ゴリラ・ゴリラ
高校生の会話なんてくだらないものだ。
今日は10月のくせして気温25度を超える立派な猛暑日。目の前の男はハンディーファンを制服の中に入れて、マッチョポーズしている。ただでさえゴリラみたいな顔をしてるのに、そんなことしたらまるでゴリラ・ゴリラじゃないか。
ゴリラ・ゴリラこと、常川風雅は7列目1番後ろという素晴らしい席を得ておきながら、毎休み時間ごとに1番前の席まで遊びに来る。まあ、友達が前の席にいるってのが理由の6割くらいを占めてるんだろうが、私は残り4割に気づいている。というか、分かりやすいので2-Gクラスみんなが気づいている。
「ほんま常川アホすぎるやろ」
甲高い声で常川の不様な姿を笑ってるのはうちのクラスの美女、愛花とかれんだ。
「あいかれん」の愛称で他クラスの女子から憧れられる2人は、たぬき顔・きつね顔、低身長・高身長、骨格ウェーブ・骨格ストレート、ブルベ冬・イエベ春…など、まるで漫画の設定のような見事な二項対立となっており、初めて会った時は感動した。しかもこれで性格はそっくりなのがまたおもしろい。
常川の狙いはたぶん愛花だろう。かれんには3年生に溺愛ラブラブ彼氏がいるのは、この高校の生徒なら常識なのだから。体育祭の借り人競走の時、お題の「好きな人」を引いた彼氏が、一目散にかれんをお姫様抱っこしてゴールした姿は恋に恋する高校生には眩しすぎるくらい輝いて見えた。羨ましい。
四日市、菰野から8割の生徒が集まるうちの高校は、鈴鹿や桑名から来る生徒は少なく、方面が同じというだけで仲良くなりがちだ。愛花と常川は隣の中学どうしだったはずだから大方そんな感じで仲良くなったんだろう。やるじゃないか、常川。
常川は特進コース(うちの高校は普通科普通コースの他に、文系と理系それぞれ1クラスずつ特進コースがある)の中でも5本指に入るくらい賢いし、所属している陸上部ではリレーのアンカーを務めるし、ノリが良く、男女分け隔てなく話せる。
ただ顔はゴリラとカバのハーフみたいな顔なのだ。アン○ンマンならカバ○くん、ド○えもんならジャイアン、クレ○ンし○ちゃんならな○こおねえさんの友達に似ている顔なのだ。そんな常川と学年の美少女である愛花が釣り合うとは到底思えない。美女と野獣実写化という言葉が誰だって思いつく。
ちなみにこれだけボロクソに言っているが、私は常川が嫌いなわけではない。クラスでの様子を見る限り、好印象しか抱いたことは無い。彼は性格が良いと素直に言える。
顔も、不細工な顔だとは思わない。ゴリラやカバに似てるっていったって、背が高い人に背が高いなーって思うのと同じノリで似てるなーと純粋に思うだけだ。(それが酷いのかもしれないが)
ただ高校生という期間は見た目でのアドバンテージが大きいのだ。イケメンには大抵すっぴんでも可愛いような自然体な可愛さの彼女がいて、美少女にはオシャレでそれなりにイケてる顔の彼氏がいたりするのだ。似ているものと言えば美男美女俳優が出るような人達が青春のトップを掴むのだ。現に、愛花はアイドルグループセンターの子に似ているってよく言われている。似ているものがギャグ漫画や動物ではこの世界で生きていくためにはちょっと厳しいのだ。常川も、私も。