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紅の末裔  作者: みるく
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【1章】博徒達の攻防

とりあえず中に、と招かれた先は階段を上がった正面、あたしが朝ごはんを食べたあの場所だった。



『なーがーめぇ!!』



部屋に入ろうとすると、前を歩いていた霖が階段の下でフサフサと尻尾を振るクアレに気付き、足を止めた。



当のクアレは元気が有り余っているらしく、その瞳は『今すぐ遊ぼーすぐさま遊ぼー』と言わんばかりだ。



「今日は行かねーよ」


『えぇー!?』



偶然か必然か、落ち着き払った霖の返答は的を得ている。



そしてアゲアゲなテンションとは対照的な答えに、フサフサの尻尾は一瞬にして力なく垂れ下がってしまった。



『なんでどうして!?たつみは?』


「アイツはバイト。……今日も遅刻してたけどな」



それを聞くなり何か諦めたらしく、くあーと大きな欠伸をかいた。やはり今の会話は遊びの誘いだったようだ。



『……テンチョーも大変だね』



少し拗ね気味に言い残すと、定位置に丸くなり途端に白いカタマリとなった。巨大クッションに見えるのはあたしだけだろうか。



そして飛んだり跳ねたり落胆したりと忙しないブラックフォード家のペットが大人しくなると、急に辺りも静かになった。



「……なにしてんすか」


「あ、ごめん」



いつの間にか部屋へ入っていた霖は扉からひょこっと顔を覗かせていて、あたしは我に返った。



あまりにも自然でアットホームな会話だったから動物が喋るっていう奇跡的な事実を華麗にスルーしそうにな――というよりしていたけれど、最早この世界においてあたしが生存していること自体が奇跡的だから、敢えてスルーしようと思う。



それよりもこれから何が起こるのかが謎過ぎて困る。



とはいえブラックフォード家にいる時点であたしの身の安全は保証されない確実に。だからとは言わないけれど何が起きてもとりあえずいろんな意味で強そうな霖を盾にしようと思う。



「……あ、それとヘタに話すと大変なことになるんで」


「……へ?」



未だ扉に挟まれたまま急に小声になった霖は、気のせいか少しだけ真剣に見える。



ヘタに話す、というのは文法のことなのか。急に言われてもこっちが面食らうだけだ。



「気合いで」


「えっ」



けれどそう言った次の瞬間には扉が開かれていた。なんだか様子がおかしい。



「ちょっと!!」



そそくさと部屋の中に姿を消した霖を再度呼び止めようとした、その時だ。



「ハイきたホンロートー!!」



霖の『なが』まで出かけたところで、やけにハイテンションでご機嫌な叫び声にあたしの声はかき消されてしまった。



もちろんその瞬間呆然としたあたしは、幸い部屋の外。且つ扉が全開になる前だ。



そうなればやることはひとつ。迂闊に部屋に侵入するなんて自殺に等しい。



「(何がいらっしゃるのかなあー)」



この若干切れ気味になりつつ扉から丁度中を覗ける位置へ移動している間も、部屋の中からはジャラジャラカチカチカションカションという音が絶えず聞こえてきているという状況にある。



「あぁ……っ親が……俺のビクトリーが……くそぉっ!!」


「つか一九字牌ほぼ皆無なのにイーワン出すか?」


『やーいフってやんのー』



聞こえてきたのは悔しそうに叫ぶ少し図太い感じの声と、恐らくさっきあたしの邪魔をした人の余裕綽々な声と、あとはまだ幼さが残る高い感じの声の3種類。ちなみに全て男だ。



「てめぇこうや!!お前俺の役満をどーしてくれんだ」


「知らねーよやくまんだろーがあんまんだろーが俺のホンロートウに負けたのは事実だろ。文句ならフったヤツに言え」


「おいしれん!!お前俺の役満どーしてくれんだ」


「いやどーみたっておかしいだろうよ俺ぁ麻雀に興味ねーしやり方しらねーしこんな紙っぺら見てやれって言われたって出来るわけねーだろテメーらバカか人数調整なら霖がいるだろ!!」


「「いや、ながめはガチでカモるから嫌だ!!」」


「……雀荘破りなら諭吉三枚で請け負いますけど?」


『てかアレー?ながめんお一人?』



さっきの三種類に加えて『しれん』と呼ばれたチャラそうな声の人と霖、全部で五人この部屋の中にはいるようで。とりあえず、最早コントの域の会話からはただいま麻雀大会の真っ最中だという事実が判明した。したところで何の解決にもならないのだが。



それよりも人相を確認するのが先決、と思った矢先。



「こンのアマ……どの面下げて戻って来やがった……」



背後からは聞き覚えのある声。そして知ってる悪寒。



一瞬にして冷えた頭でゆっくり振り向くと――



「(ヤバいあたし死ぬ)」


「なんとか言えよ……紅」



ワイシャツに黒のパンツ、オマケに眼鏡で無造作ヘアという完全オフ姿のレスターブラックフォードがあたしを見下ろしていた。

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