい」


ここにいる僕がその人です。

って、ヤバい、影津波の勢いはかなりのもので、気を抜くと叢雲ごと流されてしまいそうになる。


「うおりゃああ!」

僕は暗黒ヂカラを振り絞ってなんとか影津波を乗り越えた。


「やりますわね。でも、この程度じゃ彼には及ばないですわ……ヴァルスさまはもっと凄かった。この世に生まれて16年、はじめて人を好きになりましたの。それを邪魔する人は消えてくださいまし!」


16歳?

若!

僕は19歳だからそんなには離れてはいないけど。

てか、何処かで会った事あったっけ?

覚えがない、モヤモヤする。

一息つく間もなく、続けてベルファゼートは両手を回転。


闇魔法 "ニードル・オブ・ザ・ダークネス"


ベルファゼートの影が螺旋状の円推えんすいとなって、回転しながら僕に突撃してきた。

「これを防ぐのは……無理かな?」

だったらどうする?


攻めるんだよ!


暗黒剣技轟剣 "曇天"


僕は剣を両手で持ち、暗黒ヂカラを腕に集中。

襲い来る影の円推に、思いっ切り真正面からぶつけた。

衝突した瞬間、影の円錐は弾け散って霧散したが、僕の剣も同様である。


影の円錐と同じ様に砕け散って、今やほぼ柄だけの状態になってしまった。


そこから更に僕を絶望に叩き込む一言をベルファゼートが囁く。

「貴方の攻めはもう終わりですの?だったらここからはずっとあたくしのターンですわ!」


そう言って両手を上へ向けると、さっき霧散した筈の影の円錐が再び現れる。

それだけではない。

彼女を中心に闇が広がり、そこから無尽蔵に剣や槍などの武器が生み出されてゆく。


闇魔法"ダーク・アーモリー(闇の武器庫)"


「驚きまして?これが暁闇の紋章のチカラ"産闇(うぶやみ)"ですのよ」


ベルファゼートの産み出す闇から創り出された無数の武器群が僕を取り囲む。


「暁闇の紋章は闇を産み出しますの。そのお陰であたくしは闇魔法をいつでもどこでも100パーセントの威力で使いこなせますわ!」


「……凄いね、まさに暗黒令嬢の名を冠するに相応しい力だ」


「ううん、全然ですのよ。あたくしの愛するヴァルス様の足元にも及びませんわ!あの方と肩を並べて生きる。それがあたくしの夢なんですの!」


なんか彼女の中ですっごく美化されてない?

てか神格化されてる様な気がする……


それはともかく……

「絶体絶命ってヤツだね」

そう言って僕は微笑んだ。


「……ヤダ。気に入りませんわ。なんですの?その余裕。ルシヴァ様、まだ何か隠してますでしょ!ズルいですわ、あたくしは全部曝け出したのに」


「確かにそうだね、君は正直にすべて打ち明けてくれた。だから……僕もそれに応えようと思う。ただ一つ、聞きたいんだけどいいかな?」


「なんですの?」

「君が僕の著書のファンだってのも嘘だったのかい?」

「それは嘘じゃないですわ。ルシヴァ様の本が好きなのは本当……貴方自身の事も正直嫌いじゃないんです……」


少し俯くベルファゼート。

以前も俯いていたっけ、あの時も今と同じ感情だったのだろう。


「でも、あたくしはヴァルス様一筋、これだけは譲れない大切な気持ちなんですの!ごめんなさい……」


なんだ、暗黒令嬢だなんて言うからどんなに邪悪なヤツだろうって思ってたけど……

ただ純粋に真っ直ぐなだけじゃないか。


ルシヴァの僕は殺す気みたいだけど……


正直それは陛下が悪い。

王命なんかで人の運命捻じ曲げやがってからに……

まだ16歳なんて多感な時期なんだから、思い詰めたら視野も狭くなってしまうよね。

さて、ベルファゼートの事情と思いは理解できた。

だったら僕もこの期に及んで隠している場合じゃない。

僕も彼女の思いに応えなければ、それ相応の覚悟を持って!


「いいよ、見せてあげる。僕のすべてを!」


決意を力に、僕は紋章の力を解放。

暗黒ヂカラが身体から迸り、僕は召喚の呪文を詠唱する。


 「暗闇よりもさらに深く、漆黒の海にたゆたう異装。我を黒く塗りつぶせ!」


目の前に展開された魔法陣。

その黒い文字群が僕の身体を包み込む甲冑へと姿を変え、黒で塗りつぶしてゆく。


更に放出される暗黒ヂカラ。


「嘘!?どうして貴方が魔法を使えるんですの?ここは黒の紋章の領域内、暁闇の紋章を持つあたくし以外は使う事が出来ないはずなのに!」


驚きを隠せず、叫ぶ様に問いかけるベル。


「教えてやろう、ベルファゼート・ロックス。それを可能にするのが、私の紋章のチカラなのだ」



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