【序章】夢現
さて。何はともあれ、生きていたからにはなんとかここを脱出したい。
というわけでまず人の上でわーわーと騒いでいる彼をどうにかしなければいけないと思う。
今の短いやり取りでわかったのは、どうやらあたしは誘拐犯から逃れられて、助けてくれたのが目の前の彼で、その彼はとてつもなくアホだということ。
自分でもびっくりするほど思考回路が冷静に働いてくれているお陰でさっさと結論が出てくれた。
火事場のなんとやら。普段からこーゆー思考回路だったらいいのだろうけど。
「どいていただけますか」
「なんで」
本格的にアホだと思う。
タイプ的に女の子大好きーな人だろう。とりあえず誰でもいいよ的な、夜遊びえぶりでー的なむしろえぶりでーがさんでー!!的な人に違いない。
「そーゆーこと言わないでよ。俺悲しいなー」
あたしが無言でいることに痺れを切らしたのか、相変わらず不謹慎な体勢のまま彼は言った。
「でもホンット、無事でよかった……マジで会いたかった」
一応心配はされてるみたいだけど、不謹慎な体勢のままそんなこと言われてもちっとも嬉しくない。言われる筋合いもないのだが。
「てゆーかさ、何事も経験なんだし。この際だから俺で試してみれば?」
「……はい?」
彼は何をおっしゃっているのただろう。えぶりでーがさんでーな人の意図は全くわからない。
「悪いようにはしないっての」
なんだかこの人が言うといかがわしく聞こえるのは何故だろう。……あぁ。えぶりでーがさんでーな人だからだ。
「どいていただけます?」
「だからどうして」
「どうしてもです」
「俺は理由を聞いてるの」
「知りません」
「あ。恥ずかしいのか」
この意味のない無限ループはいつまで続くんだろう。あ、無限だから無限に続くのか。
「やっぱ紅ってウブなんだなー」
「は?」
「あーあ。怒こられたー」
えー、すおうくれない。かんにんぶくろのおがキレマス。
さん、に、いーち
「てめぇ調子乗っ「……朽ち果てろエロ魔神」
一瞬だけ女の子であることを忘れさせてもらって、お下品だけども男の子の急所と呼ばれる所を暴言混じりで蹴り上げて差し上げようとした、正にその時。
謎の声と共に、瞬間的に目の前から彼が消えた。