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第九章「試練」

 


あの騒動の後、僕は変なおじさんことブリザリオ伯に謝罪を申し出た。

「知らなかった事とはいえ、先程はとんだ失礼をしてしまい誠に申し訳ございません」


 ポカーンとした顔の後、ブリザリオ伯はニンマリと笑ってこう答えた。

「何を言うかねルシヴァくん!君のあの右ストレートは最高だったぞ!私の紋章技をあんな風に避けたのも驚いたが、その後のアレはうん、いい、いいなあ」

頬を赤らめて僕の攻撃を絶賛する変なおじさん。


 「そんな事より、飯だ!是非夕食を一緒にしたい、その後は風呂で、その後は……」

禿げ上がった頭をパチコンと扇子で叩きロックス夫人が言う。

「このハゲチャビンの言う事はともかく、夕食をご一緒にするのは楽しそうね。エンデラ」

夫人がパンパンと手を叩くと、そばに控えていたチリチリ頭のメイドさんが深々と一礼。

「すぐに支度を致します」

と言い残して夕食の準備に向かってしまった。


 「あと、貴方は自分で割ったガラスのお掃除ですわよ。まったく、なんでいつも玄関から帰ってこないのかしら?」

「ヌハハハ、すまんすまん、なんでか知らんが玄関が開かなくてな、仕方ないから屋根に登って私の部屋から入ろうとしたら、足を滑らせてここに落っこちたのだ!ヌハハハ!」

「……おっちょこちょいですわね、ふふふふふ」

豪快に笑うブリザリオ伯と、それに合わせて微笑む玄関を閉めた張本人の夫人。


 ちなみに僕は、まだ気絶しているベルファゼート嬢をお姫様抱っこしてるのだけど、どうしたらいいの?これ……。


「んんっ……」

あ、起きた。

「あら、わたくし一体……え?ルシヴァ様?」

目を覚ましたベルファゼート嬢は、僕の顔を見て、自分の状況を見て、微笑み、また気絶した。


 「あらあらベルったら、余程ルシヴァ様に抱きしめられたのが嬉しかったのかしらねぇ、ウブなんだから」

ロックス夫人がケラケラと笑い、何処からかステッキを取り出す。

何やら呪文を唱えはじめ、ステッキを振ると、僕の腕からベルファゼートがふわふわと浮かび上がり、夫人の方へ招き寄せられる。

それをただ呆然と見ていた僕に笑顔を向ける夫人。

「ふふふ、これは浮遊魔法。わたくしが開発したんですのよ、さあ、ベルはわたくしにお任せになって、ルシヴァ様は夕食の時間までそちらの部屋で主人とお寛ぎになっててくださいね」

そう言って、浮遊するベルファゼートと共に玄関ホールを後にする夫人。


そちらの部屋と言うのは、玄関ホール向かって右手にある扉の事だろうか?なんだか、凄く不思議なオーラを感じる……


「ヌハハハ、では、壊したガラスの掃除も終わったし行こうかルシヴァくん!」

ブリザリオ伯もとい、変なおじさんに肩を掴まれ、無理矢理部屋へ招き入れられた僕。


 扉の先には……猫がいた。


「うわあぁぁ可愛いい!」


僕の目の前にロックス領にしかいないレアな魔猫スピカが!

しかも黒色⁉︎

スピカの中でも更に稀少なスーパーウルトラ激レアな魔猫がああああ。


「え?ちょ、待って、ええ?嘘ぉ」


一人大興奮している僕。ハッとしてクルッと振り返ると、若干引いてるブリザリオ伯の笑顔。


「お、おお、ルシヴァくんは猫が好きなのか?」

「はい!この子は魔猫スピカですよね?あの、撫でてもいいんでしょうか?」

「ああ、構わんよ……撫でられたらだが」


「?」

撫でられたら?

ブリザリオ伯の言葉を訝しむも、僕は黒いスピカに手を伸ばす。

しかし、僕の手が触れる直前、黒いスピカの身体がまるで煙のように霧散した。


「な⁉︎」

驚いた。

これはこの魔猫の魔法か?

僕が手を引くと、霧散した部分が瞬時に元に戻る。


「ヌハハハ、やはり君でも無理か。いや、そのスピカは特別気難しい子でな、我が家でも懐いているのはベルファゼートだけな、ぬー⁉︎」


ブリザリオ伯はこっちを見て驚いている。

それはそうだろう。

何故なら今、僕の手の中に先程霧散する魔法を見せたスピカが抱っこされているのだから。


「ど、ドドドド、どうやったのかね?」

「愛です!」

「愛とな!?」

これは本当。

だけどスピカを捉えたのは僕の"紋章の力"が関係している。


信じられないものを見たと言うブリザリオ伯。

そこにお色直しを終えた、ベルファゼートとロックス夫人が姿を現した。


「どうなさったのあなた、髪が生えたハゲタカみたいな顔して」

「いや、あれ……」


ブリザリオ伯の指さす方を見て、驚いた顔のベルファゼート。

「ルシヴァ様⁉︎ニュウを抱っこすることができるのですか?」


「この子の名前かい?ニュウって言うんだ、可愛いね」

「ふふふ、やはり逸材、わたくしの見立ては正しかったのですわ」

夫人の見立てはわかりませんが、僕はこの猫ちゃんを抱っこできる能力を持つ自分の紋章の力に感謝した。


それにしても、ベルファゼートは相変わらず俯いてしまっている。

大丈夫かな?

体調悪いのだろうか?


「いやぁ、君には驚かされてばかりだな、まあいい、何はともあれ夕食だ。さあ、食堂へゆこう!」

ブリザリオ伯に案内され、僕達は夕食の席に着いた。


「ロックスの試練?」

「うむ、我がロックス家に代々伝わる嫁入りの儀式の名をそう呼ぶのだよ」

ブリザリオ伯が深刻そうな顔でそう説明するが、僕は膝にニュウを乗っけて、満面の笑みを浮かべていた。


「試練には紋章継承前のロックス家の女とその伴侶になる男の二人だけで挑まねばならず、試練の場となるダンジョンの中では、魔法が使えない」


「魔法が使えない?と言う事は?」


「わたくしは戦力にならないと言う事ですわ!」

……と、ベルファゼートが言うが、何故ドヤる?


「代々ロックス家は魔法使いの家系。特に女子は偉大なる先祖であらせられる、魔女マリアンナ様の力を強く受け継ぐのです」

夫人もドヤる。


「でも、そこでは魔法使えないんですよね?」

僕のその言葉にロックス家の3人が同時に溜息をつく。


「それがこの試練が難問と謳われる要因なのですわ!魔法が使えないのは勿論ですが、このダンジョンに住まう魔物は大型の魔獣系が多く、とにかく頑丈で物理攻撃では威力が半減してしまいますの」


「となると……対抗しうる手段は"紋章の力"という事ですか?」

「ええ」

頷く夫人が、続けて言葉を紡ぐ。


「ルシヴァ様は紋章の力についてどれ程存じてますか?」

そう尋ねられ、僕は知りうる限りの知識を思い返してみた。


「一応、この国の成り立ちから紋章の使用方まで基本的な事は把握してるつもりです。以前、紋章についての本を書いた事があるので」


「まあ、それはすご「そうです!"わたしと紋章と貴方"わたくし読ませて頂きましたわ!」


 夫人の賛辞に被せて、ベルファゼートが物凄い勢いで割り込んできた。


「今までの恋愛小説にはなかった紋章というアイテムを取り入れた斬新なアイデアに驚いたのは勿論ですが主人公の少女が抱える過去とそれに立ち向かう主人公の身分の差を乗り越えた純愛にわたくし打ち震えましたのでもそれだけではありませんわ紋章についての知識量の凄さにも感銘を抱きましたのあれ程キチンと調べて執筆に望む作者様の姿勢は尊敬する以外ありえませんそしてそして……」


怖っ……止まらない、ベルファゼートの僕の著書へのガチ批評。


「ふふふ、ベルったら抑えてた想いが溢れ出てしまったのね」

「抑えてた?」

「あの子、ルシヴァ様の著書の大ファンですの」


⁉︎え?ちょっと嬉しい……怖いけど……


 「ああなったら止まらないからな。取り敢えず我らは食事を済ませ、ルシヴァ君は部屋を用意しよう。今夜はゆっくりと休んでくれたまえ。早速で済まんが明日、試練の洞窟へ案内しよう」


「明日ですか?随分急ですね」


「うむ、少し気にかかる事があってな。杞憂であってくれれば良いのだが」

「あなた……」


表情を曇らせたブリザリオ伯と夫人。

その後、食事を終わらせてから、まだ一人喋りをしているベルファゼートを放置し、黒魔猫のニュウに別れを告げた僕。


 館の一室をあてがわれ休む事になった。

明かりを消し暗くなった室内。

僕はその闇の中で紋章についての知識を思い出してみた。




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