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序章「夜を駆ける」

 

 夜を駆ける。漆黒の甲冑が、夜を駆ける。


黒に塗りつぶされたかの様に周囲の闇に溶け込みながら、わたしはある”モノ”を追いかけていた。


 それは我が愛すべき領地オルランドで暮らす民に仇なす存在。

国逆という危険すぎる思想の元、欲望と本能のままに暴れる狂った獣。


 それを発見したのは夜の繁華街。

わたしに気取られたと察知した奴さんは

その喧騒からだいぶ離れた人気のない路地裏に逃げ込んだ。


 遂に追い詰めた。

さあ、狩りの時間だ。 


 「もう逃げることはできんぞ」

暗い路地裏の行き止まりへと伸びる黒い闇に向かって、わたしは言い放った。



 その言葉に反応してか、眼前の暗闇に潜む異形が月明かりの照らすこちらへゆっくりと向かってきた。

その風貌はまるで蛸の様、まったく感情の読めない瞳でこちらを睨みつけてくる。


 「くそったれ、しつこいんだよお前。大体何で人間がこの俺様の足に着いて来れるんだ!どう考えてもおかしいだろ」

怯えと怒りの入り混じった声でそう言って、自分の脚を指差す蛸。

人間のそれではない幾つもの触手がコイツの自慢の脚らしい。


 目の前にいる異形、それは魔獣と人の合成生物。


 ”敵-ヴィラン-”


 「おかしい事など何もない。わたしは駆けっこが大得意。それだけの事だ」

「それがおかしいって言ってんだよ、俺ってばこれよ?脚、触手よ?言ってて悲しいけど化け物よ?なんでそれより脚速いのよ?ってか、何なんだよお前」


 ……悪い事をした。

別に悲しませる気はないのだが、わたしは本当に駆けっこが得意なのだ。

まあ多少、反則とも言えるチカラでブーストが掛かってはいるのだが……


 それより、わたしが何者かと尋ねていたのだったな。

よし、自己紹介してやろう。


 「我が名は暗黒騎士ヴァルス!オルランド領に蔓延る悪、貴様らヴィランを狩る者だ。」

「え?誰?」


 ……む?いかんな。この返され方は予想外だった。

わたしを知らない?

これまで結構ヴィランを狩ってきたのだが、まるで名が広まっていないのか?


 「わたしを知らぬのか?」

「ああ」

「まったく?」

「まったく」


 ……気まずい沈黙。


 まてよ?そう言えば、これまでヴィランを狩る時に、自分から名乗った事がなかったかもしれん。

それに、一度認識し対敵した奴をわたしが逃すはずもない。

確かにこれでは情報伝達の仕様がないな。


 「あっ、そう言えば仲間内で、最近姿が見えなくなったヤツがいるって言ってたけど、お前の仕業か?」  


 うむ、それそれ、その通りだ。

私が無言で頷くと、蛸のヴィランは臨戦態勢を取り始めた。


 「そうかい、じゃあ、はじめっから全部使ってやるぜ」

蠢く無数の触手。

先程、わたしの追跡から逃げていた時よりもその数は圧倒的に多い。


 「何故先程の逃走時にその姿にならなかった?」

「奥の手は隠しとくモノだからな。それにこの姿は身体への負担がデカすぎる」

なるほど。

ヴィランも万能ではないらしい。


 「蛸よ、汝の魂に救いが有らん事を願う」

わたしは腰に下げた鞘から剣を引き抜き、胸の前に掲げて祈った。

異形まで堕ちた、目の前の生命との別れに敬意を表して。


 「蛸じゃなくてダゴンな、魔獣ダゴン!俺様はダゴンの合成獣……名前は忘れた」

「いくぞタコン」

「ダゴン!」 

蛸の怒号を皮切りに始まった殺し合い。


 タコンは全部使うと言った。

ならばわたしもそれに応えよう。


 そう心に決めた次の瞬間。

さっきの追跡時も使用した暗黒騎士の奥義、暗黒ヂカラを解放した。


 わたしが纏っている漆黒の甲冑。

その肘、背、脹脛、頭、胸、それぞれには、意匠の様にして孔が設けてある。

それはわたしの放つ生命エネルギー暗黒ヂカラの噴出口。


先程タコンを追跡した際は脹脛の噴出口から暗黒ヂカラを排出して、加速力を大幅に強化した。


 そして、ここからはわたしの戦闘力を何倍にも増幅させる為、全身の噴出口から暗黒ヂカラを出力させる。

「はっ!」

わたしが力を込めると漆黒の甲冑から勢いよく吹き出して、全身を包み込む様にたゆたう暗黒ヂカラ。


「なんだよそれ、お前の方がよっぽど……バケモノじゃねえか」


 未知の力への恐れからか、震えるタコンがそう言うや否や。

わたしは鞘に納められていた暗黒剣ラグナを抜剣した。


抜剣術"夜斬(よぎり)"


 黒一閃。


 その次の瞬間、剥き身となった切先がすでに斬るべき対象の向こう側へと行っていた。


 「……なんて夜だ」


 そう呟く彼には剣の軌道が見えていただろうか?

「汝の魂に救いが有らん事を祈る」

この、祈りの声は聞こえただろうか?


 わたしは魔剣を鞘に納め、その場を後にした。


 魔獣と融合した人間、ヴィランの末路は非情だ。

魔獣の強大な力を得るのと引き換えに、彼らはいつ訪れるかも知れない肉体の崩壊を運命付けられている。


 そんな刹那な生命が尽きた時、その亡骸がこの世に残る事はない。

まるで、その命はなかったかの様に、跡形もなく消え去るのみ。

これが神をも恐れぬ所業の顛末だとしたら、なんとも後味の悪い話しだ。


 路地裏から出たわたしの目に、眩い光が飛び込んでくる。

いつの間にか太陽が昇り始めていた。


 また今日も夜が明けて、我がオルランド領の一日が始まる。



軽いノリで考えたファンタジー小説です。気楽に読んでいただけたら嬉しいです。

このお話はR15です。

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