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競馬場で会いましょう  作者: 伊島尚希
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府中競馬正門前

 小早川由香は疲れていた。

 そう疲れ果てていた。

 だが疲れ果ていても、会社にはいかねばならぬ。

 その一心で昨日仕上げた書類とともに出勤をしているのだった。

「今日は運よく座れたな」

 空いた目の前の席に座り、そう一心地ついた時にようやく気付いた。

 今日は土曜日であったことに……。

 道理で今日は電車が空いているはずだ。

 サラリーマンも学生もそう多くはない。

 今頃、その事実に気づいた由香の目からは涙が流れるのであった。

「おい姉ちゃん、大丈夫か」

 と目の前のおっさんが気遣う。

「いえ、大丈夫です」

 そういうと由香はふらりと席を立ち、次の駅で逆方向の電車に乗るためにドアへ向かうのであった。


「何しているのかな……」

 由香は大学を出て社会人になって2年目である。

 会社での業務に追われ、日々を何とかやり過ごすことを生業としているがもう抱えている仕事で精神はパンク寸前だ。

 自分の勤めている会社がブラック寄りだとは心にも思わない。

 友人も少なく普段から人と話す機会の少ない由香はそれに気づくことすら困難だったのである。

 自宅に戻る電車へ乗り換える。

 土曜日であった安堵と膨大な残務への重圧でもうどうしてよいかわからぬまま席に座る。

 各駅停車ではあったが今どこの駅であるか把握する余裕は……なかった。

 最寄りの調布を通り過ぎたことにも気付けず列車は進んでいく。

 見覚えのない車窓の風景にようやく気付く。

 ちょうど放送で次は東府中であると知ったが、まぁもうどうでもよかった。

 東府中に着いたらもう一度乗り換えよう…。

 電車も満足に乗れないなんて本当に無能だと心の中で自分をなじる。

 そして東府中で電車を降りた由香はちょうど正面に来た電車へ飛び乗ったのだった。

 またぼんやりとしていた由香は電車が終点についた放送を聞いてハッとした。

 ほんの少し乗っていただけのつもりだったが、寝過ごして新宿についてしまったと思ったのだ。

 が……正面に広がるだだっ広い、やたらと広いホーム……。

 そこには「府中競馬正門前駅」と書かれた駅名標。

 ホームに降り立った由香は思うのだった。

「え、競馬場?なんで?」

 そう、先ほどの反省もむなしく由香は、また電車を乗り間違えたのであった。

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