【序章】近づく足音
パソコン室に籠もること2時間弱。
「(もう飽きたっ)」
結局課題は半分も終わっていないけれど、既に9時を過ぎている。
「(帰ろー)」
やっと長い一日が終わった。
けれどこれから極寒の中を徒歩で帰らなくちゃいけないのかと思うと泣けてくる。いっそのこと学校に泊まれれば楽だろうがやはり自分のテリトリーが一番だ。
「(よっしゃあ〜おうちに向かって出発だーい!!)」
そう意気込んだまではよかった。
既に廊下は暗く暖房も切られているのか寒かった。こういう時は早く外に出るに限る。
この学校には出入り出来る場所が多く、エレベーターのあるこの場所は降りるとすぐに正面玄関に出る。
「(んー?)」
自動ドアのその先。暗がりでよく見えないけれど、街灯の下で何かがちらついている。
「わお」
まさかと思い、急いで玄関先に行くと見事ビンゴ。
「(雪だー)」
冬の代名詞、今年初の雪がはらはらと降っていた。恐らくこの寒さで今朝の雨が雪になったんだろう。
「(でもまぁ雪を堪能しつつ帰るのも風流かも)」
そう思い直してあたしは外へと踏み出した。
今年で2度目を迎えた都市郊外での初雪は、田舎のそれとはまたひと味違う近代的でアットホームな風景を見せてくれる。
特に学校と家の中間位にあるこの道は、なだらかな坂道に沿って桜の木が並ぶお気に入りの場所だ。ここを通るたびに、あの桜とこの雪が同時に見られたらなと思う。
「(こう、今は枯れてるけど桜が満開になってて、雪は降ってるんだけどお天気雪的なのでー、親子連れとかが歩いてて、あたしもその中にいて、前にはスーツの人がい……て?)」
ご機嫌に歩いていたあたしの前に突如として現れたのは黒いカタマリ。
「……捕らえろ」
「御意」
「(うそ)」
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
「(嘘でしょ)」
ゆっくりと見上げれば、それは人のカタチをしている。おまけにスーツとサングラスを着用、身長も高く痩せて見えるときた。
瞬時に脳裏に浮かんだのは今朝BGMも同然に聞き流していたアレだ。
『女子大生連続誘拐未遂事件』
漸く自分がとてつもなく危機的状況にあると判断した瞬間、男の1人は歩を進めた。その歩き方は何故か優雅だけど、言い表せない威圧感に満ちている。
「っ……!!」
その人とサングラス越しに目が合うと同時に漸くあたしの足も動いてくれた。