15年の短い命
中学三年の夏。
教室の隅の席で、窓から入る光を見てた。
暑くて、眠くて、数学のプリントの数字が、全部にじんで消えた。
でも私は別に、泣いてたわけじゃない。
ずっと前から決めてた。
高校生になったら、死のうって。
たぶん、小学生のときにはもう決めてたと思う。
なんでかっていうと、私はバカだから。
テストの点数も悪いし、塾は私には合わなくて、先生の声はいつも、頭の外側を通っていく感じ。
みんなみたいに「志望校」とか、話す資格なんてないと思ってた。
だから、中高一貫の私立に入った。親は何も言わずに私立に入れてくれた。
誰も気づかないけど、私の中ではそれがすごく大事だった。
“バカだから、生きてちゃだめ”って、ずっと思ってた。
友達はいたけど、私がその場にいなくても、別に困らないような子たち。
家では親が仕事でいなくて、夜はテレビが勝手にしゃべってる。
死ぬ準備はしてた。
具体的じゃないけど、場所とか、時間とか。
ノートの隅に「4/7予定」って書いた。
高校の入学式の日。
どうせ誰にもバレないと思った。
でも、4月7日はちゃんとやってきた。
制服に袖を通して、駅まで歩いた。
死ぬ前に一回、どんな場所か見てみたくなった。
なんとなく。
校門のところで、高校から入ってきた子に呼ばれた。
話しかけられたのはそれだけだった。
でもその子が「一緒に行こ」って言ってきたから、うなずいた。
教室の席に座ったとき、斜め前の女の子がくるっと振り向いて、
「ねえ、出身どこ?」って聞いてきた。
普通にしゃべって、笑って、名前を教えてくれた。
私も名前を言った。
それだけのことだった。
でも、予定してた“4/7”は、なんとなくやめた。
帰り道で、制服のポケットの中に入れてた小さな紙を丸めた。
ノートから破った「4/7予定」って書いた紙。
それを、駅のごみ箱に入れた。
風が吹いてた。
春の風だった。
明日も話しかけてくれるかな?