【序章】白昼夢
「んー(ふわ……ふわ?)」
ベッドの感触だと気付くと安堵からか再び睡魔がやってきた。
「(んん〜やっぱりベッドはふわふわのふかふかのサラサラで、いい感じにあったかくて重くて)」
そこまで考えて、ふと違和感を感じた。温かいのはいいとして、布団はこんなに重かっただろうか。身動きも、取れないほどに。
「は……!?」
途端にあれだけ脳内を支配していた睡魔はきれいさっぱり消え去った。
「(目、開けなきゃよかった……いやいやいやだけど!!もしかしたら錯覚なんてことも)」
とりあえず目を閉じて、冷静に、状況を整理しよう、と言い聞かせてみる。
今僅かに見えた室内は白くてまばゆくて、天井が高く高級感溢れる雰囲気だった。つまりここは他人の家ということになる。それは百歩譲って良しとしよう。とりあえず生きてはいたから。
けれど。
「(おかしいでしょうよ……あたしはまだ純粋なハズ、てゆーか純粋だよ潔白だよ当たり前だよ!!なのに……なのにっ)」
現実は悲しいものだ。
「(なんで知らない男の人があたしに抱きついて寝てるのぉおおおおっ!!)」
状況が状況なだけに、漏れそうになる声を抑えて盛大に心の中で絶叫した。
仰向けに寝ているあたしをがっちりと、抱き枕さながらにホールドして寝息を立てているその人の顔はあたしの肩口に埋まっていて見えない。それと彼が半裸だったのは脳内から削除しようと思う。
それよりもそろそろこの体勢もキツくなってきた。ホールドを解除するにはまず彼の手を剥がす必要がありそうだ。
「……、」
「ん」
「(っとっとー、起きる!?)」
「……」
「(よーしよしよし。そのまま寝ててくれよー)」
「……」
我ながら素晴らしい根性だ。
左手は解除。残るは右手。
「……」
「(左手は持ったまま、体をゆーっくり抜いてー)」
「……」
「(あとは体を抜くと同時に左手を離し)」
て、逃げる筈だった。
「オハヨー。んでもって何で俺から逃げようとしてるの?」
あと一歩だった。それが一気に危機的状況へ逆戻り。誠に残念なことに、体勢もさっきと同じに逆戻り。
恐る恐る視線を上げると、にっこりと笑った彼がこちらを見下ろしている。その笑顔が妙に怖いのは何故だろうか。
「何気に危なかったんだよ?俺が奴らに気付いてなけりゃあ〜今頃……」
そう言って明後日の方向に視線を向けた彼は遠い目をしている。
「ま、助かったからよかったけど!!」
視線を戻した彼は、また満面の笑みを浮かべてわしゃわしゃとあたしの頭を撫でた。
その笑顔には、さっきのような怖さは感じなかった。