兄の交友、遠き思い出
花村 奈々 春菜の幼馴染
金谷 凛 花村奈々の友達
今日は兄のテンションが変だ。いつも落ち着いている兄と比べると異様な程に上機嫌だった。
「秋人…そのテンションで行くの?」
「え?いつも通りじゃない?」
「いえ、その…お母さんはいいと思うわよ?でも多分いつもよりもテンションが大分高いから…」
「いつも通りだって、今回の校外学習で行くところだってたまにだけど普通に遊びで行くところだよ?春菜は俺の事いつも通りだと思うよな?」
「いやぁ、普通にテンション上がりすぎて変になってるよ」
「春ちゃんに聞いても意味ないわよ、秋人って昔からこういうイベント事大好きだもの、分かりやすいのよ」
「遊びに行くのと変わらないって、まぁいいや!行ってきます!」
「は〜い、行ってらっしゃい」
兄が入学して1ヶ月が経ち、今日は親睦を深めることを目的とした校外学習の日だった。兄の異様なテンションに当てられ私は昔のことを思い出していた。
「お母さん!準備できた!」
小学三年生の遠足。私は幼馴染の花村奈々ちゃんと小学生に上がってから初めて同じクラスになったこともありとても上機嫌だった。
「あらぁ、偉いわねぇ。うん、ちゃんと全部入ってるわね、お菓子はお母さんが入れといてあげるわ、今日はもう寝なさい。明日は楽しんでおいで」
母に最後の確認をしてもらい私は眠りについた。
………
「ねぇ、奈々ちゃんどうして?」
当日私は奈々ちゃんとケンカしてしまった、きっかけは奈々ちゃんの友達の凛ちゃんだ。
「何が?別に良くない?いちいち何なの?優等生気取り?」
「違うよ!でもダメだよ!ちゃんと事前にルート決めたんだからその通りに動かなきゃ!それに何で凛ちゃんとばっかり喋るの?初めて行動班一緒になれたからいっぱい話しながら周ろうって言ったじゃん」
「さっきからさ、私が凛ちゃんと喋っちゃダメなの?ていうかさ、班長の凛ちゃんが違うところ行きたいって言ってるんだから班員の時永さんは従うべきじゃない?」
小学校に入ってから奈々ちゃんはとても変わっていた。「何で苗字で呼ぶの?さん付けするの?」
苗字で呼ばれた私は幼馴染との壁に気づいてしまった。もう既に友達でも無いと気づいてしまった。
……
あれからもう6年かぁ早いなぁ。
あの日以来私たちは疎遠になってしまった。同じクラスになったことを喜び合い、毎日のように喋っていたのに、一切の会話もしなくなってしまった。
「お兄ちゃんはそうならないといいな」
20時兄が帰ってきた
「おかえりなさい。ちゃんと帰ってきたわね。偉いわぁ」
「そりゃ、俺から門限今日だけ伸ばしてって頼んだんだから伸ばしてもらった門限には間に合うように帰るでしょ」
何かあったのか、遊び疲れたのか、朝の上機嫌を想像出来ないほどにテンションを落として帰ってきた。
「どうだった?楽しめた?」
「楽しかったよ、校外学習のルートだからって普段通らない道も通ったしそれで色々あってさー」
「それなら良かったわ。お風呂湧いてるから先に入って来ちゃいなさいご飯はその後ね」
「わかった。ありがと」
落ち着いていたが、とても楽しそうに話す兄に私はホッと安堵した。
「良かったねお兄ちゃん」
あの日上手くいかなかった私とは対照的に上手くいった兄を私はしっかりと見ることが出来ず、私はいつもの場所に戻ってしまった。
「おかしいなぁ、嬉しいはずなのに…望んでた通りなのに…」
涙が溢れて止まらなかった。自分が望んでいた結果に心の底から喜んでいたはずだ、それなのに。
「そうだ、きっとこれは嬉し泣きだ、間違いないね」
自分の喉にも通らないようなそんな結論を、私は無理やり飲み込んだ
ひと月の間に2エピソードも…奇跡だ